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第七十七話 侵入する悪魔

 ──数分前 ラウム宮殿セーフハウス内


 アグレアイオスは現場から送られてくるリアルタイム映像を見ながら、心の内で歯噛みする。

 それ程仲良くはない級友達ではあるが、目の前で怪物に殺され、グールにされた者まで居る。

 自業自得の面はあるとしても、多少なりとも心が疼いた。


 出現した怪物は手強いようだが、隊長格の中でもトップクラスである2人ならば、時間をかければ倒すことは可能だろう。

 街への被害をどれだけ抑えられるか、が問題ではある。


 そんな心中を見越したのか、マリアがアグレアイオスの袖を引いた。


「総長閣下、貴方なら一瞬であの場を収められるのでしょう?」


 アグレアイオスは首を横に振りながら答える。


「殿下…… 私はここを離れる訳には」


「貴方の級友が酷い目に遭っていると聞きました。すぐに行ってあげてください」


 心中を慮った提案ではあるが、もちろんここを離れる訳にはいかない。


「いえ、はっきり言いましょう。私の最優先警護対象は貴女です。殿下。他の事象に構っている余裕はありません」


 マリアは穏やかな目で、アグレアイオスを見つめる。


「……総長殿 ここには貴方の信頼する配下や、我々ズィーゲンの精鋭もいます。ここは隠し部屋であり、緊急の地下通路も近い。如何なる状況にも対応出来るはずです」


「殿下……」


 じっと見つめてくるマリアの瞳と、街の安全を秤にかけながら、アグレアイオスは葛藤する。


 ラッセルとシェルドンが会話の間に入り、彼らなりの提案をしてきた。


「総長、私も殿下の意見に賛成です。巨鳥を使えば10分で行って帰って来れるはずです。確かにネスが何をやってくるかは知れませんが…… 万一にも街中にグールを撒き散らされるわけにはいきません」


「オラたちも居るだ! 総長! フランクスの野郎や、奴についていった奴らはムカつく奴らだ……! でも、なんか……! こんな酷い目にあわされてるとムカつくだ!」


「ラッセル……! シェルドン……!」


 腹心であり、同じく同級生である彼らにも説得され、アグレアイオスはますます逡巡する。


 そして、映像を見ながら特に頭を抱えていたバルザックが今までに見た事のない憔悴した表情でアグレアイオスの手を取ってきた。


「……アグレアイオスくん すまない! 恥を承知で頼む! フランクスを! あのバカを助けてやってくれ!」


 どんなに愚かであろうと、いや、馬鹿だからこそあの甥が可愛いのだろう。

 その肉親の情に絆され、アグレアイオスは決断した。


 マリアの目を見つめ、アグレアイオスは一時ここを離れる意志を伝える。


「……殿下 この場を一時離れることをお許しください。10分で戻ります」


「もちろんです。貴方の心のままに」


 アグレアイオスは硬い表情のまま腕を組むマサヒデにも詫びを入れる。


「申し訳ない、バンクス中将殿。護衛隊の皆様。この場は任せてもよろしいでしょうか」


「ふん! 行ってこい。ワシらが殿下に何者であろうと指一本触れさせはせん。この非常時にあのクソババアはどこ行ったかわからんがな!」


 渋い表情のまま、マサヒデは了承する。

 それにしても、ゾーラの姿が見えないのは気になるが、今は彼らに任せるしかない。


「すみません、殿下、もし不足の事態があれば、どうか皆の言うことを聞いてください」


 アグレアイオスがそう言い残し、去るとマリアは頬を膨らませる。


「……私、そんなに心配されるほど素行が悪いですかね」


「え? ご自覚されておられない?」


 大げさに驚いたような顔をするカリンを睨みながら、マリアは憮然とする。


「……カリン! 直截にものを言う側近を持って私は幸せです!」


「怒った顔も可愛いですよ、マリア様」


 クスクスと笑いながら、カリンはマリアの髪にそっと触れた。






 ◇






 旋回する巨鳥の背で怪物が完全に消滅した事を確認し、アグレアイオスは操縦士に指示をする。


「すぐに宮殿に戻ってくれ。顔も見せずに第二部隊と第三部隊には申し訳ないがな」


「了解しました」



 地上では、去っていく巨鳥を見てリュディガーが大声で怒号を放っていた。


「おい!!! アグレアイオス!!! テメェ! どこへ行きやがる!? 王様気取りか!? 降りてこい! この野郎!!!」


 怒り散らかすリュディガーに呆れながら、ディーンは宥める。


「総長は忙しいんだよ。コンマ単位の合間を縫って駆け付けてくださったんだ。あの砲撃がなければもっと手間取っていた。感謝しないとな」


 しかし、納得いかないらしいリュディガーはますます憤った。


「俺はあのイカ野郎を倒してやった!!! やらなきゃ街が潰れてはずだ!!! だったら、次はアグレアイオスと決闘できるはずだろう?! あの野郎! 約束を破りやがる気か!?」


