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第十三話 爆弾魔

「どう説明したものかの」


 夕陽が刺す応接間の椅子に腰を下ろし老婆は思案に暮れているようだった。


「占いというのは精霊の声じゃ。その精霊の声が危機を知らせておる。何度も何度もな。私自身この魔都に入ってから薄ら寒い予感というものを感じておるんだよ」


 対面の椅子に腰掛けアグレアイオスはゾーラの言葉を反芻する。

 高名な魔術師であるゾーラ・ガレットは占いを通じて精霊の声を聞くことが出来るという。

 そして今までに幾度も災いを事前に予知してきたと言う話も聞いたことがある。

 こういった異才を持った者の話というのは分かりにくいが、しかしそのゾーラが「嫌な予感」を覚えているというのだ。


「信じていないわけではございません。しかし私は精霊術式というものには疎いのです。その占いというものを見せていただけますか?」


 占いというものに疎いアグレアイオスはゾーラに直接その結果を見せてもらうことを提案し、彼女も頷いた。


「ええよ。人員も時間もリソースは限られとる。確認は必要じゃよな。なんでもええ。あんたの任意のトランプでもダイスでもチェスの駒でもいいから貸しとくれ」


 そして半信半疑で側の戸棚から引っ張り出してきたトランプカードやサイコロ、チェスの駒などをゾーラに渡すと目を疑うような結果が起こった。


「これは……」


 ゾーラが裏返したトランプのカードは尽くジョーカーになり、幾度振っても賽の目は全てピンゾロ。

 おまけにチェスの駒を盤にひっくり返すと全ての駒が裏返しになって折り重なるようにタワーを作った。

 手品を仕込む時間は無かったはずである。


「驚くじゃろう…… 精霊の囁きがここまでの反応を見せたのは初めてじゃ

 ……つーかこのチェスの感じは笑えるがな

 とにかくこの街の精霊が騒めいているのは確かじゃ」


 机の上の珍現象を見つめながらアグレアイオスは暫く考え込む。

 他の者が起こした現象であれば笑い飛ばせばいいが、ゾーラは高名な魔術師である。

 彼女自身も嫌な予感がすると言っている以上、珍現象と切り捨てる事はできない。


「我々が協力して時間をかければ…… 我がドミニエルに具体的ににどのような危機が迫っているか分かりますか?」


「ああ、協力してくれるか」


 快く頷いたゾーラにアグレアイオスも微笑み頷き返す。


「もちろんです。こちらからお願いします。貴女のお力をお貸しください」


「ああ、必ずパレードは成功させよう。魔族とエルフが和平する千載一遇の好機を逃してはならん」






 ◇






 数名の武装した兵士が小銃を構えペッパーを含む白衣の男たちの前へと横列を作る。


「砲撃隊、構え」


 小隊長の男の号令と共に兵士たちが一斉に銃口を向けると白衣の男たちは観念したように小さな悲鳴を上げた。

 やがて小隊長の掛け声と共に引き鉄に指が掛けられる。


「撃てぇ‼︎」


「ヒャッハァ‼︎ なめんな‼︎ 効くかよそんな豆鉄砲‼︎」


