第五十九話 ペッパーの過去⑯
銃を構えたテロリストたちにより、客たちは、部屋の中央に集められ、サブレは宴台の上へと引き摺り出される。
「……くそっ! このっ! はなせっ! この私をこんな目にあわせやがって! 絶対に許さんぞ! ドブネズミども!」
焦りながら無駄な足掻きと罵倒を続けるサブレを見ながら、ペッパーは高笑いした。
「ドブネズミ以下のクソがなんか吠えてやがるぜ……! ヒャハハハハハハ‼︎」
「このっ! 卑劣漢ども! ベンパーとか言ったな! 必ず! 後悔させてやる!」
「おいおい、まだお前、自分が助かるとか思ってんのか? どこまで自分に甘いんだ? 豚野郎!」
そう言ってテロリストの一人がサブレの鼻面を殴りつける。
「……ぐあっ! くそっ! ドブネズミごときがあっ!」
「ヒャハハハハハハ! おいおい、いい表情するじゃねえか! まだまだパーティーはここからだぜぇ⁉︎」
「……クソッ!」
そして、サブレは手足を枷で完全に拘束された。
何やら不穏な準備を始めているらしいテロリストたちを認め、客たちも不安そうに周囲を見回す。
ヤクザ者たちもテロリストたちに銃を突きつけられ、また先ほど殺された仲間の死体を見ると抵抗は無駄とあきらめる。
用意されたスクリーンが降ろされるとペッパーは朗らかに宣言する。
「さあてっ! 領民から愛される! 稀代の大名君サブレ殿に今宵挑戦いただくのはっ! ……楽しい楽しいクイズ大会でございっ!」
テロリストたちの間からは歓声があがり、サブレや客たちはますます困惑する。
「なんだと……?」
サブレの反応を嘲笑いながら、ペッパーはまるでコメディ番組のように、楽しげに、朗々と司会を続ける。
「親愛なるサブレ殿は! 我が師ウゼールの実子にして! その事績の継承者であるからして! 当然のごとく絵画を始めとした芸術に精通しており! 鼻歌混じりに全てのクイズに正解されることと思われますっ‼︎」
「おい! 何を言ってやがる⁉︎」
サブレは動けないままで、真っ赤になりながら罵倒を続けるが、テロリストの一人がゲームの説明を引き取る。
「ではこれより始めるゲームのルールを説明致します。サブレどのにはスクリーンに映した絵画のタイトルや由来、真贋などなどを回答していただき、正解すれば解放! ただし一問間違えるごとに……」
説明していた男が大袈裟に両腕を広げて、笑みを作り用意されたルーレットを指差した。
「こちらのルーレットに従った罰を受けていただきます! 赤ならばサブレ殿! 黒ならば親愛なる観客の皆様! 会場の紳士な皆さま方もサブレどのが正解されることを祈った方がいいですよ?」
こいつらは正気なのか……?
客たちは静寂の後に一斉に縋るように、脅すように壇上のサブレに声を飛ばした。
「おい! 気合い入れて回答しろよ! サブレ殿!」
「そうだ! なぜ我々がこんな目に合わなくてはならない!」
「サブレさんよお! 責任をとりやがれ!」
そんな客たちの様子を見ながらサブレは歯を噛み締める。
「……くそっ!」
状況に入りきれていないサブレに構う事なく、司会役の男がマイクを手に楽しげにゲームを開始する。
「では第一問‼︎」
スクリーンにとある絵画が映し出された。
「この絵画のタイトルを答えよ」
サブレは口を開けながら、唖然とする。
領民を苦しめる才能のみに恵まれた彼に絵画の詳細な知識などあろうはずがなかった。
「……ぬっ⁉︎ ぬうっ……!」
ペッパーは椅子に腰掛けながら、サブレの青ざめた顔を楽しそうに見つめる。
「どうした? サブレさんよお。アンタの父親で、かつて持っていた名画の名前だぜ? 答えられないわけねえよなあ⁉︎」
司会の男が観客の方を向き煽るように声を上げる。
「時間切れならルーレット回しますよ! さあ皆さん! カンニングは即射殺! サブレさんの正解を祈ってください!」
固唾を呑んで状況を見守っていた客たちは堪らず、サブレに罵声を浴びせた。
「はやくしろ! サブレさん!」
「わかるだろ! こんなの!」
客からのプレッシャーに冷や汗を流しながら、サブレは確信のない答えを回答した。
「……うう! な、渚の乙女……?」
一瞬、冷えついた会場がざわり、とざわめき、静寂の後にペッパーは勢いよく声を張り上げた。
「不正解ィィィィーー‼︎ じゃあルーレットスタートぉぉぉぉーー‼︎」
そして、ペッパー配下の一人がルーレットを回し始めた。
罵声と嘲笑の渦の中、サブレは拘束されたまま、もがき続ける。