「落ち着けって。知ってるだろう? エルフの姫様の警護で忙しいのさ」


「知るかよ!!! クソッ!!! 空の上から偉そうにしやがって! ムカつくぜ!」


 去っていく巨鳥の背を恐ろしい目で睨むリュディガーにディーンは呆れながら頭を振る。


(やれやれ……)


 そして、そろそろ去ろうとしたディーンの背に思わぬ流れ弾が飛んできた。


「おい! ディーン! お前でもいい! まだ燃やし足りねえんだ……! 一戦交えてくれよ!? なあ!?」


 振り返ると本気らしいリュディガーが、紅潮した顔で武器を構えようとしていた。

 ディーンからすれば、冗談ではない。


「……おいおい、勘弁してよ」


「さあ……! 武器を構えろよぉ……!」


 リュディガーはニィと凶悪な笑みを浮かべ、大剣を構える。

 彼の行動原理は「闘争への滾り」が最優先となっており、もはやこうなっては説得は通じない。


 ……しかし、次の瞬間、リュディガーは眠るようにその場に倒れる


 見ると倒れたリュディガーの後ろには、注射器を手にした双子の小鬼が笑顔で立っていた。 

 双子はリュディガーの巨体を軽々と抱えると、愛馬キングへと載せる。


「ごめんねー! うちのリューちゃんが! 持って帰るからね!」


「リューちゃん、バカなんだ! 隊長同士の喧嘩は禁止!」


 どうやら、リュディガーは気を利かせた双子によって眠らされたらしい。

 よく彼の扱いを分かっているとも言える。


 苦笑いを浮かべながら、ディーンは双子たちに手を振り、鬨の声を上げる第三部隊を見つめた。


「ああ、よろしく頼むよ」



 戦闘が終わり、解除された結界から出ると副官であるアンナが迎えてくれる。


「……大変な1日でしたね まだ諸々の後処理しないとですけど」


「全くだよ。あー、疲れた」


 肩を回しながら、ディーンは青空を見上げる。



 金獅子騎士団は呆然としながら、或いは嘆きながら、自分たちが失敗した事をそろそろ噛み締める。

 その中でもフランクスは特に悔しそうに、地面を蹴り上げた。


「レオ……! 私には会う価値も無い、ということか……! くそっ!」







 ◇





 第八部隊の管理する東側の門では、レドモンドがラウム宮殿への入場許可を願い出ていた。


「ああ、これはレドモンド様。どうされましたか?」


「たまたま議会に用があってね。通り掛かったらこんな騒ぎだよ。入れてくれるね?」


 レドモンドは教皇庁の重役であり、議員資格も持っている。

 彼がラウム宮殿に入ることに問題はない。


 しかし、騎士の1人はレドモンドの後ろにいる少女に目を止める。


「……はい もちろん貴方はいいのですが、そちらは?」


 フードを深く被った少女を見やる騎士たちに、レドモンドは柔らかな笑顔を浮かべる。


「この騒ぎで道端で震えてた子だ。保護したんだよ。同行しても構わないだろう?」


 少し迷うが、騎士たちは少女を宮殿に入れることを拒否する。


「困ります。子どもといえど、宮殿は厳戒態勢なのです。議員身分や許可を持たぬ者を入れる訳には参りません」


「頼むよ。寒さとこの騒ぎに震えてた子なんだ。私が責任を持つからさ。ね?」


 レドモンドは尚も食い下がるが、易々と資格のない者を宮殿に入れる訳にはいかない。

 特に今日は厳格な命令が全部隊に下っているのだ。


「申し訳ないですが、そういう訳にもいかないんですよ。その子はこちらで面倒見ときますんで、貴方だけお通りください」


「こんな女の子1人に警戒し過ぎじゃないかな? ちょっと過剰だよ」


 何も言わないフードを被った少女をじっと見つめ、騎士たちは首を横に振る。


「猫の子一匹通すな、と言われてましてね。我々も仕事なのです。すみませんね」


 ふう、とため息を吐きながら、レドモンドは後ろの方にいる男に声をかけた。


「固いなあ。ねえ、そこの隊長さんも同じ意見ですかね?」


 ピクリ、と一瞬肩を震わせながら、声をかけられた男は前に出る。

 ……男は第八部隊長であるユダソンだった


 ユダソンは戸惑いながらも、青い顔で声を絞り出す。


「……いいでしょう 通ってもいいですよ」


 隊長のその態度に副長は反論する。


