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第二十四話 陽動

 ペッパー率いる十数名のテロリスト達は用意した魔導PCのカメラに向けて人質に銃を突きつける姿を見せる。


「ヘイ‼︎ アグレアイオス! みてっかぁ⁈ どうだ? 俺たち最高にイカれてるしイカしてんだろ⁈」


 この蛮行は意図的にリアルタイムで中継されていた。

 ペッパーは配下に運ばせた棺桶に腰掛けながら青褪める人質を掴み笑い続ける。


「なぜ俺たちがこんなことしてっかわかんだろ? さあ今すぐマリアとお前2人だけでここまできな⁈ 5分以内だ…… 1分遅れるごとに人質の頭を撃ち抜いていくぜ? ヒヒヒ…… 立派な先生方をこの手にかけるってのは気が重いぜぇ…… 頼むから急いで決めてくれよな。マリアか人質の命か…… 待ってるぜぇ⁉︎ アグレアイオスぅぅぅぅぅ‼︎」


 院長はペッパーを見据えながら気丈に振る舞う。


「……君たち こんな事はやめなさい」


 ペッパーは振り返り院長を嘲笑うように肩をすくめた。


「フゥ〜〜〜…… うっゼェなあ、その内面白えもんみせてやっから大人しくしてろって。俺たち悪魔の軍団がこの国を守るかっこいい黒の騎士をボコボコにするとこをよぉ‼︎」


