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第四十九話 ペッパーの過去⑥

 亡きウゼールの屋敷兼アトリエからは、弁護士の協力の元、業者によって名画が国立美術館へと運びだされた。

 すっかりガラガラとなったアトリエを眺めてペッパーは感慨深げに呟いた。


「ふう…… すっかり片付いたな」


 弁護士オカタイと相談したペッパーは、数点を残して、自身に継承されたウゼールの作品を美術館に展示する事にしたのだった。

 オカタイはペッパーを振り返りながら尋ねる。


「これでよろしかったですか?」


 肩をすくめながら、ペッパーはオカタイに薄く笑みを浮かべた。


「いいも何もオイラには難しいことはよくわかんねえよ。ただオイラが持ってても仕方ないしな。アンタと師匠が決めたことだろう? 言うことはないさ」


 大体のことは生前のウゼールがオカタイと話し合って決めたことであった。


「そうですか。そう言って頂けるなら助かります」


 トッドは屋敷の掃除を終え、タオルで手を拭いながら手前の部屋から出てくる。


「何から何までご苦労様でしたな。……あなたはお仕事と言われなさるが、よく誠実に仕事をしてくださった」


 ウゼールが亡くなってから数日、幾度かオカタイにサブレからの直接の交渉があったという。

 サブレはやはり取り分に対する不服があるようで、ペッパーが受け継いだ絵画の所有権すら奪おうと、汚い買収工作を仕掛けてきたが、オカタイはすげ無く突っぱねたという。


 無表情のまま、オカタイは書類をカバンにしまうと帰り支度をする。


「いやあ、信用商売ですからね。では私はこれで」


「お気をつけて」


 弁護士を見送りながら、ペッパーとトッドは夕焼けの空を見つめる。

 忙しさのあまり、実感がなかったがそろそろ次の生活に踏み出さなければならない。

 トッドはペッパーをふと振り返り、これからのことを思う。

 ここに来た頃は盗っ人に入った浮浪児であったのが、いつの間にか逞しく成長したものだ。

 目を細めながら、トッドは嬉しそうに言う。


 ペッパーはこれから、ウゼールの遺作である共作を始めとした作品を筆頭に個展を開いたり、美術商に売り込みをかけ、本格的にプロの画家を目指す予定であった。


「君は早速ウゼール様との共作を始めとした個展を開くんじゃったな。スラム街の老いぼれが名匠の誕生に立ち会えた訳じゃ」


「ヒャハハハ! よせよ、持ち上げるのは。オイラはまだまだ一人前にすらなってねえ。……師匠はああ言ったが、不安ばかりさ。オイラに才能なんてあるかどうか……」


 肩をすくめいつもの少年らしくない返事が返る。

 いつにないその気弱な発言にトッドはペッパーの肩を叩いた。


「ウゼール様を信じるんじゃ。何よりこの屋敷であの方にしごかれた日々を。ワシから見てもお前さんの絵はいい絵じゃよ」


「へっ! 芸術なんてわかんねえジジイがよくいうぜ!」


 トッドはこつり、と小さくペッパーの頭を小突いた。


「いったな! こいつ!」


「いててっ! へへっ!」


 2人は家の前のベンチに腰掛け、沈む夕陽を眺めながら話を続ける。


「……爺さんは 都心へ移るんだろ?」


「ああ。息子夫婦が以前から同居を勧めてくれておってな。ありがたいことにウゼール様から頂いたお給金で息子の近所に小さな家を買えることになったよ」


「へっ! よかったじゃねえか。アンタこそ悠々自適な老後を送れるってわけだ」


「……ああ イネ婆さんも娘と孫を連れて、ここよりマシなところへ移るそうじゃ。ウゼール様には本当に感謝しきりじゃよ」


「フン! あのおっさんもたまには良いことをしやがる……!」


 誰もが新しいそれぞれの道を歩もうとしていた。

 ……この時までは





 オカタイは郊外の自宅に帰るとコートをハンガーに掛ける。


「ふう…… 今日も疲れたよ」


 一人暮らしの自宅には帰りを待つ相手はいない。

 しかし、ふと奇妙な違和感を感じ、オカタイはリビングへと慎重に歩みを進めた。

 そして、倒れたテーブルや棚を見て驚く。


「何だ……? 荒らされた跡が……」  


 そして破れた窓を見てますますオカタイは驚いた。


 その時だった。

 物陰から大きな影が素早く迫ると、オカタイの後頭部に衝撃が走る。


「グッ……⁉︎ ぐぅ⁉︎」


 血を流しながら床に倒れたオカタイは呻きながら、襲撃者の方を見上げる。

 そこには丸々と太った大きな男が立っていた。

 侵入者である豚の魔族がニヤつきながら、手に血のついたハンマーを握りオカタイに迫ってくる。


「よお、弁護士先生ぇ? 俺はアンタに何の恨みもねえが死んでくれや」


「……うぅ」


 オカタイは薄れる意識を必死に保ちながら、なんとか床を這って逃げようとする。

 襲撃者はサブレに雇われた傭兵であり、ウゼールの屋敷に侵入したペッパーを捕らえた事もある腕利きの流れの雇われ者であった。

 ……何よりこの男が厄介なのは金次第では人殺しさえ厭わないことだ


「じゃあな、先生」


 男はオカタイの首を掴むと、懐から取り出したナイフで頸部を斬りつけた。

 オカタイは鮮血を飛ばしながら声も無く絶命する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 反社ですね。 やることは。
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