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第十二話 咲く花

 数十台の馬車が魔都ドミニエルの中央通りを順番に進んで行く。

 この魔都の住民たちは煌びやかな馬車や異国の代表者たちを見ようと我先にと身を乗り出し歓声を上げていた。

 とりわけ彼らの関心は1人の少女へと向けられている。


「王女殿下ばんざーーーい‼︎」


「私たちの国に医療魔術を!」


 ここ最近テレビや新聞により連日、隣国の王女が来訪したというニュースで持ちきりであり、ガストリスの民衆にとってエルフの王女は目下の関心ごとであった。

 元来敵対意識を持っていた隣国の王女の来訪は当初、民衆の間では歓迎されてはおらずむしろ批判の意見の方が強かった。

 しかし、その煌めくような銀髪と海のように深い翠の瞳が特徴的な愛らしい容貌、何よりインタビューより垣間見える温かい人柄に触れたガストリスの民たちの間では今、マリアフィーバーが起こっており、パレード当日である今日も多くの民衆が彼女を一目見ようと中央通りへと押し寄せていた。


 やがて定刻になると装飾を施された煌びやかな馬車が順々に姿を見せ観衆は沸き立つ。

 エルフの国の代表者とガストリスの貴族たちが立ち上がり手を振るが、やはり最後方を走る一層豪華な装飾の馬車に民衆の熱い視線が注がれた。


「マリアちゃーーん!可愛い!」


「サインくれ!マリアちゃん!」


 そして民衆の熱狂的な歓声に応えるようにマリアは立ち上がり、花の咲くような笑顔で手を振った。


「ウオオオオオ‼︎ もういっそ、この国に移住してくれ!マリアァァァァァ!!」


「アイドルプロデュースさせてくれぇぇぇ‼︎ マリアァァァァ!」


 限界オタク化し非現実的な妄想を叫ぶ民衆もいたがたじろぐ事なくマリアは愛想を振りまいていく。

 そして目敏い民衆はマリアの側にいる者へも関心を持ちまたポルテージを上げていった。


「あ、姫の側についてる女の子もかわいいな!おーーい!こっち見てくれ!」


「赤い髪が綺麗だな!」


 赤を基調としたドレスを着ていつもよりきっちりと髪を整えたカリンにも惜しみない称賛が浴びせられ、戸惑いながらも彼女はぎこちなくその手を振り返した。


「ラッセル副長もかっこいい!イケメン鷹!」


「わかりみ!あの鋭い目が良いのよねぇ……」


 元々、魔都防衛騎士団の幹部でありアグレアイオスの右腕として名高いラッセルもミーハー的な人気が高く、主に女性から黄色い歓声が送られるが彼は素知らぬ顔で周囲の警戒を怠らない。


「えーーい!何なんじゃ!この国の俗っぽさは!」


 マリアの側に立つマサヒデは半ば呆れながらこの馬鹿騒ぎを眺めため息を吐く。


「じい!おやめなさい!」


「お爺さま!」


「ふん、本当に必要じゃったのかのお、こんなぱれえど・・・・など」


 ラッセルは憤慨するマサヒデの方を振り返り宥めるように訥々と語り始めた。


「殿下のパレードは今回の催事の目玉という位置付けでして。どうか、ご容赦を。

 しかし、結構なことだと思われませんか。

 我々の姿を見て、市井の者が歓喜し手を振る。

 全く持って平和な光景じゃありませんか。

 これからの世界は国や身分の垣根を超え手を取り合い、より良い未来を築いていければいいと私などは愚行します」


 マリアは民衆へ手を振りながらもラッセルのその言葉に頷く。


「ええ、こんな事で少しでも民衆の方にお喜び頂けるなら私も嬉しいと思っております」


 馬車のスピードが少し弱まり、衛兵の1人が注意を促すように貴賓席に座る面々に声をかけた。


「もうすぐ、大きな交差点に差し掛かります。御留意を」






 ◇






 民衆たちのボルテージが上がるのを他所にペッパー率いるグノルシア教徒たちは廃墟のビルの上からじっとパレードの様子を見下ろしていた。


「くひひひひひ……! 何も知らねーバカどもがバカ騒ぎしてやがる……! いいぜ? いいぜ! よおおおくみてくれよな……! おいらの芸術をよお……!」


 不気味な嗤い声を上げるペッパーに教徒の1人が近づき告げる。


「ペッパーさん、そろそろ予定時刻です。これでこの街の主要な建物があらかた吹っ飛びますよ。王女からも惨劇の様子がよく見えるでしょう」


 ますます狂気の笑みを深めペッパーは一段高いところへと立ち狂気の嗤い声を青い空へと響かせた。


「よっしゃ……! やるぜ……! お前らにも見せてやんよ……! 本物の芸術ってやつをよ! 楽しみだぜ! 壊れたガキに駆け寄って泣き叫ぶバカ親どもの泣き声が……! バラバラになった親の遺体を拾い集めるバカガキの阿鼻叫喚が……‼︎ 今日の主役はエルフじゃねえ、このおいらだ……! 芸術はバクハツだぁぁぁ‼︎」


