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第十八話 パーティー終了

 アグレアイオスとフランクスは無事終わった2人の麗人の演舞と観衆の拍手喝采を眺め、別々の反応を見せる。

 こうしていても一瞬たりとも気が抜けないアグレアイオスは内心で胸を撫で下ろし、フランクスは満面の笑みで拍手を送り友人を振り返る。


「やはり殿下と君をパーティーに誘って良かったよ。みんな大喜びだ」


「それは何よりだ」


「レオ、一応君には話しておこうと思う」


 アグレアイオスは連れ立ってダンスホールを行く麗人たちを気にしながら改まった声音のフランクスを振り返る。


「何だ、フランクス」


 フランクスは頬を掻きながらもどこか満足げな笑みと済まなさを滲ませた口調で話し始めた。


「今度、我が家が新設する警備組織の長に僕が就任することが決まった。名前は金獅子きんじし隊。君のところとバッティングした時にトラブルにならないようによろしく頼むよ」


「……そうか、本格的に決まったのか。ああ、わかったよ」


 以前よりドゴスギア家直属の警察機構を新設する、という計画は現出納長であるバルザック主導で持ち上がっていた。

 現警察機構である魔都防衛騎士隊との業務の擦り合わせなどが面倒であるが、彼が決めたことならば仕方ない。

 頭ごなしに決まったことに諦観を覚えながらアグレアイオスは無難に返答する。


 その心中を知ってか知らずか、フランクスは次の話題に移った。


「レオ」


「何だフランクス」


「ドロテナのことは済まなかったと思っている」


「もういい。私は何も気にしてはいない」


 アグレアイオスはその済まなさそうにするフランクスの目をじっと見つめる。

 その声色と表情に嘘は無かったが、数年前に済んだ話を今さら何度も謝られることに少し苛立ちを覚えた。


 元来はドロテナの実家ザガナス家からどうしても、と持ち出された縁談だった。

 アグレアイオスも婚姻についてそれほど深く考えていたわけでは無いが、彼なりに誠実に彼女に対応したつもりであった。

 それでもその縁談は破棄となった。

 彼女の希望でだ。

 彼女は表立っては口にはしなかったが「王殺し」の家系であるから、という理由で婚約破棄されたことは当時の彼に少なからず衝撃を与えた。

 それ以来他家も遠慮してか強くはアグレアイオスに縁談を勧めに来なくはなった。

 ……今となっては煩わしくなくて良いとすら思っているが


 フランクスは彼の「気にしていない」という言質を取るといつものように惚気話を始める。

 アグレアイオスもダンスホールを見回しながら聞くともなく友の話に耳を微かに傾ける。


「……ますます美しいだろう彼女は。流石ミス星夜祭だ。今ここで恨み事の一つも述べてくれて構わないよ。そんな事で我がドゴスギア家とデモンズデッド家に亀裂が入っては困るからね。もうここで過去は清算してくれると助かる」


「……もういいと言っている」


「そうか、ならば何よりだ」


 フランクスは満足そうに手元の真っ赤なワインを飲み干した。




「王女殿下。今日は無理を言ってお越しいただきありがとうございました。心より感謝します」


「ダンスも一緒に踊れて楽しかったです、殿下」


 リムジンに乗り込む王女を始めとする護衛団に向けて来客を代表し、フランクスとドロテナが深々と頭を下げて礼を述べる。


「私も来て良かったわ。ありがとう、楽しかったわ」


 マリアは来客たちに向けて笑顔で挨拶し、そしてリムジンは屋敷を後にした。



「殿下、ご機嫌よさそうですね」


「色々と心配かけたわね、カリン。じいとばあにも留守番をさせて申し訳ないわ。さあ、帰りましょうか」


 アグレアイオスは行きよりも幾分か機嫌の良くなったマリアの様子に安心する。


「ご満足頂けたなら何よりです。私の旧友の我儘にお付き合い頂き申し訳ない」


「とんでもないわ、とても楽しかったもの」


 そして車窓から月を見上げながらマリアは沈痛な面持ちに変わる。


「明日は国立病院の視察ですね。

 ……私のために怪我を負った皆様にもお礼を言いたいのですが」


 明日は先日、爆弾魔との戦いで負傷した騎士団の慰問を兼ねた視察が予定されている。

 アグレアイオスはマリアのその言葉に首を横に振る。


「殿下が気になさることはありません。それが我々騎士団の務めですから」


「……それでも心苦しいです

 手足を失った方までおられるそうで……

 貴方の父上も国立病院に入院されているそうでご容体が心配ですわ」


 アグレアイオスの父ブラディエル。

 彼もまたデモンズデッドの宿命を背負う者であったが、面白いことに彼はその父や息子とは全く違う道を歩んでいた。


「我が部下には貴国の医療技術による義手と義足の提供がありますから、御心配なく。

 我が父のことまで気にかけてくださりありがとうございます。ですがわざわざ殿下のお手を煩わせるほどのことでは」


「いいえ、是非会いたいわ。貴方のお父様に。いえ……」


 マリアは少し頬を紅潮させながらアグレアイオスと目を合わせるように懇願した。


「会わせて下さい。私は世紀の大漫画家ブラディエルの大ファンなのですから」


 アグレアイオスは嬉しさと可笑しみを堪えながらマリアへと微笑みかけ頷いた。


「そうですか、そこまで我が父の作品を慕ってくださり光栄です」


 漫画家ブラディエル。

 アグレアイオスの父ブラディエルは名門貴族でありながら数年前に煩わしい政治の道を途中で投げ出し、異世界から輸出された「コミック」という文化に感銘を受け数々のヒット漫画と後に映画化までされた名作をこの世界に送り出した大漫画家と呼ばれる人物であった。

※ドゴスギア家

ガストリス公国の名門貴族であり平和の立役者と称される。

家紋は金獅子。

代々国家財政についての業務を担う。

ガストリス貴族で最も多くの領地を所有する。

知略に長けた一族である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 異世界の文化の「コミック」の導入というのは面白いですね。
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