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第一話 勇者召喚してそれから


 人はあっさりと死ぬ。


 僕は剣で体を貫かれ、大理石の床に打ち捨てられた、心臓あたりを貫かれており、幅広な傷跡からはスプリンクラーのように血が溢れている。

 なんて自分が死ぬというのに、どうしてこうも他人事のように考えられるのか。


 あまり言いたくはないけど、傷つくことに慣れていたのだろう。



「――――――――――!!」



 クラスメイトの悲鳴が聞こえるが、どうにも耳が遠くて曖昧にしか聞こえない。

 誰かに揺さぶられているが、目がかすんで誰なのかすら分からない。



 意識が薄れていく。



 ・・



 そうして僕は肉体から解放された。

 死んだと、意識が途絶えたという瞬間に無意識に体が起き上がっていて、それはもう、幽体離脱ってあるんだと、他人ごとのようになるくらい驚いた。



「あー、僕はまだ死んでない(?)よー」



 ひとまず主張してみたが、やはり幽霊ということでだれにも届かないようだ。

 クラスメイト、どうやら僕の体を揺さぶっていたのは委員長の藤本勇(ふじもといさむ)だったようだ、いいやつではあるが先走りがちな奴、苦手だが。

 手近で丁度いい、肩に手を置いてみる。


 すり抜ける、そりゃそうだわな。


 いや、何か違和感を感じたのか周りを何度も見渡しているな、多少は影響があるのか。



 しかしクラスメイトこんなに注目されたのは初めてなものだな、まあ幽体の僕は見られてないけれど。

 アラサー先生なんか顔を真っ青にして気絶してしまったし、昔は僕を虐めてきた森優子(もりゆうこ)も泣きながら「死なないで!」 なんて叫んでるし、和解はしたけどその後にはあまり関わらなかったし意外な感じだ、それと図書委員仲間の大川名護(おおかわなご)さんは心ここにあらずといった感じだ。

 男子勢だとオタク仲間の尾野翔太(おのしょうた)くんは嘘だろうとばかり言うし、不良モドキの波瀬大地(はぜだいち)はこぶしを握り締めて僕の遺体の横でクラスメイトを守れるようにしているし。


 こう見ると割と個性的なクラスメイトだらけという感じだな。

 まあでも、僕には何もできないのは分かったからひとまずは状況整理と行こう。



 まず殺されるまでの経緯か。



 どうやら朝のホームルーム中に、謎の光が発生して気が付いたら城の広間っぽい場所に居た。


 足元には魔方陣もあり、勇者召喚だろうなという予想はしていたが、普通に姫っぽいひとが出てきて「私たちの世界を救ってください」と。

 委員長の勇が話をして、魔王討伐とか、勇者の能力とか、帰還には魔王の膨大な魔力がないと十年はかかるという話を聞くことが出来た。


 勇の向こう見ずな性格もあり「やりましょう」 だとか言い始めたが、このままだと全員で戦わされることになりかねないから戦えない人は保護してくださいとでも言おうと前に出たら。

 王に危害を加える気か! みたいな感じで兵士が剣でドスッですよ、たまったもんじゃない。


 まあ、学級ごと勇者召喚されたってことくらいしか分からんが。


 僕の死がクラスメイトにかなり動揺を与えてしまったわけだ、まあ、僕が死ぬくらいで驚くなら魔王を殺しに行くだなんて夢のまた夢だろうけど。


 しかし、意外なことに状況を見るに召喚者側も予想外だったようで姫すら驚いている。

 というか僕を殺した兵士だけ当然だという顔でいるけど、他の兵士もキョロキョロしてるぞ、もしかして僕は殺される必要なんて無かった?


 召喚者側の倫理観は躊躇いなく僕を殺せる兵士くんほどだと思ったら意外とある感じなのだろうか?

 帰還の魔法には魔王討伐してその魔力が必要というのも実は嘘ではない、かも。


 お、今まで、案山子に徹してた王が立った、何か言うようだね。



「馬鹿者!! 誰か、そいつを勇者殺しの罪で牢にぶち込んでおけ!!」



 兵士くんは驚いているが、まあそれ以外の兵士はその命令で素早く兵士くんを捕らえて部屋の外へと引きずって行ってしまった。


 そして王は玉座から立ち、階段を下りて僕らの前で地面に座り頭を床にこすりつける程に低い土下座をした。

 この世界にも土下座があるの? とは思ったが過去にも日本の勇者が来て広めた説など考えてはみたが答えが過ぎにも出ない事よりも、現状を見守ることにした。



「勇者様方、詫びても詫び足りない……」



 王が真っ先に土下座を行っており、それに倣い女王や姫、兵士たちも全員土下座をしていた。


 しかし僕が死んだことにクラスメイトは今でも混乱している、そんな中でも勇はどうにか立ち上がり言葉を投げかける。



「魔法、俺たちを呼び出せるような魔法があるなら、人くらい生き返るんだろ?」



 声が震えていた、王の返答は、首を横に振るのみだった。


 勇は崩れ落ちてぶつぶつとつぶやいている「こんなはずじゃなかった」「俺は手の届く範囲の人を救いたいだけなのに」「軽率に戦うなんて言わなければ」 性格が表れることを言っている。

