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第三十二話 描かれた幻想の奇跡たち③

 ブルーマキシマムは白い手袋を嵌めた手でクロフツの剣を受け止めると余裕の笑みを浮かべて兜の中の眼光を見つめる。

 魔力のオーラのぶつかり合いで周囲の空気が張り詰め、地面から細かく砂利が捲れ上がった。


「……ほう 君はまだまだパワーをセーブして戦ってるようだな。だが私相手に舐めてかかると死ぬよ? 銀色の騎士くん。君の名は何という?」


 クロフツは応えず、左脚で蹴りを繰り出すがブルーマキシマムは右腕でガードする。


「答えたくないか? それとも答えられないか? いいだろう、私もこの状況ではフルパワーを出せない。君も全力を出さない理由があるのだろう」


 そう言うとブルーマキシマムは両腕でクロフツの肩を掴む。


「でも、容赦はしない。もう時間が無いのでね。だから一対一の戦闘にはこだわらない」


 そう言ってクロフツを斜め上空へと放り上げた。

 ブルーマキシマムの凄まじい怪力に投げ飛ばされたクロフツの身体はビルや塔を突き破りながら、やがてとあるビルの屋上に立つ男へと迫る。

 クロフツとその黒いコートを着た男がぶつかろうとしたその時だった。


水晶の宝瓶ベルベット・アクエリアス


 男の掛け声と共にピタリ、とクロフツの身体の前進が止まった。

 いや、止まったのはクロフツだけではない。

 空を飛ぶ小鳥やそこら辺を歩く猫さえも、男が声を発したその瞬間の姿勢のまま制止して微塵も動かない。

 時が止まったのだ。


 この止まった時の中を動けるのは、時間を止めた男とその背後に見える霊のような筋骨隆々とした人間のようなものだけであった。

 やがて男は止まったままのクロフツに近づくと人差し指を立てる。

 その瞬間、男の背後の霊のようなものがマシンガンのような勢いで拳を繰り出し、クロフツの全身へとラッシュを浴びせた。


『ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラ‼︎』



 男の名は舞川王太郎まいかわおうたろう

 時を止める守護霊水晶の宝瓶ベルベット・アクエリアスをもつ超能力者である。


 鈍い音と共に水晶の宝瓶ベルベット・アクエリアスと呼ばれる守護霊の拳が鎧に覆われたクロフツの全身を穿つ。

 一撃一撃が鋼鉄をへし折る威力の拳である。


 やがて数秒間、激しいラッシュを浴びせたかと思うと王太郎は被っていた帽子を少しずり上げる。


「……時は動き出す」


 止まっていた時間が動き出すと鳥は羽ばたきだし、猫は駆け出した。

 と、共に凄まじいラッシュを浴びたクロフツはまた別の方向へ吹き飛んでいき、やがて地面に激突する轟音と共に土煙が上がった。

 普通の人間であれば如何なる強者であれこれで終わりであるが……


 クロフツが地面に激突した辺りに向けて飛行して追いついたブルーマキシマムはダメ押しの攻撃を繰り出す。


蒼星元環砲ブルーバズーカ!」


 ブルーマキシマムの両掌から青き波動が迸り、クロフツの落ちたと思しき辺りが更に吹き飛び、更地と化した。


 ブルーマキシマムと合流した王太郎は土煙の上がる方向を見つめ、ため息を吐く。


「どうだ? ……いやまだ生きてやがるな やれやれ」


 ブルーマキシマムは余裕の笑みを消して身構えた。


「とんでもなく硬い相手のようだ。私と君のコンビで嵌めるぞ、王太郎くん」



 予期せぬ闖入者たちに先程までペースを握っていた戦況をひっくり返されそうになり、聖女ネスは金切り声を上げて怒りを露わにした。


「何よ! 何なのよ?! もう! 許さない! 私がみんなぶっ殺してやるから‼︎」


 その時、殺気に気付いたネスは斜め前へと飛び跳ね、緊急回避する。

 瞬間、凄まじい轟音と共にネスが立っていた辺りにぽっかりと大きな穴が空いた。


 ネスが睨みつける砂埃の先には白シャツに青いジーンズを着た筋肉質のブロンドの大男が笑みを浮かべて立っていた。

 その右手には大きなハンマーのような武器を握っている。


「おっと、バケモノの嬢ちゃん。それは叶わないぜ」


「ちょっとお! 淑女相手にひどいんじゃない⁈」


 ネスはぷりぷりと怒りながら男にそんな抗議をするが、そんな言動や態度にも胡散臭さを感じ、男はふう、と息を吐く。


「よく言うぜ。俺たちには分かるぜ。お前は見た目通りの少女ではないってことがな」


 男の名はミスター・トール。

 故あって人間の世界に堕とされた雷神の化身である。


 ネスは手を目元に当てながら泣き真似をする。


「……えーーん! ひどーーい! 知らないお兄さんたちが私をいじめるのーー!」


 トールはフン、と鼻を鳴らすと指を鳴らす。


「ケッ‼︎ やっちまえ! カグヤマ‼︎」


「木遁八葉葛やつばかずら!」


 男の掛け声と共にネスの足元から木々が生え始め、その身体に巻きつき拘束した。

 この植物からはちょっとやそっとの力では抜け出せない。

 ネスが睨みつけた先には黒い忍び衣装を着た男が手で印を結んで静かに佇んでいた。


「……ひどいわねえ か弱い女の子相手にこんな事していいのかしら?」


 忍王にんおうカグヤマは静かな口調でネスを冷たく睨み返す。


「黙れ、邪悪な気を持つ者よ。貴様は我らが滅してくれよう」


 トールは白い歯を見せ手にしたハンマーを構え直し、バチバチ、と雷の魔力を溜め始める。


「旦那ぁ、一気にやっちまうか」


 ネスは木々にその身体を拘束されながらも怪しい笑みを浮かべる。


「……ふふふ そう、少しは楽しめそうな奴らみたいね♡」

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― 新着の感想 ―
[一言] 王太郎!これは凄いです。
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