第七十話 デミウルゴス
グノルシア教団の司教や生き残った者たちは、金獅子騎士団に拘束されながら、同胞たちの死骸を見つめる。
「……クソッ! おい! 我々がテロリストとはいえ、いくらなんでも酷いじゃないか! 話も聞かず射殺するなど、鬼畜の所業だ!」
「うるさい! 邪教集団め!」
「幾度もテロを起こしておいて、図太い物言いだ!」
金獅子騎士団は口答えした教徒たちを殴りつけた。
「グアッ!」
騎士たちは、倒れた教徒たちにも容赦なく罵声を浴びせつける。
「お前らなんぞ狂犬以下のカスだ! 我々が、この金獅子騎士団が本日をもって壊滅してくれる!」
「……くうっ! 正義を振りかざすのはいいが、乱暴はやめろ……!」
フランクスは余裕の笑みでせせら笑いながら、教徒たちが拘束される様子を見つめる。
「ふん! 大人しく抵抗せず、拘束されてろ。そうすれば、野蛮な真似はしないさ」
そして、とりわけ異質な様子の者に目を遣る。
腕を枷で拘束された教祖ガギエルが虚な表情で、相変わらずの妙な戯言を呟いていたのだ。
「……ハマ ラスユダハダァ」
「ん? そいつが教祖か? 本当にボケ老人じゃないか。聖女ネスとやらはどこだ?」
「ネスと見られる人物はいないようですね」
フランクスは拘束されたままの司教に問いかける。
「おい、ネスは何処だ?」
「……知らない ここ数日、我々の前に姿を現されないのだ」
「ふふん。見捨てられたのだな。哀れな奴らだ。おまけにこんな痴呆老人を教祖と崇めるなどな」
ガギエルを見てせせら笑うフランクスに司教や教徒たちは腹を立てる。
「おい! 教祖さまを愚弄するな!」
「何も知らない貴族の小僧が!」
フランクスは鼻を鳴らしながら、つまらなそうに指示を出す。
「フン! おい、今反抗的な態度を取った奴らを痛めつけてやれ」
金獅子騎士団はフランクスの命令で、司教たちを殴りつけ始めた。
「や、ヤメッ……! グアッ⁉︎」
「クソッ! 卑劣な!」
「黙れ! イカれた邪教集団め!」
金獅子騎士たちは更に司教たちを痛めつける。
その時、教祖ガギエルが頭を押さえ蹲った。
「……ウ ウベマザァァァ⁉︎」
そして、ガギエルは咳き込み始める。
「ガフっ⁉︎ コゴフッ⁉︎ グフっ⁉︎」
金獅子騎士団も驚いてその手を止める。
司教たちは心配そうに、ガギエルを見やった。
「き、教祖さま……!」
虚な表情でガギエルはぶつぶつと何かを呟き続ける。
「……ギフン ガフサヤナ……」
拘束していた騎士たちは、戸惑いながらガギエルを見つめる。
フランクスは馬鹿にしたように笑いながら、指示を出す。
「クククク! ただの痴呆老人の癇癪さ! せいぜいそんな事しか出来ないのか? 哀れな邪教徒どもめ! 思い知ったか! おい! 構わん! 教祖ガギエルを引っ立てろ!」
「「「はい!」」」
不調に構わず、騎士たちはガギエルを立たせて無理やり歩かせようとする。
そんな無慈悲な騎士たちに、教徒たちは怨嗟の声を上げた。
「くそおっ! やめろぉっ!」
「教祖さまぁっ!!!」
引っ張られていく教祖を見て嘆く教徒たちを見ながら、フランクスは高笑いする。
「ハハハハハハハハ!!! 我が金獅子騎士団の圧倒的な戦果! 華々しい初陣だ!」
引き摺られる教祖を見つめながら、教徒たちは歯噛みする。
「……く、クソ! や、やめろおっ! き、教祖さまぁ……!」
「教祖さまに触れるなぁ……!」
フランクスは更に煽るようにそんな教徒たちをせせら笑う。
「ハッ! やれやれ無様だな! 狂信者ども! こんな訳の分からないボケ老人が教祖だって? ハハハハ!!! 笑えるな!」
「……くっ! くそおっ!」
「貴族どもめ……! よくも!」
ガギエルは引き摺られながらも、虚な目で意味の伴わない言葉を呟く。
「……ガ ガスパルスゥゥ……!」
「ははは! 哀れだな! 殉教させてやろうか?」
そんなガギエルを見つめながら、教徒たちは悲鳴に似た叫びを上げる。
「教祖さまぁぁぁ!」
「チクショォォォォォ!!! 俺たちには何も出来ないのかぁ⁉︎」
「ああ…… 新しい神よ……!」
その時、ガギエルの目が怪しく紫に光ると、激しくその身が震え始めた。
「テヘン、ガグスバルゥ……!」
ガギエルの手錠を掴んでいた騎士たちは、驚きながら振り返る。
「……な、なんだぁ⁉︎」
ガギエルは口から煙を上げると、その場に膝をつき、痙攣を始める。
その奇妙な様子に騎士たちは戸惑う。
「……テヘン、ガグスバルゥ……!」
ガギエルが叫ぶように、再び奇声を上げると、その身を包むように空まで届く光の柱が上がり、大地が激しく震える。
ガギエルの身体がボコボコと音を上げ、変形が始まった。
老人の筈の身体は、筋肉が蠕動するように動き、紫色の皮膚へと変貌していく。
「何が起こってやがる⁉︎ クソッ!」
「ふ、フランクス様⁉︎ いったい何が⁉︎」
戸惑う団員を他所に、ガギエルの身体はますます変化を続け、見上げるほどに大きくなっていった。
教会の屋根を突き抜け、巨大化し続けるガギエルを見て、流石のフランクスもここにきて慌て始める。
「くっ! 落ち着け! 何だ? このバケモノは⁉︎」
ガギエルは10メートルを超える紫色の烏賊のような怪物にその姿を変え、遠くに届くような咆哮を上げた。
「テヘン、ガグスバルゥ!!!」
水晶でその様子を見ながら、ネスは笑い転げる。
「アハハハハハ!!! 見た⁉︎ ねえ! 見た? あのバカどもの慌てた顔!」
レドモンドは恐れを為しながらも、ネスに尋ねる。
「聖女さま…… あの怪物はいったい……?」
ネスはその身を起こすと、面倒そうに簡単な説明を始める。
「うーん、あのお爺ちゃんには数百年前の聖者の頚骨を埋め込んだのよ♡ 狂信を集めれば集めるほど、負のエネルギーがお爺ちゃんに集積されていく。そうして、信者の絶望と嘆きが最高潮に達した末があれよ! 上手くいったわね♡」
レドモンドは水晶越しに怪物を見ながら、内心で恐れのため息を吐いた。
「……ほう なんとも悍ましい」
かつて教祖と呼ばれていたその怪物は、触手を伸ばし、騎士たちや教徒たちを捕まえ、その口へと運ぶ。
ネスはそんな様子を見ながら可笑しそうに声を上げて笑った。
「クスクス……! そうねえ。デミウルゴスと名付けるわ。もう、信者も敵も見境がなくなってるわよ♡ 哀れな怪物ねえ……!」




