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第六十九話 揺れる国会

 ラウム宮殿の国会では、1番大きな議場が使われ、今日もマリアが登壇する予定である。

 これより、数分後、世界を変えるほどの発表が行われる。


 護衛に守られ、廊下を歩くマリアの背中を見つめながらゾーラは考え事をしていた。

 そんなゾーラにマサヒデは声をかける。


「どうした? いつになく、感慨深げじゃな、ババア。それとも心配か? 警備は完璧じゃ。総長どの配下と我々で警護を固め、もしもの時の備えも出来とる」


 ゾーラはマサヒデの言葉に振り返り、首を振る。


「わかっとる。警備の事は心配しとらん。我が国の警護と、シティフェンサーの警護があれば何者であろうと排除できるじゃろう」


 ゾーラの懸念は、マリアの発表の後にある。

 その懸念にマサヒデも思い当たり、同意する。


「……ああ やはり、今からの姫様の演説か」


「私は姫を信じておるが、やはり人の意志の介在する問題じゃ。我が国が秘薬の存在を隠していたことで、怒りを感じる者も数多く出てくることじゃろう…… ここに至るまでのあの子の決意や覚悟はようく理解しておる。しかし、これから起こる荒波を思うとなあ……」


 マリアが苦労を重ねながら、この日にまで至ったことを2人とも理解している。

 だからこそ、これから他国の民衆から湧き上がるであろう不満に対して、ゾーラは不安が尽きない。


 しかし、マサヒデはそんなゾーラの不安を笑い飛ばす。


「なあに、そんな事心配しとったのか。昔から妙なところで頭でっかちじゃのお。ワシらが心配しても仕方ない事じゃ。どんと構えとけ、ババア。あの希望と強い意志に溢れた若人どもを見てみよ。なんとかなるわい」


 屈託のないその笑みを見ながらゾーラはため息を吐く。


「ははっ。お前と話してると悩んでるのも馬鹿らしくなるわ」



 司会役の議員がカメラを意識した目線で声を張り上げる。


『皆さま! 長らくお待たせ致しました! 友好国ズィーゲンからの素晴らしき国賓! マリア・ジュペール・ドゥ・シュマ・ガル第一王女のご登壇です!』


 万雷の拍手とともに、白いドレスを身につけたマリアが柔らかな笑みで、議場へと現れた。

 王族らしい身のこなしで、壇上へと上がるとマイクを手に取り、凛とした声が響く。


『昨日に続きまして、本日もこのような場を設けてくださり、また多くの方に足をお運び頂き、大変嬉しく思います』


 この場に集まった議員たちは、殆どの誰もがマリアの演説と可憐な容姿に見惚れる。

 臆する様子を見せる事なく、マリアの滑らかな演説は続いた。


『貴国ガストリスはとても良い所ですね。本日、デモンズゼッド邸の庭園で美しい花を摘ませていただきました。休暇の合間にも貴国にはお気遣い頂いており、私は心安らかな日々を送っております。我々エルフに至らぬところも数あれど、魔都防衛騎士団の心強いサポートにはいつも救われており……』


 場の緊張を和らげる数分の演説を続けたのち、マリアは意を決したように一息吐く。

 本題に入ろうとしたその時だった。


『さて、本日私が皆様に話したいのは……』


 その時、何らかの轟音と共に議場が激しく揺れる。

 机の上のコップや花瓶はひっくり返り、椅子から落ちる議員もいた。

 マリアは辛うじて、身を伏せ倒れる事はなかったが、驚きは隠せない。


 議員達は悲鳴をあげるもの、その場に蹲る者、我先に逃げようとする者、反応は様々であったが、マリアの前にいち早く大きな影が立った。

 その背を見て、マリアからは動揺が雲散霧消する。


「アグレアイオス殿……!」


「お怪我や不調はございませんか? 殿下」


 マリアをその背に庇いながら、アグレアイオスは辺りを見回す。


「殿下!」


「マリア様!」


 マサヒデやカリンに続き、騎士団やマリアの護衛たちが慌ててその周りを固めてくる。


 議場は暫しの間、混乱に包まれた。


「うわぁぁぁぁ⁉︎」


「す、すごく揺れたぞ⁉︎」


「な、なんだぁ⁉︎」


「どうした? 何事だ?」


 この衝撃がただの地震なのか、未だ分からないまま、マリアは目の前のアグレアイオスを見つめ、気を落ち着かせる。


「アグレアイオス様……」


「大丈夫です、殿下。グノルシアが何をしようと貴女には指一本触れさせません」


 護衛たちは辺りを見回しながら周囲を警戒する。

 マリアは少し俯きながら、少し赤くなった頬を隠しながら小声で礼を述べた。


「ありがとうございます……」


 アグレアイオスは無線のチャンネルを合わせ、情報をいち早く収集しようとする。


「こちら、アグレアイオス。何が起きているか、分かっている状況を伝えよ」


『こちら、情報統合部。スラム街に異常を確認。現場近くの哨戒部隊に繋ぎます』


『こちら、2番隊哨戒部隊ベータ。スラム街の西奥より、謎の光源と未確認の魔獣の出現を確認。グノルシアに関係する事象と思われます』


 報告をする2番隊の隊員に、アグレアイオスは指示を出す。


「そうか…… 部隊長と合流してから、慎重に調査を続けよ」


『了解致しました。3分後に定時連絡します』


「現場の判断に任せる。そして、全責任は私、アグレアイオスが負う」


『……了解致しました』


 通信を終え、マリアの方を振り返る。


「お聞きの通りです。しばらくお待ち下さい、殿下」


「はい、私は大丈夫です」


 そうして手早く、マリアとマリアの護衛たちに了承を得ると、登壇し、議員たちを見回し説明を始めた。


「議員の皆さま、スラム街でグノルシアと思しき賊が暴れているという情報が入りました。残念ながら、本日の国会はこれにて中止し、避難して頂きたく存じます」


 議員たちは、戸惑いながらも、各々騎士や警備の者たちに従って避難を始める。


「アグレアイオス君…… 大丈夫かね? またグノルシアの仕業か?」


「くそっ…… こんな日に! ネスとやらを早く捕らえられんのかね?」


 アグレアイオスに状況確認に来たメフィラス議長とバルザック出納長が憮然として、ため息を吐く。


「このような事態になって申し訳ありません。しかし、必ず原因を突き止め、対処します」


「そうか、頼んだぞ」


 そして、アグレアイオスはマリアと護衛たちに避難を促す事にする。


「申し訳ありませんが、殿下とズィーゲンの皆さまは、これより議長、出納長と共に避難して頂きます」


 マリアは密かに拳を握りしめ、悔しさを押し隠す。

 今日に至るまで相当の苦労と、ここに立つまでの葛藤を思い、マリアは身を震わせた。


「……残念です しかし、私はまだ諦めません」


 アグレアイオスはマリアの表情を見つめ、励ますように頷いた。


「ええ、殿下。まだ機会はあります」

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― 新着の感想 ―
[一言] 頑張れ姫、ですね。
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