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第五十四話 ペッパーの過去⑪

 翌朝、衛兵の1人が朝ごはんを乗せた盆を持ってペッパーの檻の前までくる。


「おい、クソ野郎。メシ持ってきてやったぞ…… おい! チッ! くたばりやがったか」 


 衛兵は、檻の奥の板間でピクリとも反応しないまま横たわるペッパーを見て、死んだと判断した。

 ため息をついて檻を開け、ペッパーの死体の前に立つと面倒そうにまたため息をつく。


「めんどくせえなあ…… よりによって俺の番の時にくたばりやがって!」


 そしてペッパーの足枷と腰縄を解くと、仲間を呼ぶために後ろを振り向いた。

 その時だった。


「……うぐっ⁉︎」


 背後から腕が伸び、衛兵の首を締め上げると、数十秒ののちに落ちる。

 ペッパーは唾を吐いて、衛兵のポケットから鍵や金を盗み出した。


「ふん…… クソ無能がよ」


 そして、朝ごはんと水をかき込むと急いで走り始めた。


「よく考えたら…… イネ婆さんがあぶねえ……! あのクソ野郎なら容赦なく狙ってくるはずだ……!」





 イネはウゼールから多額の退職金を受け取り、娘•孫と共に都心に近いところへと越してきていた。

 今日は買い物のために娘と孫と3人で街を歩いていたところだった。


「母さん…… 前に言ってたトッドさん、ベンパーって人に殺されたらしいわよ……! 怖いわねえ」


 巷ではペッパーは極悪人のように報道されており、本当の事情を知らない誰しもが彼を遺産目当てに老人さえ手にかける卑劣漢と断じていた。

 ペッパーを怖がる娘にイネは珍しく食ってかかる。


「……違う! あの子はそんな子じゃないよ……」


 初めこそウゼールの家に盗みに入り、乱暴な少年であったが、ずっとウゼールの元で絵を学んでいたペッパーの姿を一年間イネは見ていた。

 自分の飯を美味しそうに食べる師弟の姿も。

 彼らの心根はよく理解しているつもりだ。


 だからこそ、今度起こす裁判においてイネも証言台に立つことを決めたのだった。

 そんなイネに対して娘は済まなそうに詫びる。


「わかったわよ。知り合いの悪口言ってごめんね。さあ買い物を続けましょうよ」




 娘と孫がとある服飾店に入ったところで、疲れたイネは外のベンチに腰掛け待っていた。


「すみません…… お隣よかったですか? 気分が悪くて……」


 女の声と気配がしたので、そちらを向くと疲れたような表情の女が隣に座っていた。


「あれまあ、大丈夫ですか? ゆっくり休まれなさいよ」


 そうしてポツポツと談笑を始めたところだった。


「ムグッ……⁉︎」


 不意に背後からイネの口を噤む腕が伸び、もう片方の手で持ったナイフが喉を掻き切った。

 イネはその場にどう、と崩れ落ちる。


 ブラックピッグは血に塗れたナイフを服で拭いながら満足そうに笑った。


「はははっ! くたばってくれや、婆さん」


 ……運悪くちょうど店内から出てきたイネの娘と孫がその様子を目撃していた

 青ざめなからイネの娘は絶叫する。


「キャアアアアアア⁉︎ かあさん⁉︎ あなたたちいったいなんなの‼︎」


 ブラックピッグは舌打ちしながら、冷たく娘と孫を睨みつける。


「ちっ! 面倒な!」


「ちょっと! 見られたわよ! どうすんの!」


 慌てる仕込みの女を軽くいなしながら、ブラックピッグはナイフを構える。


「はっ! 落ち着けよ! 殺しゃいいんだよ! 殺しゃ!」


「ひいっ⁉︎」


 怯える娘と孫に迫るブラックピッグの背後に飛びかかる影があった。


「このクソ野郎が‼︎」


「ぐあっ⁉︎」


 後頭部にペッパーのドロップキックが入り、ブラックピッグは転がるように地面へと倒れる。

 そして、ペッパーはすかさず爆竹を仕込みの女へと投げつけた。


「きゃあっ⁉︎」


 ペッパーは倒れたイネを背負いあげると、硬直している様子の娘と孫の手を思い切り引く。


「……くそっ! イネ婆さん! しっかりしろ! おい! 逃げるぞ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当にここまで酷い相手ではなければ、ペッパーは闇落ちしなかったでしょうに。
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