9話 炎の騎士さん、怒る
火界龍が去った後、アルデバランは体が言うことを聞かないことに気がついた。
「無茶しすぎたか」
限界を超えた炎の創出。それによって魔力が空になってしまった。人間、魔力が0になると体が動かなくなる。アルデバランは10分ほど硬直を余儀なくされた。
「アルデバラン、大丈夫なの?」
「あぁ。少し休めばなんとかなる」
まさか生きて帰ることができるだなんて思ってもいなかったアルデバランは心の底から安堵した。スピカも怪我1つない。奇跡と言ってもいいだろう。
クエストは失敗扱いであろうが、今は生きていることを感謝するしかなかった。
「……アルデバランよ」
アルデバランに声をかけてきたのは、デネブ。いつも唯我独尊を貫くデネブ故に、少し気まずそうにしている彼を見るのは初めてだった。
アルデバランは彼と目を合わせようとはしない。彼に理不尽にクビにされたのは昨日のことだ。怒りは収まっているはずもない。
「助けられたな……お前に」
「そうだな。俺がいなければ第99隊は全滅だった」
それは間違いない事実。デネブや他の隊員が本気を出したところであの神の化身を破れるわけがなかった。第99隊でも主力を担っていたアルデバランだからこそ、何とかやってのけたことなのである。
「お前からはやる気というものを感じたことがなかった。だが今日のお前は……なぜそう熱くなれた?」
「さぁ。気まぐれか、アンタへの復讐心からかもしれないな」
あえて責めるように言うアルデバラン。自分でも悪い性格だと思っていながらも、我慢できずに口から出てしまった。
アルデバランはデネブに言われて気がついた。確かに今日の自分は……心の底から熱いものが噴き出ていた。それはきっと、スピカを守りたかったから。
「俺もやる気を出せるものを見つけたってことだ。アンタのおかげでな」
精一杯の皮肉を込めてアルデバランは鼻で笑う。だんだんと体が動くようになってきたので、一歩を踏み出した。
「待て!」
デネブが大声でアルデバランを呼び止める。その声に反応するかしないか、アルデバランは迷った挙句に足を止めた。
「虫の良いことを言っているのはわかっている。だが……アルデバランよ。騎士団に戻っては来ないか。俺の権限があれば一度クビにしたお前でも……」
「やめろ!」
アルデバランはデネブに負けないほどの大声をあげた。
「人の気も知らないでふざけたことを言ってんじゃねぇ。昨日のうちならまだしも……今さらもう遅いってんだよ!」
アルデバランは人生で1番の激怒を見せた。
そしてその怒りを鎮め、スピカと共に山を下り始める。これからの第99隊は、おそらく上手くはいかないだろう。だがそれはデネブの失態だ。アルデバランにはもう……関係のない話だった。