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第二十三話 国立病院襲撃

 その日は普段と何も変わらない1日であるはずだった。

 何の前兆もなく、医師や看護師たちは清掃員たちとすれ違い回診を続け診療を行っていた。


 病院の一室ではある棟の医師と看護師を集めてカンファレンスが開かれていた。


「では○○くん、C病棟の回診報告を」 


「はい」


 一人一人、院長の仕切りで医師と看護師が意見を述べあい滞りなく会議は進んでいくが白衣を着た足を組む男がおもむろに挙手し軽い調子で問いかける。


「はい! 先生!質問がありまーーす!」


 なんとも態度の悪い男であったが院長は訝しげに指を刺す。


「……君は えっと、済まない、誰だったかな? 顔と名前が一致しない」


 院長は戸惑いながらそのおかしな調子の男に問い返す。

 所属医師であれば全員の顔を認識しているはずであるがこの男に見覚えがない。

 ……このような医師が居ただろうか

 その紫色の髪の男は頬の火傷跡を撫でながらますますふてぶてしい調子で笑った。


「いやいや、いいんですぜ? 無理もない。おいらはこうして白衣を借りてここにいるだけなんで」


「なんだって……?」


 医師たちの間で小さな騒めきが生じ困惑しながら院長は男を見つめ返す。

 へらへらと嫌な笑いを浮かべながら医師に化けたペッパーは立ち上がった。


「改めて質問でーーす! 先生! 年中難病や怪我を治療しているあんたら医者やその患者どもを人質にとって国防組織に挑戦するおいらたちは最高にイケてますかーー?」


 その瞬間、この会議室の扉が開き清掃員たちが続々と入室し医師や看護師に懐やバケツから取り出した銃を向け始めた。

 悲鳴を上げながら人質たちは戸惑う。


「な、何をいっとるんだ君は⁈」


「おい、困るよ君たち! なんなんだ!」


 ペッパーはますますおかしそうに机の上に座ると清掃員に化けたグノルシア教徒から銃を受け取った。


「ヒヒヒ! そうがなりたてんなよ、お医者さんがたよお! んん? 俺にゃあ学なんてねえからお前らが何やってんのか全く分かんねえぜ。でもなあ、お前らは俺らのいう事を聞くしかねえ。わかるだろ?」


