母と娘の日常風景
母娘の拳は「ははこのけん」と読みます。
☀️サバサバタウン・自宅
「起きなさ〜い」
うーん、あと5分……
「朝ごはんできたわよ〜」
ごはん? すんすん、いいにおい……
「起きないなら〜、えいっ」ペロペロ
ぴゃー!?
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シシハ:「むー……」
なんて目覚めの悪さなの。
頭がグルグルビリビリする……
シシハ:「もぐっ、もぐっ、もぐもぐもぐっ!」
ヤケ食いよ! 新鮮な生肉をほおばるの!
あ、はじめまして。
あたし、シシハ。7歳のライオン獣人なの。
見て、耳としっぽがあるでしょ。
ママト:「あらあら今日も可愛いわ〜」もぐもぐ
ママトはあたしのお母さん!
ハチミツみたいなサラサラ金髪の美人さん。だけど……
シシハ:「ごちそうさまー」
ママト:「あら〜。食後のおっぱい飲まないの?」
げっ、まだ言うか。
子離れできない過保護ママめ。今日こそ断ってやる!
シシハ:「ママやめて、もう7歳だよ?」
ママト:「え、え、どうしたの急に」
どうしたもこうしたもないよ! もう子供じゃないのよ!
ママト:「で、でも昨日まで…」あたふた
シシハ:「もう子供じゃないの。おっぱいは卒業だよ!」
どうだ。
ママト:「ねえちょっとだけ、ちょっとだけでいいから」
シシハ:「ダメったらダメ! ママ嫌いになっちゃうよ」
ママト:「ガガーン!」
ふん。思い知ったか、娘の成長を。
ママト:「そ、そうね……」しゅん
ママが胸に手を当ててメソメソしているスキに、ダッシュ!
歯みがきしてー、シャカシャカ
カバンに教科書入れてー、ドタバタ
玄関へ!
シシハ:「それじゃー行ってきま──」
ママト:「待ちなさい」がしっ
げげっ、
後から抱きつかれた!
逃げられない!?
ママト:「寝ぐせついてるじゃない。毛づくろいしましょうね〜♪」
シシハ:「ダメ、ちょっと待って」
ママト:「」ぺろっ
ん゛ん゛っ ! !
ママト:「寝ぐせは」ぺろっ「直さないと」じゅる「ね」はむっ
シシハ:「ひゃわ!?」
あ、頭から、足まで、ゾワゾワしちゃう!
ブラシのような舌に、たっぷり唾液をつけて、べとり、頭皮から毛先へと、ズズッと走らせるんだ。
ママト:「んん〜、シシハちゃんの味〜♪」レロレロ
ちょっと! 鼻息が生ぬるいよ!
そのままたっぷり5分間、頭と首と耳としっぽをペロペロされたのさ。
ママト:「はぁい♪ 行ってらっしゃ〜い♪」
シシハ:「はあ……いってきます」げっそり
朝からひどい目にあったよ。はあ…
そのまま裸足で家を後にしましたとさ。
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シシハ:Lv5
HP48
MP0
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☀️サバサバタウン・西の道路
ここはサバンナの町、獣人たちが100人ほど暮らしてるんだ。
今から教会に行きます。
都会で勉強したえらい司教さんが、故郷に戻ってボランティアで小神学校やってるんだよ。
シシハ:「ふっふーん♪」
太陽が、眩しいわー、目の前から、差し込むのー♪
東へとー、走ってー、右手にー、いつものパン屋さんー♪
シシハ:「おはようカラスケさん!」
カラスケ:「カァー、おはようシシハちゃん、今日も元気だね」
カラスケさんはカラスのハーピー、パン屋のおじさんなの。メロンパンがおいしいの。
そして、畑のー、あせ道ー、土の感触ー♪
シシハ:「おはようウシオおじさん!」
ウシオ:「ンモー、やあシシハちゃん、今日もいい天気だね」
ウシオさんは農家のおじさんなの。麦と豆とバナナと、他にもよく分からない葉っぱとか育ててるんだ。
湖にはー、橋がー、長い長い木の橋がー、かかってるのー、ラッタッター♪ ああっと!?