 鈍く響く銃声を嘲笑うとペッパーの掌から紫色のオーラが降り注ぎ、起こった小さな爆発により発射された銃弾の全てが防がれた。

 危機を脱したグノルシア教徒たちはペッパーの方を見る。


「ペッパーさん……!」


 冷酷に見えるペッパーであるが仲間思いの一面があったのだろうか。

 ……否


「はっ! 気にすんなよ! お前らは貴重な弾なんだからな!」


「えっ……?」


 その不穏な発言に唖然とする教徒たちを余所にペッパーは先ほど締め上げ意識を奪った教徒の男の首根っこを掴み振りかぶった。


「おらぁっ‼︎ 次はおいらの番だぜ! くらいなっ‼︎」


 そう言って己の部下である教徒を投げ飛ばすと教徒の背中からブーストのような爆発が起こり加速するように騎士たちの隊列へと突っ込んできた。


「こいつっ……! 自分の仲間を‼︎ グッ‼︎」


 退避する暇もなくその身を伏せる兵士たちの前に土の壁が現れそのまま投げ出された教徒が激突すると大きな爆発が起こった。

 土壁はアグレアイオスの魔力によって作り出された防御壁だった。


「おっとおー! やるじゃねえかあー! でも弾はまだまだあるぜ⁈ キヒヒッ‼︎」


 狂気の笑みを浮かべ自身の仲間を文字通りの捨て駒にするペッパーに騎士団は驚愕を持って身構える。

 騎士たちへの損傷は軽微であったが何とも残酷な攻撃方法であった。


「爆発した……⁉︎ 自分の仲間を爆弾にしやがったのか⁈ なんてやつだ‼︎」


「やめな‼︎ なんてひどいことをするんだい‼︎」


 ゾーラや兵士たちの激昂に構うことなくペッパーはニヤつきながら平然と言ってのける。


「はっ‼︎ 俺が俺の玩具をどう使おうが勝手だろうが‼︎」


 その冷酷なペッパーの宣告に教徒たちは真っ青になり慌てふためく。

 そして幾人かは持っている武器を取り落として騎士団の方へと駆け寄って行った。

 このままでは仲間であるはずのペッパーに殺されてしまうからだ。


「じ、冗談じゃねえ‼︎ 捕まった方がマシだ‼︎」


「お、俺もだ‼︎」


 しかし、ペッパーは逃げる教徒たちを見ても尚もその太々しい態度を崩さず余裕の笑みさえ漏らす。


「お? おやおや⁈ つれねえなあ! 一緒に花火しねーのか? フヒヒ!」


 泣きながら這々の体で騎士団の方へと駆け寄った教徒たちは地面へとひれ伏すように命乞いを始めた。


「頼む‼︎ 投降する! 助けてくれ‼︎」


 ペッパーはそんな教徒たちを尚も歪んだ笑みで見つめそして虚空へと呪符を描いた。


「ヒャハハハハ‼︎ 残念‼︎ でも好都合だぁ‼︎廃れ落ちる狂い咲スタンカ・ボム


 ペッパーが呪文を唱えた瞬間、命乞いをしていた教徒たちに紫色の閃光が奔ったかと思うと音を立てて爆発した。

 教徒たちは彼ら自身の知らぬ間にペッパーの手でその身体に爆発の術式を施されていたのだ。

 つまり彼らの命は何処へ逃げようともう詰んでいた。


「ひ、ひいいい‼︎」


「もうお終いだあ‼︎」


 自身たちがペッパーに改造されていたことに気づいた残りの教徒たちは慌てふためき泣き崩れる者もいたが、ペッパーは爆発により朦朦と上がる白煙の先を見つめながら狂ったように嗤う。