 これから自らが創り上げる狂った芸術・・を思うとますます激情を抑えられなくなり、ペッパーは身を捩りながらひとしきり嗤うとその両手に紫色に光る魔力を凝縮し始めた。

 数日かけて準備した街中の術式にペッパーによる特殊なコードを送り込まれることが起爆の合図となるのだ。

 高々と掲げた両腕をグルリと回すとペッパーは虚空に呪符を描きその紫色に燃える魔力を迸らせた。

 ……いよいよ始まってしまうのだろうか


「やるぜ‼︎ うおぉぉぉぉ‼︎ 打ち上がれ‼︎ 乱れ爆ぜる塵芥ダイナマイトバースト‼︎」


 その瞬間、魔都の地面や壁に密かに描かれた魔法陣が金色に光り、ポンっと小さな花火のような音が上がる──


「フハハハハハ‼︎ ざまあみやがれ! あ?」


 ペッパーは声を上げて狂笑するが、やがて思っていた異変とは違う街の変化を唖然と見遣った。


「は⁈」


 花、花、花、花、花。

 街中には冬だというのに満開の花が咲き乱れ、民衆から歓声が上がる。

 ペッパーがコードを送り込むことにより大爆発が起こり、阿鼻叫喚の騒ぎが起こるはずであったのにこれはどうしたことなのか……

 ペッパーは唖然とする教徒の1人に詰め寄り胸ぐらを掴む。


「おい‼︎ どうなってやがる⁉︎ 誰が術式を間違えやがった⁈ 何で花火じゃなく花が咲いてやがる‼︎ ぶち殺すぞ⁉︎ おい! おい‼︎ おいコラ‼︎」


「いえ! ペッパーさん! 我々はあなたの言われた通りに……!」


 その時、動揺しながら弁明する教徒の背から低く切り裂くような声が聞こえてきた。


「目下の者に当たるのはその辺にしとくんだな」


 驚いた教徒たちは後ろを振り返る。

 いや、背後だけでは無い。

 辺りを見回すと幾人かの武装した騎士たちがペッパーたちの周りを取り囲み各々の武器を構えていた。

 完全に包囲されている……

 動揺しながらも教徒たちは用意した武器を構えた。

 やがて先ほどの声の主でありリーダーと思しい鋭い角を頭から生やした巨軀の騎士が前へと進み出てきた。


「恐ろしい術式を考えたものだな。危なかったよ。 

 もう少しでとんでもない被害が出るところだったが、お前の術式はこちらの魔術師長殿の協力により我々魔都防衛隊が書き換えさせてもらった。

 構築したバイパスを樹々の地脈に移して本来の起爆スイッチが入った瞬間に都市中の花が咲くように操作させてもらったのだ。

 ご苦労だったな。ペッパーとやらよ。王女殿下もこの百花繚乱の様を喜ばれていることだろう」


 赤と黒を基調とする甲冑に身を包んだその黒鬼の騎士は街を見遣りながら少し安心した表情でパレードの様子を見守る。

 先日、魔術師長ゾーラの「占い」により迫りくる危機を察した彼らは昼夜を問わず街を周回しいち早く先手を打っていたのだった。


 そして騎士の1人が紫髪の男の顔を見ると驚き指差す。


「……総長殿、あいつ爆弾魔『ベンパー』です! 5年前に脱獄したと聞きましたが、生きていたのか……」


 紫髪の男の正体は知る人ぞ知る最悪の爆弾魔ベンパーといい、その殺害人数は優に1万を超えるという爆弾と爆発魔術のエキスパートだった。


 戸惑う教徒と無表情で突っ立ったままのペッパーを他所に騎士団の包囲が完了し、囲みから小柄な魔導服の老婆がひょいと前へと進み出た。


「やれやれ、肩が凝ったわい。お前さんみたいな小僧がねえ……とんでもない悪意を感じる術式だったわ。

 アンタが起爆した瞬間に術者の居場所を感知出来るように罠を張ったのも私だよ。

 さあ、大人しく投降しな。

 でないと吹っ飛ぶのはあんたの首だよ」


 戸惑う教徒たちは縋るようにペッパーを振り向き指示を仰ぐが……


「ペッパーさん……!」


 俯き肩を震わせる紫髪の男は何の反応も示さない。

 怖気づいたのだろうか、と教徒たちが困惑し始めた時だった。


「は? 何言ってんの⁈ お前ら?」


 ペッパーは急に顔を上げると無表情のまま教徒の1人の首を掴み締め上げ始めた。


「ペッパーさん⁈ うわああああ‼︎」


 ざわり、と教徒の間に混迷の色が広がり始めるが騎士団はその包囲の輪を徐々に縮めていく。

 じっとペッパーの様子を見つめながらゾーラは警戒を促した。


「魔力の質が変わった……! 気をつけな総長さん。こいつイカれてるよ」


 やがて低い嗤い声と共に怒りとも笑みともつかない形相で騎士団を振り返ったペッパーは、息を止めた教徒を腕に抱えながら紫に鈍く光る魔力のオーラを全身へと滾らせ始めた。


「よくもやってくれたな……⁈ せっかく楽しい花火を用意してやったってのによぉ? おいらのショータイムをぶち壊してくれた礼はこれからだぜ⁈ さあ殺ろうぜ……! クソどもがよ⁈」

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― 新着の感想 ―
[一言] 狂気のテロリストですね。 無事に処理できますでしょうか。
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