シシハ:「ぶへっ」べちゃ
ううっ、こけた。
ガゼルド:「オッス、また橋の真ん中で転んだのかい!」
シシハ:「うるさいねガゼルド兄!」
こいつはなんでも配達員なの。
ガゼルド:「じゃあな、お互い頑張ろうな!」
シシハ:「じゃあね」
すりきずヒリヒリ、我慢するの!
見えたよー、教会がー、青いレンガの三角屋根ー♪
シシハ:「ふぅ。消毒消毒ー」
ビンに入った聖水を手にふりかけて、十字を切っておじゃましまーす!
シシハ:「おはよーございまーす」
みんな:「「 おはよーございまーす 」」
ワイワイ ガヤガヤ
まったく。男子は今日も教会で騒いでるんだから。
長椅子の並んだ礼拝堂、お香が鼻にくる、ガヤガヤとしたウワサ話、ステンドグラスのカラフルな光。
そして生徒はみんな獣人。年齢はバラバラなんだ。
席について、しばらく待つと
キリオ:「やあタンポポ」
チイト:「今日もタンポポタンポポしてるな」
うるさいわね。
後からヤローどもがちょっかいかけてきた。
シシハ:「なによ。あたしがタンポポなら、アンタらはモヒカンだよ」
髪型がちょーっと特徴的なだけなのに、いじられるの。ふーんだ。
こうしてガヤガヤやってると、奥の扉が音をたて……ヤギー司教がやってきたの。
ヤギー:「メー、みなさん、今日も集まってくれてありがとう」
白ヤギの獣人、ミルク色の毛に、黒のキャソック。ヤギヤギしてるヤギさんだよ。
ヤギー:「天におわす十二の主よ、今日も御名が聖とされますように。メー」
生徒たち:「「 メー 」」
メー。
30秒くらい黙祷したら、授業開始なの。
▼
ヤギー:「はーい、みなさーん、今日も【サイン】の練習をしましょう!」
みんな:「「「 はーい 」」」
説明しよう。
【サイン】とは、えっとー、魔法みたいなモノだよ。
星座のシンボルを描いて、星の力を分けてもらうんだ。
【アストロサイン】、通称【サイン】、十二星座を表すマークなんだ。
ヤギー:「今から、【サイン】を描きまーす。何の【サイン】か当ててみてね〜」
そう言うと、ヒヅメを静かに振り上げて、とある模様を描きだします。
♈️
みんな:「「「 ひつじー 」」」
ヤギー:「正解でーす。じゃあこれはー?」
♏️
みんな:「「「 さそりー 」」」
ヤギー:「これはー」
♌️
みんな:「「「 ライオン 」」」
チッ、…嫌な思い出。
ヤギー:「それじゃあこれはー?」
♑️
みんな:「「「 ヤギ〜 」」」
ヤギー:「はいよくできました。」
さすがにこう何度も繰り返せば覚えられるよ。
ヤギー:「♑️神聖なる白山羊の神よ、温かな光で心を灯したまえ。メー」
✴️ふわーん✴️
おおー。暖かな光だね。
ヤギー司教から後光が差してめちゃくちゃ神々しい。『沈む夕日と救世主』ってとこかな。あ、なんか難しそうな言葉使っちゃった。かっこいいかも。
ヤギー:「さあさあ、教材を進めていこう。分からないことがあれば質問するんだよ」
手作りの冊子をめくっては、文章の空欄を埋めていく。
数字や国の名前なんかを学ぶんだ。
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放課後、帰り道。
キリオ:「ウルトラファイアボール、どっかーん」
チイト:「グレートサンダーボルト、ずしゃーん」
あー、またやってるよ。
火の粉と静電気でパチパチしてる。
クロコ:「ほんと男子って単純ねー」
シシハ:「そうだねー」
クロコちゃんはカラスのハーピー、パン屋の娘なんだ。