「ひっ!」


「銃だ! 銃をもっているぞ……!」


 銃を突きつけられますます医師たちは混乱に陥った。

 院長は気丈にも目の前のペッパーを睨み返し尋ねる。


「君たちはなんなんだ? この卑劣漢め!」


「まあ、大人しく着いてきてくださいよ先生がた。そうすりゃあ誰も死ななくてすむかもしれないぜ? 多分?」


 そう言ってペッパーは院長の顎に銃口を突きつけた。

 冷や汗を流しながら院長は遂に何も言い返せなくなる。


「……くっ」


「院長……」


 院長は落ち着きながら周りを見回し静かな口調で両手を上げた。


「仕方あるまい…… みんな、抵抗するな」






 ◇






 病院の駐車場ではマサヒデによるおもてなし、茶道パーティーが続いていた。

 ズィーゲンの騎士団により茶道らしき場が設られ20数名いたマリアを追いかけてきた記者たちは渋々と茶を飲み続けている。


「さあ、さあ! これが日本の茶道というものですぞ! まだまだお代わりはありますから遠慮めされるな!」


 記者たちの大半は抹茶の渋みに顔を顰めお代わりを辞退する者が多い。


「は、はあ、遠慮しときます……」


「に、苦い…… なんだこのマッチャとかいう濃い緑色の飲み物は?」


「せ、セイザとやらがきつい……」


「チャガシとやらはそこそこいけるが…… ニホンというのは変わってるな……」


 満足しているのはマサヒデと抹茶が気に入った少数の記者たちだけであった。

 そんなご満悦のマサヒデの背後から近づく者がいた。


「さあさ、たんと召し上がってくだされ! ん? なんだ君は?」


「エルフの国ズィーゲンのマサヒデさん、だな?」


 怪訝な顔でマサヒデは白衣を着た不気味なその男を見つめる。


「いかにもだが?」


「無防備すぎるぜ? アンタ」


 そう言うとおもむろに取り出した小銃の銃口をマサヒデの首筋へと近づけた。


「ほう」


 マサヒデは座ったまま落ち着いて辺りと男の観察を続ける。

 何人かの白衣を着た者たちが自分たちを囲んでいる。

 どうやらいつの間にか何者かに包囲されていたらしい。


「動くな! お前ら全員人質だっ‼︎」


 そしてこの場のリーダーらしき男の掛け声と共にグノルシア教徒によって記者たちに銃口が突きつけられる。


「う、うわああああああ‼︎ なんだ⁉︎ なんなんだ!」


「テロリスト……! こいつらグノルシア教徒だ……!」


 白衣を着たリーダーのグノルシア教徒は嬉しそうに記者たちの持つカメラを見つめ笑った。


「クククク! 生中継のカメラもあるな…… ちょうどいい! リアルタイムで脳みそが吹き飛ぶところをテレビの前の皆さんに届けてやろうか⁈」


「ひ、ヒィィィィィィ‼︎」


「やめろ! やめてくれぇぇぇぇぇ‼︎」


 男は空に向けて発砲し、恐慌に陥りかけた記者たちを黙らせる。


「うるせえ! 1番騒いだ奴から殺すぞ! さあ立てジジイ! まずはてめえからだ!」


 マサヒデの頭に銃口を向けるがこの退役将校は落ち着き払ったまま手元の抹茶を啜り始めた。


「ほう…… やれやれ、今どきの若いのは年長者への礼も知らんようだな」


「あぁ⁈ すかしてんじゃねえぞ! さっさと立て! ジジイ‼︎」


 その態度に頭にきた男はまたまた空に向けて発砲した。


「てめえだけじゃねえ……! 残りの人質も撃っちまうぞ‼︎ コラァ‼︎」


 記者たちは恐慌に陥り、落ち着いた態度のままのマサヒデに懇願する。


「…….ヒィィィィィィ!」


「お、大人しく従って下さい! マサヒデさぁん‼︎」


 しかし、マサヒデは尚も笑いながら手元の茶碗を卓に置くとゆっくりと立ち上がる。


「はっはっはっ!舐められたもんじゃなあ、我が親衛隊も。……見くびるなよ若造」


「な、なんだぁ……⁈」


 不意に立ち上がったマサヒデを見上げ今度は一瞬テロリストの男が驚愕する。

 ジジイにしては体格が良く、何より思ったよりでかい。

 ……呆気に取られたその瞬間リーダーの両腕に電流のような痛みが走った


「ぐっ⁈ ……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎ お、オレの両腕がァァァァァァ‼︎」


 リーダーの男が痛みの走った自分の腕の先をよく見ると二の腕の先からが無くなり赤い鮮血を吹き上げていた。

 マサヒデを見るといつの間にか腰から引き抜いた剣の血を拭い周りのテロリストたちを睨めつける。

 マサヒデが日本刀を意匠したその剣の居合いによりリーダーの両腕を真っ二つに斬り裂いたのだった。


