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女人と男達

  白嬰が目覚めたとき既に空には赤みがさし(からす)が不気味な声で鳴いていた。

  やばい寝過ごしたと焦って起き上がる。

  華淑は自分と少し離れた所で草を()んでいた。

  どうやら無防備な状態の白嬰の護衛をしてくれていたらしい。

  でもどうせなら起こしてくれよと恨みがましい視線を送るとプイッと横を向いてしまった。

  この反応はどうやら起こしたけど起きなかったようだ。

  ともかく早く帰らないと親父にどやされる。

  頭にコブを三つほど(こしら)えた自分の姿を想像して思わず身震いする。

 


  急いで剣を身に着けて華淑に飛び乗ろうとしたその時絹を裂くような悲鳴が森中にこだました。

  その声に驚き咄嗟(とっさ)に茂みに身を伏せた白嬰の視界に一人の女人の姿が現れた。

 


  夕焼けで赤々と染まった(ほとり)に浮かび上がる透き通るような白い肌に乱れてはいるものの覗き込めば顔が照り返りそうなほど黒々とした艶やかな黒髪、そしてあまりに人間離れした美貌に白嬰は思わず息を呑んだ。

  まるで天女が下界に舞い降りたような錯覚にすら陥った。

 

 

  だが、女人は天女とは程遠くボロ切れ一枚しか羽織っておらず息も切れ切れで軽く押しただけで倒れそうなほど衰弱しているのが遠目からでもわかった。

  身体中傷だらけでおそらく森の中を彷徨ったのだろう。

  急いで助けなくてはと茂みから飛び出そうとしたとき女人の背景の暗闇から腕が生え豊かな黒髪を掴み地面に押し倒した。

 

  「あっ」

  女人は痛みに耐えきれず悲痛な声を上げる。

  「やっと捕まえたぜ。手間かけさせやがって」

  暗闇から現れた四人の男達の内最も背が高い男が掴んでいる女人の髪をぐいっと引っ張って顔を覗き込み憎々しげにそう吐き捨てた。

  女人の顔は苦痛で歪んでいる。

  「まったくだで、おだの大切な時間を無駄にしやがっで」

  著しく肥満している男も長身の言葉に同調し倒れ伏した女人の体を容赦なく蹴りとばす。

  女人は二、三度地の上を跳ねてピクリとも動かなくなった。

  「お、おいま、まさか殺したんじゃないだろうな。」

  四人の内最も背が低い痩身そうしんの男がおずおずと口にだす。

  「死んじゃいねぇよ気絶しているだけだ。水でもぶっかけたら起きるだろ。」

 


  長身は肥満に目配せすると肥満は気を失っている女人を水辺にまで引っ張っていった。

  「ついでだ、俺たちが先に楽しんでから首領のとこへ連れ戻さねぇか。」

  「で、でも首領が手を出さずにづれでごいっで。」

  「どうせ気づきやしねぇよ。もっともあの様子じゃあ首領はもう死んでるかもしれねぇがな。きひひ。」

  そう言って長身はさっきからずっと後ろで仏頂面で無言だった角刈りの方を向き

  「なぁどうだ新入りお前もこの女の体を味わいテェよな?」

  「チッ、興味ねぇよ。」

  角刈りはいかにも胸くそ悪そうに長身の言葉を無造作に突っぱねた。

  「ふん、つれねぇな。おいそっちのお前はどうだ?」

  今度は痩身の方を向きそう問いかけた。

  「ぼ、ぼくも遠慮しておきます。」

  「へ、そうかい。それは残念だぜ。」

  長身は口ではそう言いながらも顔はさも獲物の取り分が増えたとばかりの下卑た笑みを浮かべていた。

 

 

  「まぁいいさ。俺たち二人で楽しむからよ偽善者君達は見張りでもしててくれよ。こんな所に助けなんて来ないと思うがよ。なぁ?」

  長身は水をかけられ咳き込んでいる女人の耳元で粘ついたいやらしい口調でそうささやき羽織っていたボロ切れを剥ぎ取った。

  女人はせめてもの抵抗と露わになった乳房を手で覆い隠し射殺さんばかりの視線を二人に向ける。

 

  「なんだぁぞのなまいぎなめは?」

  肥満は女人の顔に容赦なく拳を振り抜く。

  「ウッ…」

  うめき声をあげる女人の顔を見て肥満は恍惚こうこつとした表情でさらに暴力を振るう。

  口の端からは粘ついた唾液が垂れている。

  「おい、やめねぇか。すまねぇなコイツは女を殴りながらじゃねぇと興奮しねぇ変態でよ。今まで何人もの女を殺しちまってんだよ。その点俺は女には優しいから安心だな。きひひ。」

  「兄貴だっで女を切り刻みながらヤるのが好きなぐぜに。」

  長身はヘラヘラと笑いながら(ふところ)から匕首あいくちを取り出し女人の顔先でチラつかせる。

  恐怖を与えるのを心底楽しんでいる。

  女人は気丈に振る舞ってはいるが目の縁には涙が溜まっている。

  女人は助けを求めるかのように二人の後ろに視線を送るが痩身は申し訳なさそうに(うつむ)き角刈りはバツが悪そうに目線を逸らした。

 

 

  「わかっただろお前を助けるやつなんざ一人もいねぇんだよ。」

  長身は女人の心を見透かしたかのように最後の希望を嘲笑あざわらなぶるかのように蛇のような舌を頬の上で歩かせた。

  そして、匕首を頭上近くまで振り上げた。

  女人は数秒後に自分を襲うであろう激痛に耐えるためにギュッと目を瞑った。

  半ば諦めて心の中でこう祈りながら。

  (お願い。誰か助けて…)

 


  その時、一陣の風が吹き男達の短い悲鳴が複数回木霊(こだま)し周囲の音を全て攫っていった。

  辺りが静寂で包まれる。

 



いつまで経っても痛みが襲って来ず恐怖に耐えかねた女人が恐る恐る目を開けてみるとそこには驚きの光景が広がっていた。


か細いうめき声をあげながら地に倒れ伏す四人の男達とそれを見下ろす少年。

少年はあっけにとられている女人にゆっくりと近づき優しく微笑みかけた。



  「もう大丈夫ですよ。」

 

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また、ここがおかしい、こんな逸話がある、こんな人物が好きだなどお教えくだされば幸いです。

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