第二十七話 「奪う」能力
襲いくる蛇のような悪魔にアグレアイオスは手を翳し、魔力を発する。
「岩丘の檻庭」
地から音を立てて岩の檻が構築され、欲しがりの悪魔をその中に捉えた。
岩の中で暴れる悪魔に対し、アグレアイオスは更に手を翳し呪文を唱える。
「莫岩刃斬」
岩の刃が形成され、無数の刃が拘束された悪魔の身体を貫いた。
劈くような悪魔の悍ましい悲鳴が室内に響き渡りペッパーは眉根を寄せる。
「チッ‼︎ ハメ技かよ! セコイ手を使いやがって! だが無駄だぜ⁈ 欲しがりの悪魔は不死身だぜぇ‼︎」
岩の檻に拘束された悪魔に突き刺さった刃はやがて悪魔の「奪う能力」によって朽ちる。
そして呻きながら悪魔は傷口を再生させた。
「やはり再生するか……」
アグレアイオスは動けない悪魔に向けて両掌を広げて、灼熱の魔力を凝縮させる。
「龍牙火炎砲」
熱の凝縮された赤いレーザー状の魔力が悪魔の身体を吹き飛ばす。
黒焦げになった悪魔のすぐ再生する遺骸を見つめながらアグレアイオスは更に手をかざす。
「再生出来なくなるまで何度でも焼き切ってやろう。この世に永久機関というものはないのだ」
思わしくない戦況にペッパーは舌打ちした。
「……チッ! クソがよ……!」
蛇の悪魔に対するアグレアイオスの対処は正しい。
この悪魔は聖女ネスによって拷問を受けた50名余もの教徒の肉体と魂を依代として生まれた怪物であるため、その魂の分だけ再生出来るわけだが、攻撃を受け続け消費しきってしまえばもはや再生はできない。
……しかし、ペッパーは余裕の笑みを見せる。
1つの妙案が浮かんだのだ。
彼は卑劣を卑劣とも思わない。
「ハッ‼︎ 標的はお前1人じゃあねえ‼︎ やれっ! 欲しがりの悪魔っ‼︎ そこの女を咬み殺せ‼︎」
歪んだ笑みで笛を鳴らしながら、再生しつつある悪魔にそう指示すると、悪魔は雄叫びをあげながら檻を能力で崩す。
そして戦況を見守る騎士団の一角へと突進を始めた。
アグレアイオスは思わぬその挙動に一瞬反応が遅れる。
慌てて追いかけるが間に合わない。
「クソッ‼︎ 卑怯な‼︎」
ヘビの向かう先には赤髪のエルフ、カリンが居る。
彼女はマリアに変装していた為に、腰に帯刀していない。
しかし、気丈なカリンは恐れを胸の脇に置き、構えて悪魔を迎え撃とうとする。
「……このっ! 来るか! 私も騎士の端くれだ! こいっ‼︎」
アグレアイオスは間に合わないだろう。
ペッパーは嘲笑う。
カリンの命くらいは奪えそうだ。
(ヒャハハハハハ‼︎ バカ女め‼︎)
しかし、悪魔がカリンに到達する寸前、庇うように青い影が立ちはだかる。
「あぶないっ‼︎ カリンさんっ‼︎」
シェルドンは伸びてきた悪魔の舌を掴み投げ飛ばそうとするが、別方向から伸びてきた悪魔の腕が青ワニの喉元を叩く。
「グッ‼︎ ぐぅぅぅぅ⁉︎」
「シェルドンさん⁉︎」
騎士たちは急いで悪魔に向けて小銃を発砲し、ヘビの攻撃は止まるがシェルドンは喉を押さえて倒れ込んだ。
カリンは目の前で地に伏し倒れるシェルドンを腕に抱えて介抱するが、呼吸をしていない。
アグレアイオスは憎き悪魔と倒れた親友を見つめ、静かな怒りに端正な顔を歪める。
「くっ! シェルドン‼︎」
「ヒャハハハハハ‼︎ バカなワニ野郎だぜ‼︎ てめーの呼吸機能は奪われた‼︎ さあ早くその女をやれ‼︎」
弾切れにより銃撃が絶えた隙ができ、悪魔は再びカリンを狙おうとするが、その身体が勢いよく向こう側の壁へと吹っ飛ぶ。
「ギャアアアアアアア‼︎」
アグレアイオスの蹴りにより吹っ飛ばされ、欲しがりの悪魔は身体を抉られながら悶えている。
「調子に乗るなよ爆弾魔 これ以上好きにはさせん」
ペッパーはますますその笑みを歪めながら尚も嘲笑う。
「ヒャハハハハハ‼︎ とんでもねえ蹴りだな! 黒鬼野郎‼︎ だがバカめ‼︎ 足の裏なら何も奪われないと思ったか⁈ お前はもう歩けねーぜぇぇぇぇぇ‼︎」
「何⁈」
アグレアイオスが右足を接地させた瞬間、滑るような感覚を覚える。
右足を地面に着けることが出来ないのだ。
悪魔を蹴り飛ばした靴の足裏に異常が生じているようだった。
「なるほど…… 足裏の摩擦を奪ったか…… 足裏と地面の接地面の摩擦が無ければ人は歩くことができない」
冷静に状況を分析するアグレアイオスに内心で脅威を覚えながら、ペッパーは狂笑を浮かべる。
カリンを狙った事が効果的だった。そしてもはやカリンなどどうでもいい。
爆弾魔は思う。
病院の中であるため、火力を抑えて戦うしかない限定条件でアグレアイオスを殺ることができて本当に良かったと。
「ヒャハハハハハ‼︎ そういう事だぁぁぁぁぁ‼︎ やれ‼︎ 悪魔‼︎ 黒鬼野郎をぶち殺せ‼︎」
「フッシャァァァァァァ‼︎」
身体を完全に再生させた欲しがりの悪魔はアグレアイオスに向けて突進を始めた。




