第四十五話 ペッパーの過去②
スラム街の地下にある粗末な竪穴の一室にペッパーは棲まう。
ペッパーは机に積み上げた金貨や銀貨を見て笑いが止まらない。
「ヒャハハハハハハ! うれる! うれる! あのおっさんの絵、結構な金になるぜぇ! 下手くそな絵描きやがってよお! ヒャハハハハハハ‼︎」
街中で画家らしき男の家に目をつけてから2週間。
ペッパーは画家の家から絵を盗み、不正なルートで売り捌くことを繰り返していた。
盗んできた絵が予想以上の金(といっても地下ルートの販売なので仲介人には相当ボラれているが)になり、ペッパーは驚き、そしてますます張り切り始める。
どうやらあの男は有名な画家らしい。
スラム街とはいえ、辺りが寝静まった深夜。
ペッパーは画家の家の前に立ち、目を輝かせる。
彼に良心の呵責はない。
数日前から越してきたこの画家の家はそこそこの作りで、スラム街では元々浮いていたのだ。
いずれ誰かが盗みに入っていたことだろう。
むしろ誰も傷つけず絵だけ盗む自分は紳士的だとすらペッパーは自己弁護する。
「さて、今日もおっさんから絵をいただくかぁ! 代わりに俺の絵を置いてってやるから、悪く思うなよな! ヒャハハハハ!」
画家の家に屋根裏から侵入し、ペッパーはとある一室の扉を開けてほくそ笑む。
その部屋には画家の絵が所狭しと並んでいた。
「よしよし! いつもの場所にあるなぁ! ……ん? ぐぇぇぇ⁉︎」
ペッパーが飾ってある画家の絵に手を伸ばすと、物陰からすごい勢いで迫る影があり、ペッパーは殴り倒され、床に倒れると手足を押さえつけられた。
彼を拘束した豚のような人相の悪い男がペッパーを冷たく睨みつけ、ガチャリと扉を開けて複数の男たちが入室してくる。
「捕まえたぞ……! 泥棒野郎! クソガキめ! 毎日毎日、父上の絵を盗みやがって! それがいくらすると思ってやがる⁉︎ しかもお前の下手くそな落書きを置いていくとは何事だ‼︎ 許さんぞ‼︎」
スラム街にしては高そうな服を着たその男たちは貴族であり、画家の息子と弟子たちだった。
中でも画家の息子らしき若い男は激昂しながらペッパーを殴りかからんばかりに睨んでいる。
鼻を鳴らしながらペッパーは嘲笑う。
「……ヒャハハハハハハ‼︎ オイラの絵と何が違うってんだ⁉︎ ああ⁈ お高く止まってんじゃねーぞ! 貴族どもがよお!」
「クソガキィィ……!」
画家の息子を押し留め、弟子たちはペッパーを冷たく見つめる。
「いいでしょう、坊っちゃん。拷問して絵を取り返したら始末してしまいましょう!」
「ふん、そうだな」
豚のような男は弟子たちの用心棒であり、言われるままにペッパーを鎖で拘束していく。
その時、また扉が開き男の咎めるような低い声が部屋に響く。
「おい、私の預かり知らぬところで事を推し進めるな、小童ども」
「父上!」
「先生……!」
ペッパーは後にその名を知ることになるのだが、その男こそが屋敷の主人であり、ガストリスでも5本の指に入る名画家ウゼール・ドラクレフであった。
ウゼールに身振りで抗議しながら息子であるサブレは訴える。
「犯人を捕らえたのですよ? 父上! この憎たらしいクソガキです! 早速痛めつけて父上の絵を取り返すべきです!」
ウゼールの弟子たちも息子に同調する。
「坊っちゃんの仰る通りです! 先生! 貴方の絵は未完成品でも価値がある! こんなクソガキにくれてやることはないのです!」
しかし、ふう、とため息を吐きながらウゼールは全ての意見を一喝し、封殺した。
「黙れ、未熟者ども。私の絵はそいつにくれてやったのだ」
驚愕したのは息子と弟子たちである。
「な、何を仰るのです⁈ 父上?」
「なぜこんな貧民のガキなど庇うのです? こんな奴、助けてやっても恩義にすら感じませんよ⁉︎」
彼らの抗議を一切取り合うことなくウゼールは首を縦に振らない。
「黙れ、と言っておるだろう。そのガキは離してやれ。そしてお前たちは帰れ。何も頼んだ覚えはない」
遂に根負けした息子と弟子たちは憤慨しながら屋敷を後にする。
……それにしても
……なぜこの男は嘘をついてまで自分を庇ったのか?
残されたペッパーは鎖の拘束を解かれながら、怪訝そうにウゼールを見上げた。
「な、なんだぁ⁈ おっさん! お前の絵なんてとっくに売り飛ばしちまったぞ‼︎」
ウゼールは質問には答えず伸ばした顎髭を撫でながら眉間に皺を寄せ、ペッパーを睨みつける。
「おい、クソガキ。絵を教えてやる。そして上手くなれ。さもなければ頭をかち割ってやる」
その思いも寄らぬ言葉にペッパーは自分の耳を疑い、驚愕した。
目の前の男の正気すら危ういと思った。
「はあ⁈ なに頓狂なこと言ってやがる⁈ ……ギャアアアアアアア⁉︎」
反抗しようとした瞬間、ペッパーの身体に電撃が走った。
密かにペッパーの首と手足にはウゼールの意思で電流が走るブレスレットが嵌められていたのだ。
「逃げ出そうとしたり、私に反抗したら電撃が走る仕掛けだ。以後気をつけるように」
床に這いつくばりながらペッパーはウゼールを睨む。
……ペッパーにとって今までにない衝撃の出会いであった
「……このっ! イカれてんのかぁ⁉︎ 悪魔め……」