「お、おいいい! 大丈夫か⁈」


「クソッ‼︎ ジジイッ‼︎ 構わんっ! 人質を1人殺せっ‼︎」


 残ったテロリストたちが慌てて人質に発砲しようとするがその様子がおかしい。


「……おい! 何をしている⁈ 撃てと言っただろう‼︎」


「そ、それが……」


「ゆ、指が動きませぇぇん‼︎」


「お、俺もです……!」


「オレは身動きすら出来ません‼︎」


「何⁈ どうなってやがる⁈」


 テロリストたちが人質に銃口を向けたまま冷や汗を流しその動きを止める。

 マサヒデは悠然と歩きテロリストの1人の肩を叩くと無表情でその顔を覗き込む。

 反撃のため銃口を向けようとするが鉛のように腕と身体が重くなり動かない。


「見えんか? まあそうじゃろうなあ。風が舞っておるのよ。お前らの周りに」


「な、何を言って…… グェェェェェェェ‼︎」


 マサヒデがテロリストを殴りつけたと同時にその場に飛び込んできたズィーゲンの騎士たちがテロリストたちを投げつけ殴りつけ各々確保する。

 マサヒデが部下の騎士たちと高い塀の上のゾーラを振り返る。


「ババア…… お前ら、遅かったがご苦労」


 ゾーラは塀から飛び降り尚も辺りを警戒する。

 この魔術師の風属性の魔法によりテロリストたちの動きを縛り制圧する事に成功したのだった。


「ふん、気を抜くでないぞジジイ」


 やってきた4、5名の騎士たちは倒れたテロリストたちを集め縛り上げると渦中のマサヒデや記者たちを気遣う。


「マサヒデ様! ご無事ですか⁈」


「二手に分けて貴方の救援に来ました!」


 グノルシア教徒による襲撃に対抗してその大半を病院にいるマリアの方に回したというがマサヒデは部下たちにすぐさま指示を飛ばす。


「ワシの事などいい! テロリストが迫っておるようだ! 残ったお前らも早くマリア様の元へと急げ! 生命に換えても我らが姫を守るのだ‼︎」


「「「は、はい!」」」


 騎士たちは言われたままに病院の方へと駆け出した。

 マサヒデは解放された記者たちを気遣い退避を促す。


「テレビクルーの皆さんも早くこの場から離れた方がいい…… まだデカイのがくるぞ」


「え、ええ! 退散させて頂きます……!」


 記者たちはマサヒデとゾーラを後にし慌ててその場を逃げ出し始めた。


 彼らを慌てて逃したのは理由がある。

 何故か魔力は全く感じないが妙な威圧と嫌な予感ばかりがマサヒデとゾーラを包んでいた。

 背中を預け合い老戦士たちが辺りを警戒すると、やがて痺れを切らしたかのように一陣の砂埃が舞い上がりいつの間にか二つの黒い影がこちらへと歩みを進めてきた。


「ふーーん。なかなか強いお爺ちゃんとお婆ちゃんね」


 砂埃が晴れ、ゆっくりと歩いてくる二つの影にマサヒデとゾーラは身構える。


「ジジイ…… 恐らくアレが私の第六感を阻害した原因じゃ…… 全く今回の奇襲を察知出来なんだわ」


「ほう。お前がそこまで評価するか。何故か魔力は感じぬがなるほど普通ではないな」


 整った顔立ちに赤みがかったブロンドの髪、左右非対称アシンメトリーの冷たい瞳は氷のように笑っている。

 その横に佇む白銀の甲冑を頭から纏った騎士は鎧の奥の冷たい瞳でマサヒデとゾーラを視認しているようだ。

 教団で聖女と呼ばれるネスとその横に付き従うクロフツと名乗る銀色の騎士。

 なんとも言えない静かな威圧を備えながら冷たく2人を見つめる。

 これだけの威圧を放ちながら魔力を感知できない事がより不安を煽った。


 マサヒデは刀を正眼に構えゾーラは杖を突き出すように構える。


「警戒すべきはあの騎士だけではないぞ……! そこの女も普通では無い」


「分かっとる…… 見た目通りの女ではなさそうじゃな」


 美しい顔をしたその聖女は笑いながら冷たくも可憐な声を発した。


「ふふふ…… 遊びましょうか、お爺ちゃん、お婆ちゃん。あなたたちの死体を目にした時のマリアちゃんの顔が楽しみだわ」


「ふん、すぐに軽口を叩けんようにしてくれるわ小娘」


「舐めるなよ、テロリスト。貴様らなんぞにマリア殿下には指一本触れさせん」


 ネスは美しくも残酷な笑みを深めながら傍のクロフツに命令する。


「ふふふ♪ さあやっちゃいなさいクロフツ。

 私ねえ、人の悲鳴が大好物なの。しっかりと楽しませてね♡」

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― 新着の感想 ―
[一言] マサヒデ、かっこいいですね。
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