「……何を言ってる⁈ この狂人め……」


 ペッパーは激昂の色を強める院長の頭に銃口を突きつけた。


「フヒヒヒヒ! 時間内にあの黒鬼野郎が到着することを祈ってるんだなぁ! まずお前の頭を吹っ飛ばしてやるぜ? 院長先生よぉ⁉︎」


 冷や汗を流しながらも院長は落ち着いた表情でペッパーの下卑た笑顔を見据える。


「私はどうなってもいい…… だが他の医師や看護師は解放してやってくれ……」


「クククク…… 先生! 立派なことだなぁ! だがそうはいかねえ。まあ要望通り真っ先にお前からやってやるから安心しな?」


「……くっ」


 そのやり取りに激昂した一部の医師や看護師がテロリストたちに取り囲まれながらも抗議をする。


「院長先生!」


「この卑劣漢め!」


「ゲス野郎! 地獄に堕ちろ! 狂信者!」


 ペッパーは笑みを深めながらも騒いだ人質たちに銃口を向けツカツカと歩み寄る。


「くくく! おもしれえ……! やっぱり気が変わったぜ…… 今生意気な態度をとった奴ぅ! 全国中継で頭が吹っ飛ぶところを見てもらいな‼︎」


 院長は慌ててペッパーの前に立ち塞がり部下たちを庇う。


「やめろ! やめたまえ! やるなら私をやれ!」


 しかし、無慈悲にもペッパーは教徒たちに冷たく命令する。


「そうはいかねえよ! 俺を怒らせた罰だぁ! さあ! カメラの前にそいつらを並べなぁ‼︎」


 そして悲鳴をあげる人質たちを教徒たちがカメラの前に並べようとした時だった。


「やめろ! ペッパー! 沢山の病人を抱えるこの病院で医療者を人質にとるとは何事だ! この卑怯者め‼︎」


 青年の凛とした声がホールに響き渡りテロリストたちの動きが止まる。

 ペッパーは声の主を認め顔を歪めて笑った。


「おっ! フヒヒヒヒヒヒヒ‼︎ 早かったなあ! アグレアイオスゥゥ! マリア王女もいるな⁈ よしえらいぜぇ!」


 後ろに白い服を着た麗人を庇うように立ちながら黒騎士アグレアイオスはペッパーたちを睨みつける。


「ペッパー! 人質を解放しろ……」


「ハハッ‼︎ お前らが俺らに指示できる状況じゃねーのはわかってんだろ⁈ ……まあいい! 人質の女5名を解放する代わりにマリアをこっちによこせ!」


「そんな交渉には応じられん! 全員大人しく投降しろ!」 


 問答に焦れたペッパーは舌打ちをしながら人質の1人に銃口を突きつけた。


「……ペッパー! やめろ!」


 ペッパーは銃口を突きつけたまま悲鳴をあげる人質の襟をぐいと引く。


「うっるせぇぇぇぇぇぇ‼︎ いいか⁈ この場ではオレ様が王様だ! 絶対にオイラのいうことをきけぇぇぇぇ‼︎」


 微風にサラサラと靡く白銀の髪を押さえながらアグレアイオスの背後の麗人は前へと進み出る。


「……総長さん 大丈夫です」


「殿下……」


 アグレアイオスは眉を顰めながらもペッパーの要求に応じるしかなかった。

 コツコツ、と廊下を歩きこちらにやって来る麗人にペッパーは満足したように笑う。


「そうだぁ! ゆっくりとこっちへきな! お嬢さんよお! 大人しくしてれば丁重に扱ってやるよ! フヒヒヒヒ!」


「約束通り人質5名の方と交換です」


 そう言って距離をとったところで止まる麗人にペッパーは鼻を鳴らす。


「フン! おい!」


 そうして人質の中からとりわけ若い女性5名が選ばれてこちらへと歩みを進める。

 震える人質5名と交差しながら白い服を着た麗人は無表情でペッパーの方へと再び歩みを進め、そして卑劣なテロリストの手の届く所まで到達した。


「よぅし! いい子だぁ! 早速鎖で繋がせてはもらうが大人しく……」


 そう言ってペッパーが麗人の肩に手を伸ばした瞬間、鈍色の一閃が虚空に奔った。


「ギャアアアアアアアア‼︎」


 いきなり女の取り出した小刀に切りつけられたペッパーは顔を押さえて鮮血を流す。

 テロリスト達は思わぬ反撃に面食らうが女を取り押さえようと一斉に襲いかかる。

 女はバックステップで距離を取り小刀を構えるがたちまちのうちにテロリストに囲まれてしまった。


「くっ! 爆弾魔を仕留め損ねたか……!」


 果敢にテロリストに応戦するその女にペッパーは顔面を斜めに裂くように切りつけられた傷を押さえながら怒りの声をあげる。


「このっ! クソ女‼︎ てめえ! マリアじゃねえな!」


 テロリスト達は背後から女の小刀を取り押さえ、そして床へと組み伏せた。


「あっ‼︎」


 小さな悲鳴と共に女の変身魔法が解け、白銀の髪は紅玉のような赤に戻り、柔らかかった目の形は吊り目気味の形へと戻った。

 アグレアイオスはその女性の本当の名・・・・を叫ぶ。


「カリン殿‼︎」


 カリン・ノアの提案により、マリアの身代わりとして人質を助けるためこの場に赴くことになったのだが、奇襲には失敗してしまった。

 ペッパーは顔を紅潮させながら銃口を人質の方へと突きつける。


「アグレアイオスゥゥゥゥ! 騙しやがったなあああ‼︎ 動くんじゃねぇ! 動くと人質を……!」


 その時、白い煙が辺りから吹き出しテロリストと人質たちを包み込む。

 戸惑うテロリスト達を縫うようにガスマスクを装着した騎士達が小銃で教徒たちを射殺し、あるいは剣で切り捨て次々と奪い返した人質達を窓の外へと投げ飛ばす。

 ……もちろん備えは万全である

 大きな鳥とそれに乗った騎士達が人質たちを受け止める。

 準備を整えるための時間を作るカリンたちの陽動は無駄では無かった。

 しかし、カリンは複数名の教徒たちに取り押さえられたままである。

 その時、青い影が白煙の中を疾る。


「カリンさん‼︎」


「…….くっ! なんだっ! このクソワニめっ‼︎」


 柱の影から青い鱗の巨体が転がるように突進し、カリンを取り押さえるテロリスト達を薙ぎ払い麗人を奪い返した。

 シェルドンは腕にカリンを抱え、転がるように退避した。


 次々と人質を奪い返され、そしてあっという間に人員も制圧されたテロリストたちは動揺し崩壊を起こし始める。

 残った人質はあと数名しかいない。

 アグレアイオスは手を翳し配下の騎士達に命令を飛ばした。


「一斉にかかれっ! 人質の救出が最優先だ!」


 さらに攻勢を強める騎士たちにテロリストは数を減らし、人質を手にかける間もなく奪い返されていく。


「グアっ! なん、なんだ⁈ こいつらっ!」


「クソッ‼︎ クソッ‼︎ クソがあっ! アグレアイオス! クソ野郎めっ!」


 遂には残る人質が1人のみとなったグノルシア教徒たちは今度は銃口を自らに突きつけられる。


「間抜けなペッパーとその一味よ。今度こそ貴様らを処刑台に捧げてやる」


 そう言うアグレアイオスを睨みながらペッパーは舌打ちし、運んできた棺桶を見つめる。


「ぺ、ペッパーさん……!」


「フン‼︎ 慌てるな! まだ人質に院長が残ってる! それに…… おい! 棺桶を開け!」


 残ったグノルシア教徒は2名。

 院長の首を掴みながらペッパーは動揺する教徒達にその棺桶を開くように命令する。


「よ、よろしいので?」


「はやくしろっ! 俺がお前をぶっ殺すぞ‼︎」


「は、はいっ‼︎」


 青い顔で2名の教徒は棺桶を恐る恐る開き始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだまだ戦いは続きそうですが。
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