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第四十一話 束の間の休暇③

 人混みの中に紛れ、ラッセルたちはマリア達を正面に捉えながらその後を進む。

 無線を手に取り、ラッセルは哨戒ポイントからの定時連絡を受けた。

 予定されている2人の行く先々には民衆に紛れた騎士たちが配置されているのだ。


『Eポイント危険なし 哨戒を続行します』


「ご苦労。引き続き任務を続けよ」


 そんなラッセルにカリンは済まなさそうに礼と謝罪を述べる。


「すみませんね、ご面倒をおかけしております」


「そのようなこと。我々にとっては日常茶飯事です。悪党や魔物を相手にしているより良い仕事ですよ」


 ラッセルは微笑みながらそう応えるが、マリアの我儘に付き合わせている申し訳なさは消えない。


「そう仰って頂けるなら助かりますが……」


「シェルドンはこの任務に来られなくて残念がっていました。あいつは隠密には向きませんから。それにやや疲れも溜まっていたようです」


 そのラッセルの言い草にカリンはシェルドンの大きな身体を思い出し、思わず笑ってしまう。

 同時に病院で怪物から勇敢に自分を庇ってくれた姿を思い出し、また申し訳なさが込み上げる。


「……私を庇ってお怪我をさせてしまって シェルドン殿には申し訳ありませんでした」


 申し訳なさそうに頭を下げるカリンにラッセルは首を横に振りながら微笑む。


「彼はブラディエル様の顕現されたヒーローの魔法で完全治癒しました。それに見た通りやたらと頑丈なのです。小等部の頃など猪の魔獣の突進をもろに受けても平然としておりました。本当にお気になさらず」


 カリンはまた思わず笑ってしまうが、丁重に礼を述べる。


「お気遣い感謝します」




 この都を代表する美術館にはガストリス以外からも輸入された名画や美術品が万全の手入れと警備の元で飾られている。

 騎士団の密かな人員誘導と美術館への根回しにより、今日は美術館への人の出入りは少なめである。

 アグレアイオスと共に歩きながら、マリアは絵画の一つに目を止め息を呑む。


「これは…… マーレーの『蓮華』。こうして直に目に出来るとは思いませんでした……」


『蓮華』とは艶やかなる筆遣いで描かれた自生する蓮華を描いた絵画。

 時下数億ギル(日本円で推定数十億円)はくだらない名画である。


 額縁の中に飾られた名画を見つめながらマリアはため息をつく。


「素晴らしい作品が良い環境で管理されていますね。感心するばかりです」


「いえ、お喜びいただけたようで何よりです」


 そして、見回っているうちにマリアはとあるコーナーに目を止める。


「……あ」


 穏やかなタッチの中に挑戦を忘れない遊び心に満ち溢れた、独創的な風景画や抽象画がそこにはあった。

 若き頃のブラディエルの作品群である。

 マリアは手を組み熱っぽい視線で絵画を見つめながら呟くように言う。


「ブラディエル様らしい御作品ですわ…… 濃淡の使い方が絶妙でこれほどの技量を持つ筆致の作家さんはそうは居ません。古い技法も新しい技法もこだわり無く取り入れる。柔軟な発想の不世出の天才作家でした」


 ふと、視界の端が滲みマリアは慌てて目元を拭う。

 感情を押し隠そうと頑張るが、決壊したかのように涙がとめどなく溢れ出てきた。


「……もう新作は見られないのね」


 アグレアイオスは穏やかな声でマリアに微笑みかけ、また新しいハンカチを手渡す。


「泣かないでください殿下」


 そして、ブラディエルの作品群をマリアの隣に立ち見つめ続けた。


「父の作品はきっと後世まで遺り続け、数えきれない程の人に感動を与え続けることでしょう。ブラディエルの魂は生き続ける。それはデモンズゼッド家の歴代当主の誰にも出来なかった偉業です。私は父が何よりも誇らしい」


 マリアはアグレアイオスの横顔を見つめながら、自己嫌悪に陥いる。


「アグレアイオスさま……」


 涙を堪えながら思わず、その袖を掴みブラディエルの絵画を見つめ続けた。


(……私は 貴方に守られる価値などあるのでしょうか……? いえ、隣に立つ資格すら……)

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