「何⁈ クソッ! やめろ! 何をする気だ⁉︎」
やがてルーレットの玉は一つのマスに止まる。
ペッパーは大きく笑うと、高らかに宣言する。
「おめでとうございます! 黒の5番が出たので! 5番のお客様にプレゼントを!」
次の瞬間、5番と書かれたプレートのテーブルに座っていた客たちの席が轟音とともに爆発した。
黒煙と血飛沫の中、客たちの阿鼻叫喚の悲鳴が轟く。
「「ギャァァァァァァ⁉︎」」
「ば、爆発したぁ! ……死んだぞぉぉぉ⁉︎」
ペッパーは笑いながら心底楽しそうにマイクを手に取る。
「黒ならば、客たちに! 赤ならばサブレに! それぞれ罰ゲームが待っています! さあ! 気合い入れて回答しようぜええ‼︎」
「こ、このクソ野郎ぉぉぉ‼︎」
客たちの間からは悲鳴と、ペッパーへと罵声が投げつけられるが、彼はそんなもの意に介さない。
「ヒャハハハハハハ‼︎ そりゃあ、どうも! クソヤクザの皆様! アンタらみてえなクズにそこまで言われるのはむしろ褒め言葉だぜぇ!」
「くそっ!」
「……狂人め」
唖然としているサブレの元へテロリストの一人が耳打ちした。
「サブレの坊っちゃん? ホッとしてる場合じゃないですよ? 今亡くなったのはコルレオファミリーのボスの三男で番頭さ。それがアンタの家で亡くなったんだ。どういうことかわかるだろ?」
この場から逃れても、もう既にサブレは無事では済まない。
真っ青になりながらサブレは悲鳴を上げた。
「……うっ! ううっ⁉︎ 貴様ら! やめろぉぉぉ‼︎」
しかし、無情にもクイズは続行される。
「では第二問! この絵画の由来を答えよ!」
「……あ、ああっ! ……くっ!」
映し出される絵画は有名であるが、サブレは一切答えられない。
ため息をついて、ペッパーは部下に指をさす。
「よし、時間切れだ。ルーレットを回しな」
サブレは青ざめながら、手枷と足枷を忙しなく動かして悲鳴を上げる。
「……や、やめろ! ヤメロォォォォォ‼︎」
赤の10番にルーレットの玉が収まった。
次の瞬間、テロリストたちはサブレの指の一本を掴み、ペッパーはナイフでそれを断ち切った。
「ギャァァァァァァ⁉︎」
涙を流して悲鳴を上げるサブレをペッパーはますます嘲笑う。
そして部下たちと肩を組んで嗤いあった。
「ヒャハハハハハハ‼︎ おめえの指なんていらねえよなあ! なに? お前らもサブレを痛めつけたい? わかった! わかった! 次はテメエらにもやらせてやるからよお!」
まるで道化が遊ぶかのように、残虐なゲームを嬉々として続けるペッパーに震えながら、サブレは切り札である説得の可能性にかける。
「あ、悪夢だ……! こんなのは夢に違いない! ……やめろ! ベンパー! わ、私は! 貴様の敬愛するウゼールの息子だぞ⁉︎ こんな事をして父上も悲しんでいる! だからやめろぉぉぉ!」
ペッパーはつまらなそうにため息を吐くと、傍の部下に顎をしゃくった。
「……はーあ。言うと思ったぜ。おい、舐めんなよ。オイラはどえらい悪事をやってる事を自覚してやってる。それと…… おい、めんどくせえ、いってやれ」
そして、訝しむサブレにテロリストの一人が嘲笑うような笑みを浮かべながら耳元で囁いた。
「子爵家出身のアンタの母親…… 父君であるウゼール様に嫁ぐ前は夜遊びが盛んな女性であって。既にお前を身籠っていたという噂があるそうだな。なあ、自分がウゼール様に全く似てないと思った事はないか?」
前々から貴族社会では噂されていたことである。
真偽はわからない。
しかし、これ以上ない侮辱を味わったサブレは顔を真っ赤にしながら怒声を上げる。
「……くっ‼︎ 下賤が‼︎ ふざけるなあっ‼︎」
フン、と嘲笑いペッパーは壇上に立つとスクリーンを切り替えた。
「まあ、そんな事はどうでもいい。オイラはなあ、お前の事を師匠の息子だなんて考えないし認めないことにしたぜ……‼︎ さあ、ゲームの再開だぁ‼︎」
無慈悲にも再開されるゲームにサブレはありったけの悲鳴を上げた。
「や、ヤメロォォォォォ⁉︎ ヤメロォォォォォ‼︎」
また、客の中からようく知っている顔を見つけ出すと肩を叩く。
青ざめながらビクリ、と見上げたその顔にペッパーは冷たい笑みを投げかけた。
「よお、弁護士先生! それとクソ兄弟子ども! サブレが死んだら次に壇上に上がるのはアンタたちだぜ⁉︎ 楽しみにしとくんだなあ‼︎」
否応もないその残額な宣言に、アクトックと兄弟子たちは震えながら悲鳴を上げた。
「ひっ⁉︎ ヒィィィィィィィィィィ‼︎」




