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10話 炎の騎士さん、決意する

 下山を始めたアルデバランとスピカだったが、もう陽が沈もうとしていた。このまま動くのは危険だと判断し、アルデバランは簡易テントを立てた。


「今日はここで寝泊まりするしかないな」


 1人用ではあるものの、入ろうと思えば2人入ることもできる。男女が同じテントに入るのはいかがなものかという点を除けば問題なかった。


「こ、ここに入れって言うの!? アルデバランと?」

「そ、それしかねぇだろ」


 まさか山で野ざらしで寝るわけにもいくまい。


「大丈夫だよ、変なことしねぇから」

「その発言が一番怖いの!」


 む……そうなのかとアルデバランは頭を抱える。こういう時どうすればいいのか、アルデバランの辞書には載っていなかった。


「とにかく入れって。ちょっとでも俺を不審に感じたら切っていいから」


 交渉が面倒になり、ヤケにやってそう言った。

 スピカはしばらく葛藤した末に最終的にはテントの中に入った。

 アルデバランも続けてテントの中へ入る。スピカはあからさまにアルデバランを警戒していた。


「……何もしないっての」


 そもそもそんな度胸があったら今ごろ……なんて妄想したりもする。

 狭いテントの中、特にやることもないのでもう寝ることにした。


「んじゃおやすみ」

「……うん。おやすみ」


 スピカの声を聞いて、眠りにつこうとする。……が、隣から鼻をすする音が聞こえてきた。泣いていると判断したアルデバランはどうしたものかと思ったが、狭いテントなので無視することもできない。


「……どうした」


 アルデバランはスピカの方を向かずに尋ねた。こんな時面と向かって話すと辛いかもしれないという、彼なりの不器用な配慮であった。


「アルデバランに……言うことじゃないわ」

「なら泣いたないだろ。話してみろよ。楽になるかもしれない」

「…………」


 しばらく無言の時間が続いた。アルデバランも決して急かそうとはしない。スピカが自分から言葉を紡ぐのを、待っていた。


「私、第七王女なの」


 ようやく言葉を発したスピカ。少し落ち着いたのか、声の震えはおさまっていた。


「あぁ。知ってる」

「王城では虐げられていたわ。私なんて下級の存在。いらない子だってね」

「だから抜け出して、冒険者になったのか」

「……うん」


 あっさりと、スピカは認めたくないであろうことを認めた。


「似てるな、俺たち」

「え?」

「さっきの俺とオッサンの話、聞いてたか? 俺は騎士団をクビになったんだよ。お前はもういらないってな」


 アルデバランも悲痛な胸の内を明かす。これで対等になると、彼は考えたからだ。


「アルデバラン……」


 彼の名を呟くスピカだったが、それ以上の言葉は出てこなかった。彼女は彼女なりに、思うところがあったのだろう。


「俺たちは似たもの同士だ。今日こうやって冒険者になったのも何かの縁だったのかもな」

「……その縁のせいで死にかけたけどね」

「そもそもスピカがこんな無茶なクエストを受けなかったら死にかけなかったっての」


 そう言って、アルデバランとスピカは背を向けたまま笑った。

 泣いた分を取り返すぞ、そんな思いからかはわからない。それでも2人は笑っていた。


「これでパーティは解散ね。無茶に付き合ってくれてありがとう。アルデバランならきっといい冒険者になれるわ。私と違ってね」

「……そうだな。自分で言うのもなんだが、力はある」

「うん。アルデバランは強いよ。……羨ましい」

「……スピカ。お前は弱い」


 はっきり断言したアルデバラン。スピカも、それでいちいち傷ついたりはしない。誰よりも一番、自分が弱いとわかっているからだ。


「でも勇気がある。火界龍に出会って攻撃しようと思える人間なんて一握りだ。スピカ、お前はすごいよ」

「アルデバラン……」


 スピカは再び、涙を流した。さっきまでとは意味合いの違う涙を。

 そして2人は眠りにつく。神の化身との激戦に疲れ、すぐに眠りの世界へと誘われた。


 ◆


 目が覚めてテントを畳み、すぐに下山を開始した。

 帰りは魔物に出会うことなく安全に冒険者ギルドまでたどり着くことができた。


「クエストは失敗だな。騎士団にマグマドラゴンは取られちまったし」

「そうね。残念だわ」


 アルデバランとスピカは見つめ合う。そのうちスピカが顔を伏せて、アルデバランに背を向けた。


「じゃあね。ありがとうアルデバラン。これからも元気で」

「……待てよ」


 そのまま去ろうとするスピカに、アルデバランは声をかける。


「え?」

「どこ行くんだ? 次のクエスト、選ぶぞ」

「な、なんで……」


 スピカは混乱する。アルデバランの言っていることが、理解できていなかった。

 アルデバランは頬を染め、恥ずかしながらも口を開く。


「俺との契約は<クエスト一回達成>までだろ? 次でクリアするぞ」

「アルデバラン……!」


 ぱあっと、スピカの顔が明るくなった。


「よーっし! じゃあ次はSランク冒険者推奨のクエストに出発よ!」

「やっぱり解散するぞコラァ!」


 冒険者ギルドに賑やかな笑い声が響く。きっとこの笑い声はいつまでも続くことだろう。

 アルデバランと、スピカの2人がいる限り。

ご読了ありがとうございました。

普段は百合作品を中心に書いています。興味のある方は作者ページまで遊びに来ていただけると嬉しいです♪

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