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第二十二話 ブラディエルの矜持

 アグレアイオスとブラディエルは驚いたように顔を見合わせ2人を見比べる。

 マリアの真剣な表情は聖水が本物である事を物語っていた。


 ブラディエルはマリアの顔をじっと見つめながら尋ねる。


「……秘薬を持ち出してきたのですか」


 聖水はエルフ王家と魔族の指導者の間で極秘に取り引きされ、ズィーゲンで採取された約20%がガストリスに密かに輸出されていた。

 その使い途は三大貴族の間で決定されるのであるのだが……

 マリアはデモンズゼッド家の当主であるブラディエルが聖水による治療が受けられないのはおかしいと思っていた。

 迷いのない瞳でマリアはブラディエルの顔を見つめ返す。


「その通りです。これは私が貴方のファンだからではありません。夢を紡ぎ続ける貴方がこの世界の平和のために必要だから禁忌を破ってまでこの聖水を持ち出してきました」


 目を閉じるとブラディエルは首を横に振りつつ間を置かず応えた。


「お気持ちはありがたいですがその申し出は辞退させていただきます」


「……そんな、どうして?」


 悲しげな顔のマリアにブラディエルは微笑みかける。


「殿下、私なんぞにそこまで気をつかっていただいて本当に嬉しく思います。

 しかし、その聖水は貴方が仰ったように年間にいくらでも摂れるものではありますまい。

 年に投薬できる者は幾人いるのですか?

 私にそれを摂取する権利はあるのでしょうか?

 貴女に生きる者と死す者を分ける権利はあるのでしょうか?」


 柔らかに、優しいその言葉はマリアの胸に突き刺さった。

 聖水は約1ccを希釈して漸くその効果を発揮する……

 つまり年間で約10名程しか聖水による治療を受ける事ができないのだ。

 まるで叱られた子どものようにマリアは涙を堪えブラディエルを見つめる。


「……ブラディエルさま」


 ブラディエルは小さく頭を下げると尚も諭すように続ける。


「不敬を働き申し訳ありません。ですが、これは生命に関わる問題なのです。貴女はこれからますます重責を担われる御方。

 人の生命を救い、戦争の火種にすらなり得るその秘薬についてもう少し真剣にお考えください。貴女お一人が責任を取ればそれで済む問題ではございません。

 今もこうしてその秘薬がここにあるばかりに治療を受けられない者がいることをご自覚ください」


 伏せていた顔を上げマリアは一筋の涙を拭い、ブラディエルの穏やかな顔を見つめ返す。

 ……痩せたその頬にはもはや死相が浮かんでいた

 最後の願いを込めるようにアグレアイオスを見遣りマリアは懇願するように尋ねる。


「……貴方は生きたくはないのですか?

 アグレアイオス殿だってきっと貴方の治療を望んでおられます。

 私は貴方に生きてもらいたい!」


 その物言いに隣にいたカリンが思わず激昂し、マリアの肩を掴んだ。


「マリア様! その物言いは卑怯です! ブラディエル様にもアグレアイオス様に対しても失礼ではないですか!」


「だって……」


「お二人とも落ち着いて」


 喧嘩を始めそうな2人を押しとどめるアグレアイオスたちを見つめながらブラディエルは落ち着いた口調で話し始める。


「私は元々絵画が好きでした。

 そして数年前にニホンという国の文化に触れてから今度は更に漫画という文化にどっぷり浸かりました。

 それからは夢中になって漫画を描きました。

 私の作品は多くの人の目に触れ、愛され沢山の応援の手紙まで頂きました。

 私の漫画人生で1番の誇りは遠くの大陸で私の作品の映画の封切りに合わせて和平を結び戦争が終結した事です。

 私に出来たことです。

 ……貴女は私以上にこの世界に平和をもたらすことができる

 私は充分に生きた。

 その薬は難病で苦しむ未来ある子どもに使ってやってください」


「……ブラディエルさま」


 ブラディエルの作品は戦争さえ止めたことがあるという。

 運命に殉じるつもりのこの大作家にマリアは涙し俯く。


 ブラディエルはアグレアイオスと目を合わせると頷き微笑む。


「済まないな、レオ。私は数週後にはお前の母さんの元に旅立つだろう。だが、私はお前については何も心配していないよ」


「……父上

 私も貴方を誇りに思います」


 この親子が共にいられる時間はもうそれ程残されてはいない……


 その時、ノックの音とともに慌てて駆け込んでくる男がいた。

 見ると魔都防衛騎士団の兵士が非礼を詫びながらも息を切らしアグレアイオスに傅く。


「どうした?」


 その尋常でない様子にアグレアイオスが尋ねると配下である兵士は息を吐くように報告を始めた。


「不覚にもグノルシア教徒で構成されたテロリストによって当院が占拠されました! 奴らは医師や看護婦を拘束し最上階のホールに集めて人質としています……!」


「……なんてことだ やってくれたな、テロリストども……!」


 アグレアイオスは拳を握りしめ、急いで頭を仕事用に切り替え回転させる。

 ……なぜ殿下のための警護シフトを敷いていたはずの当院を突破されたのだろう

 そして今回魔術師ゾーラの占いセンサーが危機を察知できなかったようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思いが巡りますが、テロリストはおかまいなしですね。
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