蟹
二週間ぶりになります。
ずいぶんと文章が様変わりをいたしました。
◯サバサバタウン2・中央の結界
7月上旬、午前10時。青のピラミッド結界が日光を思いっきり反射しております。
そこに聖女、壁の塗装をするようにローラーで、結界の側面に魔力を塗りたくっています。
彼女の足の下方には、バケツに青の【マソペンキ】やら、有刺鉄線のクズ入れなんかの丸いバケツが並んでいて、まるで田舎の日常のようです。
アオハ:「ふっふっふーん♪ ふっふっふーん♪」
と、肩をフリフリ、ノリノリですが、聖衣のワキなんか見るからに汗だくです。
ミーンミンミンミンミン
シャワシャワシャワシャワシャ
ミンミンジャワワ ミンジャワワ♪
木の枝にセミです。
アカン:「おーいアオハー、俺はぶらっとモンスターでも狩って来るぜ」
聖女:「はーい。いってらー」
と、耳で勇者を見送ります。
ラサキ:「あー」ふらふら
アオハ:「こら、ラサキは勝手に離れるな!」
ラサキ:「うー」
アオハ:「おーい、ヤギーさーん、ラサキを預かっててくださいなー」
ヤギー:「メー、了解しました。ほらおいで」
ラサキ:「はーい」てとてと
と、アヒルみたいにヤギーの後を歩いていきました。
アオハ:「よしよし面倒なのがいなくなったぞ。ふう」
炎天下、結界のメンテナンスは重労働です。
しかし怠るとモンスターの群れが村を押し潰すのです。
(ママト抜きの戦闘では、ゴブドラ10000体に対して、不眠不休で殴り続けて一匹一時間、一万匹で416日、1年+51日。無理ゲー)
聖なる魔力をよりいっそう青くします。
ジリジリと脇汗がにじむのでした。
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◯東の教会
静かな教会に勇者の娘を投入すると、ワーワーと騒めきが発生しました。
男子:「すげー!」
男子:「女だー!」
男子:「ケモ耳がなーい」
ラサキ:「あうあう、あー……」あたふた
女子:「こらー男子、軽々しく触るんじゃないわよ」
女子:「そうよそうよー」
女子:「ほらこっちに来なさい」
ラサキ:「うー」
キャーキャー ギャーギャー
手と声に振り回される、勇者の娘でありました。
シスター:「メーメー、おやつですよー」
シスター:「ミルククッキーですよー」
クッキーの山がザルに乗っかっています。
子供たち:「「「わーい」」」
ドドドドド、わらわら
バリバリ ぼりぼり ムシャムシャ
ラサキ:「あー……」ぼけー
シスター:「おいでー」
ラサキ:「わーい」
ぽりぽり しゃくしゃく
ちなみにそのクッキー、ホエイプロテイン込なのでありました。ヘビー先生のニヤケ顔が浮かびます。
シスター:「食べたらスクワットですよー」
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◯北の森
11時です。太陽はもう97%くらい登ってしまいました。
ママト:「いけ、シシハ、噛み砕け!」
シシハ:「がおー」がじがじバキバキィ
ワイバーン:「ぎゃー」
と、例の親子が訓練がてらにモンスターの首の骨をクラッシュしています。
アカン:「ファッ!?」
もちろん勇者はひるみます。
シシハ:「ガルルルル」フシュー ずるずる ヨダレだらぁ
タンポポが耳を生やしたような少女、飛竜の折れた首を噛んでずるずるずるずる引きずります。
そして肉の上には母親が、女帝のごとく足を交差にしています。
ママト:「あらまあはじめまして」
アカン:「あ、ああ……」
と、何も聞けずに会話が切れて残された、口下手勇者でありましたとさ。
アカン:「しまったなぁ、『この俺こそが勇者アカン』ってカッコつけてポーズを取ればよかった」ポリポリ
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◯北の狩猟ギルド
狩人:「やあシシハちゃん、今日もお疲れさん」
シシハ:「はがー、アゴが、アゴがー!!」ごろごろ(≧∀≦)
ママト:「お疲れ様〜、これで噛みつきパワーが……」
シシハ:「ママ重い!」
ママト:「なんですとー!」クワっ!
ギャハハハハ
ひーゃっふっふ
hhhhhhh(声にならないピクピク)
ママト:「言わせておけばこの〜、ガジガジの刑よ〜」ガジガジ
シシハ:「いでー」(目から火花)
歯形がくっきり残る、親子の肌の絆でした。
一方ワイバーンの竜肉は、ギルドの奥のドアへと引きずられ……
◯狩猟ギルド・厨房
「それ皮を剥いで」
「ぶつ切りにして」
「目玉も一緒に」
「ぶっ込んで」
「鍋でグツグツ」♈️
「グツグツグツグツ」♈️
「ソースをかけて」
「はい完成!」
ステーキ弁当になってしまいましたとさ。
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◯中央の結界
あっという間に昼休みに。
狩人:「おーい弁当ー」
狩人:「取りに来ーい」
おおー!