 彼にとって仲間すらも自身の爆弾おもちゃに過ぎないのだ。


「どうだ⁉︎ 5、6人は吹き飛んだか⁈ ヒャハハハハハ‼︎」


 しかしやがて晴れてくる白煙の先から聞こえてくる低音の鋭い声がペッパーの狂笑を否定する。


「いいや、私の部下は1人も傷付いてはいない」


「総長……!」


 すぐに晴れた白煙の先にはほぼ無傷の騎士たちが黒い甲冑を纏ったアグレアイオスの後ろに驚きと畏敬の表情で立っていた。

 爆発した教徒たちの座っていた床の部分は抉れていたが、そこから先は地面から突き出した黒い岩盤が覆うようにその爆発の衝撃を防いだようであった。

 もちろんアグレアイオスの魔力である。


 黒鬼は無表情のまま気負う様子もなくやがて狂気の爆弾魔の方へと歩き始めた。


「私が戦ろう。奴の戦法は余りにも変則的過ぎる」


 ペッパーは呆気にとられ、そして激昂した。

 自身の爆裂魔術をみて何の反応も示さない男は初めてであった。

 今までは誰もが自身の残虐性とその爆発の凄まじさに恐怖と驚きの反応を示して当然だった。

 アグレアイオスのその態度はペッパーにとって自身の芸術作品ばくはつを否定されたに等しかった。


「……イケメン黒鬼野郎ォ‼︎ 本当にムカつく野郎だな……! ことごとく俺の花火の邪魔をしやがってよお‼︎」


 ペッパーの激昂に構うことなくアグレアイオスは腰の剣を抜かないままで力強くしかし静かにその歩みを進める。


「おい外道。自分の仲間を何人も殺して心が痛まないのか? 訊くだけ無駄か?」


「あぁ⁈ るっせぇぇぇ‼︎ お前から塵にしてやんよ‼︎」


 そして傍に泣き崩れていた教徒の一人の頭と腰を掴むと投擲の態勢をとった。


「ひいぃっ‼︎ やめてっ! やめてくださいペッパーさぁぁん‼︎」


 泣いて命乞いをする教徒に構うことなくペッパーはその男をアグレアイオスへと勢いよく投げ出し、そして爆発のコードを送る。


「ストラァァーーイク‼︎ ってとこかぁ⁈ ヒャハハハハ! あぁ⁉︎」


 しかしその爆弾は小さくポンっと音を立てただけで爆発を起こすことなくアグレアイオスに当たる前に空中で消滅した。


「なぜだぁ⁉︎ なぜ爆発しねぇ⁉︎ クソがぁ‼︎」


 この爆裂魔術に不発弾は有り得ない。

 何が起こったか分からず地団駄を踏んでペッパーは悔しがるがアグレアイオスは無表情のまま教徒の一人が消えた後を見つめていた。


「爆発を止められても教徒自身の身体は消滅する…… 直接部下の身体に術式を仕込んでいたのか、外道め」


「うっせぇぇぇぇ‼︎ くそが! こいつらの魂を捧げる! 出てこい‼︎ 浮遊する爆発魚ドルボム‼︎」


 ますます激昂したペッパーは後ろで震える教徒たちを振り返ると新たな呪文を唱えた。

 教徒たちを囲うように紫色の光で魔法陣が形成されシュウシュウと音を立てるように彼らの身体が紫色の光へと消えていく。


「もう! やめてくれぇぇぇぇ‼︎」


「うわぁぁぁぁぁ! ペッパーさぁぁん⁉︎」


 やがて教徒たちの身体が魔法陣に吸収されるのと引き換えに見上げるような大きな魚の魔物が空中で咆哮を上げる。


「哀れな……!」


 アグレアイオスは無慈悲に奪われた命に哀れみを感じ、そしてペッパーをその冷たい視線で射抜く。

 ペッパーはそんな黒鬼をみてせせら笑った。

 彼にとってそんな反応こそが望ましい。


「はん! どうせ糞みてえな命なんだ……! 最後くれえおいらの役に立ってドカンと散りやがれ‼︎」


 アグレアイオスは目の前の男を悪と断じ怒りと冷静さを孕んだ声で宣告した。


「死刑囚ベンパー、報いを受けさせてやる」


「はっ‼︎ やれるもんならやってみな! こいつは凶暴だぜぇ? いけっ! ドルボム‼︎」


 ペッパーの合図と共に空中を舞う大魚ドルボムがその鋭い牙を見せアグレアイオスの背後へと回る。


「ギョギョギョギョォォ‼︎」


 ペッパーは右手に紫色の魔力を溜め始めた。


「そしてお前は同時に俺の相手もしなきゃならねぇぇぇ‼︎ 死ね‼︎ そして弾け飛べ‼︎ 水差しクソヤローが‼︎」


 そして掌に掴んだ小石を投げると同時に大魚ドルボムが死角からアグレアイオスへと襲いかかった。

 もちろんこの小石にも爆裂魔術が込められている。

(流石にこの狭い場所で二方向からの攻撃はかわせねえだろお⁉︎ 死ね‼︎)


