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2話 炎の騎士さん、冒険者になる

 古びた窓から差し込む光に辟易としながら目を覚ます。

 体はまだ騎士舎にいるような気がして、快適な朝を想定していただけに余計辛い。

 アルデバランはのそっと起き上がって目を擦った。


「……くそジジイめ」


 これも全部デネブのせいだと、アルデバランは呪いのように口に出す。

 だがすぐにそうこうしていられないと気がついた。

 幸運なことにクビになったすぐ翌日である今日は年に4度しかない冒険者試験の日。つまり、今日すぐにでも新たな職を手に入れることができるというわけだ。

 しかし時刻はすでに朝9時。そして試験は10時から始まる。普通に寝坊だった。


「これもクビになった理由の1つか? ……いやいや、納得してないぞ、俺は!」


 アルデバランは口より先に手を動かすべきだと自分で気がつき、朝ごはんを流し込んで家を出た。


 王国の北に位置する冒険者ギルドには多くの人間が集まっていた。

 筋肉モリモリの男、杖を背負った老人、場違いなほど可愛い少女。多種多様な人間がそこにはいた。

 アルデバランは遅刻ギリギリで冒険者ギルドに到着する。


「すんません、まだ受付してますか?」

「はい。ギリギリですけどね」


 細身の受付さんに若干の毒を吐かれたがいちいち気にしていられない。

 今日はアルデバランにとって、ここから4ヶ月無職確定か職を得るかのまさに人生の大一番なのだ。


「はーい皆さ〜ん! ご注目〜」


 やかましい声が響いたと思って上を向いたら冒険者ギルドの屋上に紫色のおばさんが立っていた。レオタード姿で。きっつ……というのがアルデバランの感想だった。


「今から冒険者試験を開始しまーす! 試験に合格した方は今日から晴れて冒険者。S〜Eランクまでランク付するから頑張ってくださいね〜!」


 セリフを言い終えたレオタード姿のおばさんは突然ジャンプしたと思ったら空中で5回転。華麗な着地を見せ、試験を受ける冒険者の卵たちの空気を微妙なものに変えた。


「何の茶番だよ……」


 呟かずにはいられなかったアルデバラン。


「ん〜、今回は人数が多いわね」


 そう言ってレオタード姿のおばさんが指をぱちんっ! と鳴らす。その瞬間、アルデバランの周りの人間たちが続々と倒れ出した。


「な、何だ!?」

「おい、どうした! しっかりしろ!」

「何が起こってるんだ!?」


 混乱する冒険者の卵たち。彼らとは対照的にアルデバランは冷静であった。

 強制睡眠魔法……今あのおばさんが使った魔法である。弱い者が強制的に眠りにつく、雑魚狩りにぴったりの魔法。アルデバランとしては何度も目にしてきたものだった。


「はい、今ので眠った人は失格ね♡」


 おばさんはせめてもの慰めと言わんばかりに投げキッスをした。その破壊力は元第99部隊の主力であったアルデバランすら倒れそうになるものだった。


「ぉえ……」


 というか、普通に吐きそうである。


「さて、残ったのは……10人ね。ちょうどいい数じゃない。ついてきなさい」


 言われた通りについて行くアルデバラン。それを見た他の受験者もぞろぞろとついて来た。


「あなた、強いわね」


 おばさんはアルデバランにしか聞こえない声の大きさでつぶやく。

 アルデバランもまた、おばさんにしか聞こえない大きさで返す。


「さぁ? どうでしょうか」

「ふふ。楽しみだわ」


 数分歩いて行くと大きな建物に着いた。

 王国にこんな建物があったのかと、アルデバランは驚いた。騎士として王国のことは知り尽くしていたつもりだったが、どうやらそうでもないらしい。


「さぁ、入りなさい」


 おばさんに命じられ、ぞろぞろと建物内へ入って行く冒険者の卵たち。

 建物の中は真っ暗だった。すぐそこすら見えぬ状況に、アルデバランといえど不安がよぎる。

 ぱちんっ! とおばさんが指を鳴らすと明かりがついた。


「ひっ!」


 少女が悲鳴を上げた。無理もない。明かりがついて奥の方が見えるようになった。そこにいたのは……熊の魔物。

 柵で囲われてはいるものの、その威圧感は流石のものだった。


「ここでは魔物を研究飼育しているの。これを倒すのが冒険者試験の内容よ。じゃあまず……あなた!」


 アルデバランの横にいた少年がおばさんに指を刺され指名された。

 少年は恐る恐る前に出て剣を抜いた。柵を乗り越え、魔物にロックオンされる。


「魔物ならたくさん飼育しているから倒して構わないわよ。では、始め!」


 おばさんはタイマーを起動した。

 アルデバランは推測した。おそらくタイムによって冒険者としてのランクが決まるのだろう、と。

 今戦っている少年は軽い身のこなしは良いが、一撃が弱い。あれでは時間がかかるだろうな。と勝手に分析する。


 20分後、ボロボロになりながらもなんとか魔物を倒した少年が柵から出て来た。


「よし、合格! Cランク冒険者からスタートよ!」

「よしっ!」


 S〜Eの中でCランク。真ん中くらいの評価ということだ。妥当な線だろう。とアルデバランは納得する。


「次、あなたよ!」


 2番目に指名されたのはアルデバラン。おばさんに対して反応もせず、ただ黙って柵へと歩いて行った。

 いつの間にか熊の魔物はすでに柵内に放たれている。柵を越える前から睨まれていた。


「おいおいおい、アイツ素手かよ」

「死ぬ気だわ、アイツ」


 後ろからアルデバランを揶揄する声が聞こえてくる。が、アルデバランはそんな雑音は気にも留めなかった。


「では、始め!」


 おばさんの合図ともに熊の魔物が襲いかかってくる。

 アルデバランはそんな魔物に向かって、右足のつま先でポンと、地面を軽く叩いて呟いた。


「"這炎獄(はいえんごく)"」


 つま先から炎が上がり、その炎は地を這い、熊の魔物を飲み込んだ。断末魔をあげる間もなく、熊は前に倒れる。

 開始から3秒。当然の完勝である。


「合格! Sランクからスタートよ!」


 これがSランク冒険者、アルデバラン誕生の瞬間である。

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