ドラゴンステーキ弁当の山がポンポン崩れていきます。
アオハ:「いただきます……んー、おいしい」
アカン:「うめえ。ボリューム満点だぜ」
ヤギー:「自然の恵みですメー」
シシハ:「んぐんぐんぐ」
ママト:「どうお、おいしい?」
シシハ:「んぐんぐ、ごくん、うっさい」
ママト:「ガーン!」
ラサキ:「……」もぐ、もぐ、もぐ
木漏れ日、木々がサワサワ揺れています。
アカン:「ワッハッハ」
男子:「おおー」
男子:「すっげー!」
男子:「もっかいやって」
アカン:「いいぞ見てろよー、覚悟しろ魔王、そおい、♎️【ジャスティスソード】! てやぁっ!!」
男子:「「「ジャスティスソード!」」」
アカン:「からのー、♎️【ジャスティスサンダー】」
男子:「「「ジャスティスサンダー!」」」
ワハハハハー
ラサキ:「……」うろうろ
と、音もなく去って行きます。
おやおや、何処へ行くのでしょう。
◯村の外れ
ラサキはかがみ、ダンゴムシの足を凝視しています。そこへシシハが手を振り走ってきて、
シシハ:「おーい」
ラサキ:「んー」と、ふり返り、
シシハ:「何してるのー」
ラサキ:「んー、わかんない」
シシハ:「ラサキちゃんだよねー」
ラサキ:「うん」
シシハ:「何座?」
ラサキ:「かに座」
シシハ:「あたし、獅子座だよ」
ラサキ:「うん」
シシハ:「ダンゴムシ好きなの?」
ラサキ:「んー、べつに……」
シシハ:「ふーん」
ラサキ:「……」と、ダンゴムシを見ます。
シシハ:「えっと……」
ラサキ:「あー……」
シシハ:「あのー……」
ラサキ:「うー……」
シシハ:「…………」
ラサキ:「…………」
シシハ:「…………」
ラサキ:「……うー」
シシハ:「なによー」
ラサキ:「あうっ」
シシハは困って一緒にダンゴムシの観察を始めます。
太陽がわずかに西に傾きました。足元に木影がやってきます。
シシハ:「ん、なにあれ」
1メートル先、地面がうっすらと、赤ピンクの点滅をします。
ラサキ:「あー」ずるずる
シシハ:「あ、ちょっ……」
シシハの脳裏、砂漠の夜に潜り獲物を待つサソリの毒針の先端、花に擬態するカマキリのカマの光、水辺の人食いスライムの紫の毒液……
しかし、目の前のピンクは、サソリともカマキリともスライムとも微妙に異なり、なおかつ初対面の少女への遠慮から、
……シシハは0.1秒躊躇したッ!
ブゥン!
♋️
ガバッ!
>>>巨大カニハサミが飛び出したッ!
ラサキ:「ひゃ!?」
シシハ:「危ないッ!」
がっしょーん!
二人くっついてカニバサミの中です。
白のクッションから、エレベーターが加速する浮遊感と音がします。
ラサキ:「あう、どうしようどうしようヤバイヤバイヤバイ」あたふた
シシハ:「えっと、えっと、落ち着いて」
ラサキ:「あわあわあわー」ボスボス
>>>蟹に1ダメージ
シシハ:「あーもう、なによ」
シシハの脳の奥から声がします、
地中でカニバサミを殴ったら、土に埋まってしまう。
ラサキちゃんはパニック、今にも『♋️』を書いて盾スキルを暴発させそう。
どうする、どうするシシハ
と、ここでママトの姿が目に浮かび、
シシハ:「そっか……ラサキちゃん」ぎゅ
ラサキ:「ふえ!?」
シシハ:「安心して、私が守ってあげるから」
ラサキ:「あ、あうう〜」
まずはラサキちゃんを黙らせて、それから、
右手の筋肉をバネにして、100倍チャージ。
ハサミが開くその時に、ワンパンしてやる。
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◯魔界
ガッション
カニバサミが開く。
蟹:「ガーッショッs
シシハ:「【獅子星拳・七ノ段・なぞなぞ】!」
蟹:「しょ?」
シシハ:「朝はバナナ、昼は弁当、夜はグツグツ煮込んだシチュー。これなーんだ」
蟹:「何を訳のわからんことをー」
シシハ:「答えは昨日ママが作ったご飯だオラァ」ドゴォ
>>>3億のダメージ!
蟹:「ぬぐしゃー」べしゃ
HP:0/2880万
>>>蟹はしんだ。
♌︎♌︎♌︎♌︎♌︎♌︎♌︎♌︎♌︎♌︎♌︎♌︎
>>>蟹Lv600をやっつけた!!
✨経験値✨
レベル二乗→36万
ボス補正 →10倍
大物殺し →2倍
人数分配 →0.5倍
トータルEXP:90万!
テレッテッテ〜♪
シシハ:Lv448→449
ラサキ:Lv90→117
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蟹は蟹味噌を散らしてしまった。
ラサキ:「ほわ! レベル! すっごいレベル上がった! ほらほら」ステータス画面ぶんぶん
シシハ:「それより蟹を食べるよ」
ラサキ:「え、うん」
シシハ:「それじゃあ」
「「 いただきまーす 」」もぐもぐ
蟹の香りが花開く。
魔界の景色に目もくれず、しばし蟹を口に入れる二人でありましたとさ。
次回は魔界の景色からです