 ペッパーが勝利を確信し、ニヤリと歪な笑みを浮かべたと同時に頬に衝撃が奔りその視界がグニャリと反転した。


「はっ⁉︎」


 何者かに顔を殴りつけられ地面に叩きつけられるとともに視界の端にアグレアイオスが襲いくるドルボムをいなし投げ飛ばす所が見えた。


「ググっ‼︎ くそっ! 何が起こりやがった⁉︎」


 地に伏したままペッパーが顔を上げると青々とした鱗に黒い甲冑を纏ったワニの騎士が複数の兵士を従えアグレアイオスにお辞儀をするところが見えた。

 別働隊を率いていたシェルドンがこの場に到着したところであった。


「いいタイミングだ、シェルドン」


「遅れてすみやせん! オラはあのバカでかい魚の相手でいいんですかい?」


「ああ、そちらは頼んだぞ」


 短い会話を交わすとシェルドンがその背におった巨大な斧を構えて大魚ドルボムに向かい、黒鬼の騎士が地面に伏したままのペッパーに向かってくる。


「ぐぅっ! おいらの鼻が折れちまったじゃねえか‼︎ てめえらは粉々にしてやんぜぇ⁉︎」


 アグレアイオスはよろめきながら立ち上がるペッパーに悠然と歩みを進める。


「もう喋らなくていい。どうせお前とは噛み合わぬ」


「はっ‼︎ 言ってくれるぜ‼︎ 死ね! 全身全霊で吹き飛べや‼︎ 愚悪爆弾デュムボム‼︎」


 両手に紫色の魔力を込め、具現化した円形の爆弾を飛ばすが、その攻撃は黒鬼に当たる前に虚空に発動した魔法陣に阻まれ消滅する。

 唸り声を上げながらペッパーはじりじりと後退するしかなかった。


(クソッ‼︎ やっぱり爆発しねえ! どうなってやがる⁉︎)


 ペッパーは逡巡する。

 十分に不意を打ち綿密な計画を立てたはずだった。

 しかも自分は何人も無慈悲にその命を奪ってきた爆裂魔術のエキスパートである。

 しかし今日は敵方に一人の犠牲者も出せていない。

 冷や汗を流しながらペッパーは迫りくる黒鬼に対しますますと後退した。


「本当につまらん奴だなお前は」


「はっ⁉︎ ぶぐぅ‼︎」


 一瞬の瞬きの間に距離を詰められ顎を殴りつけられた。

 大きく吹っ飛びペッパーは壁へとその背を打ち付ける。


 何も感情を映さないその目でアグレアイオスは唖然とするペッパーをじっと見遣った。


「大勢に迷惑をかけることをこの上ない幸福と感じるその腐った性根、実に救い難い」


「グハッ‼︎」


 更に鳩尾に蹴りを入れられペッパーは口から鮮血を流す。

 ……こんなはずではなかった

 ペッパーはたまらず召喚した魔魚であるドルボムを呼びつける。


「ドルボムゥゥゥ‼︎ 何してやがる⁉︎ 早く鰐野郎を喰い殺しておいらを助けろ‼︎

 ……は⁈」


 見ると魔魚ドルボムは肉の裂けるザックリという音と共に真っ二つになって地面へと散らばっていた。

 丁度シェルドンの斧により処理されたところだった。


「お前のペットなんぞシェルドンの敵では無い」


「ち、ちくしょう……‼︎」


 唇を噛み締めその口から血を流すペッパーにアグレアイオスは片手をかざしその掌を広げた。


「ところで不思議がっていたな? なぜ爆発が起こらないのか、と。貴様などに種明かしをしてやるほど私は優しくはないが存分にその身で味わうがいい。好きなんだろう? 爆発が」


「……‼︎」


 目を見開き愕然とするペッパーの反応を気にすることもなく、アグレアイオスが掌に魔力を込めるとその先の虚空に赤い魔法陣が浮かび上がった。


「お前の大好物を食らわせてやろう。 反響する大地の鐘ディメンション・ディバイド‼︎」


 魔法陣を中心にして虚空に赤い閃光が奔ると共にペッパーの顔から胸にかけて小さな爆発が起こった。


「ギャアアアアア‼︎」


 激しい悲鳴と共にペッパーは顔を押さえて地面へとのたうちまわる。

 冷たい眼差しで黒鬼はのたうつ爆弾魔の様子を眺めながら腰の剣を抜刀した。


「何人もその手にかけておいて自分が食らう分には大層な騒ぎだな。爆発が好きではなかったのか?」

反響する大地の鐘ディメンション・ディバイド

地属性魔術。

アグレアイオスの魔力で魔法陣を描く事により自身より低位の術者のあらゆる魔力を吸収し、任意に反射する事ができる。

効果範囲は自身の周囲半径2メートル以内。

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― 新着の感想 ―
[一言] 両サイドの登場人物の個性が鮮烈に際立って、ストーリーを盛り上げています。
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