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第五十話 ペッパーの過去⑦

 その日、ペッパーはウゼールから引き継いだアトリエで展覧会を開いていた。

 ウゼールの最後の弟子という触れ込みと、その意外な技術に、訪れた観客からは概ね賞賛を受ける。


 訪れた貴族の1人がペッパーの絵を前に感心しながら腕を組む。


「ほお…… 素晴らしい! これを君が?」


「ああ、そうだよ。欲しけりゃ売るぜ」


 ペッパーは自分の評価を半信半疑に、興味なさげに話を聞いていた。

 絵を評価した貴族はみすぼらしい身なりのペッパーを見遣りながら、改めて絵画と見比べ考え込む。

 この男の見立てによれば、ペッパーはますますその腕を伸ばしていくだろう。


「ふ〜む。ベンパー君といったね。本当にドラクレフ殿の弟子なのだね? いや、私はウゼール殿のファンであってね。わかるのだよ。この絵は彼の筆致や作風を受け継いでおる!」


「そりゃあ、あいつに散々しごかれたからな。嫌でも似てくるだろ」


 その貴族の熱量に若干引きながら、ペッパーは肩をすくめる。

 しかし、貴族はますます目を輝かせながら絵画とペッパーを見つめる。

 これは意外な掘り出し物かもしれない、と目をつけたのだ。


「うむ! うむ! 早速だが私が……」


「申し訳ありません。旦那さま、少しお話が」


 身を乗り出し、貴族が出資の話を切り出そうとしたその時、秘書らしき男が主人に慇懃に声をかけて遮る。


「何だね? 大事な話の途中だろう。すまないね、ベンパーくん。少し待っててくれ」


 不服そうにしながらも貴族は秘書に促され部屋の隅へといき、何やら話を始めた。

 そんな慌ただしい様子を見ながらペッパーはため息を吐く。


「なんだよ、妙なテンションのおっさんだぜ」


 何やら眉を顰めながら貴族の男は秘書の話を聞き、難しい顔をしていた。


「……ううむ しかしだね」


 数分後、戻ってきた貴族はペッパーに言い淀みながら、惜しそうな顔で挨拶する。


「ああ、すまないね。ベンパーくん。それではまた来させてもらうよ。励みたまえ」


「ああ、アンタに言われなくても」





 広い部屋に並べられた絵画を眺めながら、グラス片手に小太りの男は満足そうに笑い声をあげる。


「クククク! 壮観だな! これがいくらすると思う?」


 このいずれもがウゼール•ドラクレフの名画であり、資産価値にすれば20数億は下らないだろう。

 サブレはニヤリと笑う。

 これなら、負債を補って余りあるだろう。


 ウゼールの3名の弟子たちも満足そうに笑みを浮かべながら絵画を見つめる。


「さすがの手腕です。亡き先生の御作品を受け継ぐに相応しいのはやはり御子息であらせられる貴方ですよ、サブレさま」


 弟子たちのおべっかにサブレは鼻を鳴らし、グラスのワインを飲み干した。


「ふん! 当然だ。下賤の奴らや、ましてやスラム街の盗っ人なんぞにはもったいないわ! しかし、よくやってくれたな、アクトックよ」


 アクトックと呼ばれた初老のでっぷりと太った弁護士はグラス片手に、重い身体を揺すりながら薄く笑った。


「ふふ…… なあに、実子のあなたがウゼール様の絵を受け継ぐのは当たり前です。晩年のウゼール様は残念ながら正しい判断を失っていたようですな」


 その話を聞くと眉を顰めながら、サブレは不機嫌そうに机に足をドンと置く。


「そうだ! あんな下賤なんぞに父の絵の管理を任せられるか! 今思い出しても腹がたつわ! ふん! この私がしっかりと有効活用してやろう!」


 サブレは刺客を使いオカタイ弁護士を殺害した後、大手事務所の悪徳弁護士に依頼して、次々と父親の遺産を自分の名義へと変更する訴訟を繰り返していた。

 もちろん、ウゼールの遺言に反した権利譲渡であるが、オカタイが亡くなり、遺書や確かな文書が失われた今、高位貴族であるサブレの権力は物を言う。



 アクトックの巧みな文書偽造や、弁舌により、友人や美術館、孤児院に寄贈されるはずだったウゼールの絵画は次々とサブレの手に落ちていった。


 ここまでは上手くいっているが、弟子の1人がふと懸案事項を口にした。


「サブレ様。ところであのベンパーとかいう小僧が先生の弟子を騙り、活動を始めてるようです。早速やりますか?」


 ふん、と鼻を鳴らしながらサブレはモシャモシャとチーズを噛む。


「まあ、待て待て。あんなちっぽけな小僧。手を下すまでもない。そこのアクトックの事務所に依頼して、市井にヤツの悪評をばら撒いてやっている最中だ。あのオカタイと遺産の事で揉めていた、などの噂をな。クククク! ジワジワと潰してやろう!」


 ジワジワと、しかし確実にペッパーのありもしない悪評は広まりつつあった。

 彼がスラム街の出身で、かつてウゼールの屋敷に盗みに入った事実もペッパーにとってマイナスの材料となっていた。


 弟子たちは膝を叩きながら、頷き、サブレのグラスへとワインを注ぎ足す。


「なるほど! 流石ですな!」

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― 新着の感想 ―
[一言] これは汚い手口。
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