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3話 炎の騎士さん、見守る

 アルデバランはその後の試験を傍観した。

 ある者は数分かけて倒してBランク冒険者に。

 ある者は1時間かけてようやく倒し、Dランク冒険者に。

 ある者は倒すことができずリタイア。冒険者になることは叶わない。

 様々な結果がそこにはあった。しかしアルデバランと同じくSランクどころか、1つ下のAランクまで登ってくる者は皆無であった。


「じゃあ最後、あなたね」

「は、はい!」


 白く輝く長髪が目につく少女。冒険者になるとは思えないほど可愛かった。モデルでも何でも、その可愛さを活かした職はたくさんあるというのに。

 アルデバランはその少女のことが気になった。あれだけの可愛さを持ちながら、冒険者志望ということはとんでもなく強いに違いない。自分と同じSランク冒険者の誕生に、胸を躍らせていた。

 ……が、現実はそうではなかった。


 彼女が柵を越えて熊の魔物と戦闘を開始して10秒でアルデバランは悟った。この子には、戦いの才能がない、と。

 体格に見合った細い剣を使っているが、どの攻撃も決定打にならない。むしろカウンターを喰らって怪我を負っている。


「なぁ、そろそろ止めた方がいいんじゃないか?」


 1時間が経過したところで、アルデバランはおばさんに対して提案した。しかしおばさんは首を横に振る。


「本人の意思なしに止めることはないですよ」


 どう見ても倒せそうにない……というのがアルデバランの感想である。

 残念ながらあの少女は不合格だろうな。


「私は……負けない!」


 何が彼女を駆り立てているのかは知らない。が、アルデバランにとって彼女は光って見えた。

 騎士をクビになって仕方なく冒険者に流れ着いた自分と、冒険者になりたくてずっと努力して来たであろう彼女。

 結果だけで見ればアルデバランはSランク冒険者に、彼女はおそらく失格になる。だが、そこに行き着くまでの過程で、アルデバランは彼女を少しばかり羨ましいと思った。


「やあっ!」


 彼女はボロボロになりながら、まだ懸命に戦う。だが目に見えて疲労困憊していた。肩で息をしている。もう限界はとうに超えているだろう。


「終わり、だな」


 おそらく次の一手で決まる。彼女が敗北して、終わりだ。アルデバランのその考えは、彼が戦場にて得た経験から裏付けされたものだった。


「私は絶対……冒険者になってやるんだから!」


 最後の力を振り絞って突っ込んでいくという感じだった。勝って欲しい気持ちは山々だが、足もふらついていてろくに走れていない。

 熊の魔物も覆い被さるように彼女に襲いかかる。


「うあっ、ととっ」


 ここで彼女がバランスを崩した。まずい、直撃するぞ……アルデバランが駆けて助けに行こうとする。が、体が動かない。


「何っ!?」


 これは……禁縛魔法! 誰が……。

 まずい、このままでは彼女が死ぬ。そう思った時だった。

 ザクッ! と肉に剣が突き刺さる音がした。よく見ると転んだ少女の手から離れた剣が、偶然にも熊の魔物の口の中を貫通していたようだ。

 熊の魔物は……絶命している。


「ふむ。ギリギリ合格! Eランク冒険者としてスタートです!」

「やったー!」


 少女は満面の笑みで喜んだ。

 アルデバランはおばさんの方を睨む。おそらく自分に禁縛魔法をかけたのは彼女だろうと推測していた。


「さて、これで試験はおしまいです! 冒険者ギルドに、胸を張って帰りましょう!」


 何はともあれこれでようやく一歩目が踏み出せた。

 ここから1人で、王国を守ってみせる。そう心に誓うアルデバランであった。

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