キリオ:「サッカーしようぜ!」
チイト:「いえーい」
その他:「「うぇーい」」
にぎやかだねー。
シシハ:「いこっか」
クロコ:「うん」
シシハ:「パン屋よってくねー」
クロコ:「わーい」
カラスケのパン屋さんでメロンパン2個買って、パンの耳も風呂敷いっぱいもらって帰りましたとさ。
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クロコLv5
HP25
MP12
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ママト:「うふ、うふ、うへへへへ♪」にへら
0歳の時は〜お猿さんみたい〜、ぽやぽや〜♪
1歳で〜、ハイハイ飛ばして〜、つかまり歩き〜♪
アルバム代わりの絵本なの〜。
うふん♪ うふん♪ うふふんふん♪
2歳で〜、お肉を横取りされて〜、大号泣〜♪
3歳で〜、転んで頭をぶつけて〜、大出血〜♪
4歳で〜、父に暴力ふるわれて〜、あざだらけ〜♪
ママト:「あ、あらあら〜? 涙が出ちゃうの〜」ゴシゴシ
ガチャッ
シシハ:「ただいまー」
ママト:「あらあらあら〜、シシハちゃんおかえりなさい、むちゅ〜❤︎」
シシハ:「もう!」ひょい
避けられたッ!
くそう、娘の成長がジレンマだわ!
シシハ:「メロンパンあるよー」
ママト:「わぁおいしそうね〜」
あなたのほうが美味しそうなの〜♪
シシハ:「焼きたてだよ、はやくはやくー」
ママト:「手洗いうがいが先なのよ〜」
シシハ:「むー、わかってるよ」ドシドシドシ
あらあらいい子ね〜。
風呂敷ポイッ
ジャバジャバ
ゴシゴシ
ガラガラぺっ
ドシドシドシドシ
シシハ:「ママママ、すごいの、新作のミートメロンパン!」
ママト:「まあまあ、水辺のワニの香りがするわ」
シシハ:「ワニなのね。それじゃあ、いただきまーす」
ママト:「いただきまーす」
はむっ♪
ママト:「おいし〜♪」
シシハ:「はむ、この焦げ目、はむ、カリカリ感、はむモグモグむしゃ、クセになる」
ああ、娘が可愛い。
胸がキュンキュンして脳がとろけちゃうの〜♪
ママト:「んん〜平和ね〜」
シシハ:「うんうんモグモグ平和がいちばんモグモグだね」
うんうん。平和が続くといいの〜。
ママト:「うふふ……ぐふっ!」
シシハ:「ママッ!?」
あらあら〜、持病が進んだの〜。
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☀️コールサック
サバンナのはるか南、瘴気の大穴【コールサック】がある。
山にかこまれた不気味なその大穴は、深い。
自由落下を2時間、ようやく底に到達するとのウワサである。
周囲には、ピラミッド型の結界と有刺鉄線が張り巡らされており、ときおり電気がピシピシと音を立てている。
封印されしモンスターはよほど強大なのだろう、土から紫のケムリが漏れだし、スライムや小ネズミなんかの雑魚モンスターが発生するのだ。
ゴブリン:「ヒャッハー!」
ゴブリン:「あっちに村が見えるぜ」
ゴブリン:「食糧もタップリ持ってやがる」
ゴブリンとは、モヒカン頭の巨漢である。
平均身長2メートルの緑の人が、一人、二人、三人……ずらっと並んで、ざっと五百人!
バイクに乗って、ぶるんぶるんと、サバサバタウンの方角へと爆走するのであった。
病気の母、そして様子をうかがうゴブリンたち。村の平和はどうなってしまうのか?
次回 眠れる獅子