「⁉︎ 何を言うのです! 隊長! 命令を忘れたのですか!」


 他の隊員たちも、ユダソンのその頼りない様子に不満そうに声を上げる。


「いいですか? 身分を証明出来ない者は子どもであっても、グノルシアである可能性があります! 彼女は通せません」


 ユダソンは冷や汗をかきながら、ろくに反論も出来ずにいた。


「……しかしだな」


 レドモンドは笑いながら、騎士達の様子を楽しそうに観察していた。


「おいおい、揉めてるのかい? なあ、そこの隊長さんも言ってるし、通ってもいいだろ? 固すぎるとモテないよ、君」


「何と言われようとその子は通せません!」


 副長が少女の方にすっと近づいてきた。

 少女はそこで初めて声を発する。


「ねえ……? そんなに私って怪しいかなあ?」


「宮殿の中はダメだ。ここに居なさい。食べ物も出すよ、君」


 レドモンドはふう、と息を吐き騎士たちに言う。

 ……これが彼なりの最終通告だったのかもしれない


「その子は通した方がいいよ? 君の為でもあるんだけどなあ」


 騎士達はレドモンドの様子にも不審を感じ始める。


「……何を言ってる? レドモンドさん、貴方からも少し話を……」


 その時、ユダソンは少女を見て、思わず叫ぶ。


「……やめろっ!?」


「くはっ……?!」


 副長は不意に胸に激しい痛みを感じ、吐血する。

 よく見ると胸には黒い剣が突き刺さっていた。


 驚愕を持って振り返ると左右非対称の色の冷たい瞳が彼を見つめていた。


「もう、うるさいなあ。面倒だから殺して通っちゃお♡」


 次の瞬間、副長の首が胴から落ちる。

 人を殺したばかりだというのに少女は何ら動じることはない様子だ。

 少女は薄く微笑みながら、騎士達へとゆっくりと歩みを進めてきた。


 状況をようやく把握した騎士たちは、銃や剣を構える。

 そして、通信機を手にする騎士もいた。


「副長ぉぉぉ!!! クソッ! やはりグノルシアかっ!?」


「ほんと、うるさいわね♡」


 ネスが指を振ると、全ての通信機が音を立てて故障する。


「クソッ! 無線が!」


 そして、ネスはまるで風のように騎士たちの間を飛び交う。



「……ぐあっ!」


「ぐはぁっ!?」


 騎士たちはネスの黒い剣や槍で、一瞬でその命を奪われていく。

 ユダソンは悲鳴を上げながら、懇願することしか出来ない。


「やめろっ!!! やめてくれぇぇぇ!!!」


 ネスは騎士の首を斬りながら、可笑しそうに笑う。


「やめてくれぇ!ですって? あはははは!!! 面白いわね! 隊長の癖に部下を裏切っておいて♡」


 そうして、あっという間に、詰めていた騎士たち10数名はネスの手により屍となった。


 ユダソンはその場に、膝をつきながら余りの光景に嘆き叫んだ。


「…….ああ なんてことだ……! こ、殺さなくてもいいだろう!?」


 レドモンドはユダソンの肩を叩きながら、薄笑みを浮かべる。

 アグレアイオスが宮殿を出たという情報をもたらしたのはユダソンであった。


「君が部下たちを掌握してないから、招いた事故だ。いいかい? これは君の責任だ。次からは頼むよ、全く」


「クスクスクスクス♡ じゃあね、ユダソンくん?」


 そう言いながら、悪魔たちは去っていこうとする。

 呆然としながら立てずにいるユダソンは、声を絞り出した。


「待ってください! すぐにでも恋人と母に会わせてください! 私にはもう耐えられない!」


 ネスは面倒そうに振り返る。


「分かったわよ。ああ、それと忘れた事があったわね♡」


 そう言うと、ネスは微笑みながら戻ってきた。


「なに?! ……ぐはっ!」


 蹴りを顔に浴びせ、気絶させたユダソンにネスは笑いかける。


「あなたも気絶させとかなきゃ、スパイがバレちゃうよね♡ さあ、行きましょうか、マリアちゃんを迎えに♡」


 そして、ユダソンから受け取っていた宮殿内の地図を開き、レドモンドはその後ろに付き従った。

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[一言] 波乱は続きますね。
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