 その性格に救われた人も多いが、その性格で首を突っ込み問題を荒らしたことも多い、今回の一件は致命的で、代償は無意味に声を上げてしまった僕が払うことになった。


 やっぱり僕は無駄死にだ、王様たちも悪人ではないようだし、普通に戦うことを約束していれば悪いようにはならなかっただろう、最大限のサポートを得て勇者の能力とかであっさり魔王も倒せるか、最悪倒せなくても十年はかかるが帰還もさせてもらえただろう。

 僕は死んで幽霊だから何もできないけど、みんなには十年待つか、戦える人は戦って魔王を倒すか、それとも全員が戦えるようになって一番早く帰れるようになるか、三つめは選んでほしくないけど、とにかくどう過ごすかを決めてほしいかな。


 そう思ってたら不良モドキの大地が前に出て話始めた。



花田(はなだ)が死んだのは許さない、だが、魔王の脅威ってのはどこまで迫っている、俺たち全員が何もしなくても十年後の安全は保障されているのか、それに十年も行方不明になって帰ったらそこに帰れる場所はあるのか? なら、俺は一年でも早く魔王を倒して帰るべきだと思う、花田の言った通り今ここで戦えないやつは保護してもらいたいが、だが勇者としての能力があるならやることをやってもいいと思えるやつは俺と共に来てほしい」



 考えてはいなかったけど安全の保障が十年持つか分からないか、面白い判断を言ってくれるな。

 しかし花田と呼ばれてびっくりした、普段名前を呼ばれなかったからな。



「もちろんだ」



 王も承諾してくれたし、方針が決まったな。


 今日のところは疲れただろうと言い、従者たちに導かれて僕らにはそれぞれ部屋が割り当てられた、大量の部屋があり、本来は各地から来る貴族や王族用の部屋だとの解説通り豪華な作りで、学級ごとの勇者でも全員一人一部屋で生活できる状態だった、ただ奇遇にも一部屋だけ開いていたが、僕が生きていたらそこが割り当てられたのだろう。


 とにかく、今日は色々ありすぎて大変だ、幽霊になったから死んだことにもあまり怒りだとかはないけど痛みだとかはあったし、精神的には疲れている。


 とはいえ幽霊だからか眠気もないし休めそうにないから、壁も通り抜けられるからみんなの様子でも見ていよう。


 あいさんは悲しんでいる、隣のかなさんも悲しんでいる、その隣のまほさんも悲しんでいる、名前がひらがなのいつもうるさいくらい明るいグループも静かになっているのは、こっちまで気分が沈んでくるな。

 次は悲しんでいる、次も悲しんでいる、次も悲しんでいる。

 身近にいた人が死んで恐ろしいとか、帰れないとか、ただ僕の死を悲しんでいるというより、僕の死からこの状況が辛くなったという感じだ。


 次こそ、今度は優子か、いじめっ子だったから多少今でも苦手だが、どうやらいまのところ彼女が一番僕のことを悲しんでいるようだ。

 そう思うと少しは許せる気がするな、ん? 何か言っている。



「ばか、なにしんでいるのよ、ずっと好きだったのに」



 衝撃の事実発覚、好きな子に意地悪をする系の女子だった!


 衝撃的過ぎて驚いているとポケットからスマホを出してみている、画面は普通だと思っていたら、アルバムを見始めて、そこには僕がずらっと写された写真が保存されている、すべて盗撮だ。

 正直嫌っていた相手から好意を抱かれていただけでも衝撃なのに、その好意の重さは恐ろしすぎる。


 見なかったことにして次だ、代わり映えなく悲しみ、次も悲しんでいる、次も、次も。


 おっと、大地の部屋か。

 表情には出ていないし、相変わらず恐ろしい顔だがさっき見せた通り頭も回るしリーダーシップもあって頼りになるが、やっぱり金髪だとかで不良に見える男だ。



「ふぅ、勇者召喚、ラノベで見た展開だが、同級生が死ぬなんて、正直堪えるな」



 ラノベとか見るんだ。

 普段は寡黙すぎて、今もだんまりとなってしまったから次だな。


 次は、勇か、委員長はどうなった?



「俺が間違っていた、許してくれ、なんて言えるわけもないよな」



 正直一番重い、無鉄砲で向こう見ずな性格は苦手というか嫌いだったけど、それでもその性格で救われた人たちがいるのは知っているし、善人であることは認めているから立ち直っては欲しいかな。

 次にいこう。


 次、次、次は翔太か。


 オタク仲間の翔太は頭を抱えている。

 ラノベというのは当然踏襲しているし、ぶつぶつと声に出しながら考えを整理している。



「なに死んでいるんだよ、日陰者なお前が主人公だろう、いや、本当に死んだのか?」



 勇が勇者らしくなるんだろうなだとか、大地は勇者より主役していくんだろうな、とか、勇者の能力の使い方だとかが行ったり来たりしている。

 オタク仲間らしく馬鹿していてほしいが、時間が解決してくれることに賭けよう、次へ行くか。


 次が、名護さんか、図書委員仲間だが正直語れることが多くないな、黙々と一緒に作業していて、時々話したりしたが基本作業の話で、何か話題を振るのも僕からですぐに話が途切れていたし。



「こん!」



 何やっているんだと思ったら狐の窓だったか、懐かしいな、オカルトで言う幽霊だとかが見えるというもので、名護さんがしているのは両手を表裏互い違いにして指を絡めてその中央に作ったスキマで見る。

 でも流石にオカルトだしな。


 ん? 目が、合っている?



「本当に居た!」



 大声出せるんだ、じゃなくて、見えるの⁉



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