第9話:デート(京子編)
「翔君、そうよ、そこの穴に入れるのよ? あら? 外れちゃった?」
「ふふ、焦らないでいいのよ」
「そう、そこよ」
「いいわ、初めてにしては上手じゃない!」
「そ、そうですか?」
今日は京子さんとのデートでパチンコをしに来ています、期待を膨らませた皆様ごめんなさい。
って誰に報告してるんだろう?
「京子さんはよく来るんですか?」
「そうねぇ…月に1回か2回くらいかな?」
その割には、来て30分で何箱も積み上げられてるんですけど…。
「食費稼ぎに来てるのよ」
「え…?」
俺たちの部屋代も破格だし、片倉家の食費が、どこから出てるのか疑問に思わなかったわけではないけど、
まさかパチンコで稼いでいたとは。
「京子さんってパチプロなんですか?」
「違うわよ、昔はそうだったけどねぇ、今は蘭もいるから」
「なんか、すみません」
自分達の生活のためでもあるんだろうけど、居候している自分が、なんとなく申し訳なくなってくる。
「何謝ってるのよ、息抜きにちょうどいいのよ」
そう言うと俺の頭をガシガシと撫ぜるその優しい笑顔は、年上の大人の女性を感じさせられる。
「どうしたの? なんか顔が赤いわよ?」
「な、なんでもないです…」
大人の女性にドキドキしてしまった胸の内を知られまいと、自分のパチンコ台に集中した。
「ふふ、変な子ねぇ」
…
「京子さん幾ら儲かったんですか?」
換金してパチンコ店を出てきたところで聞いた。
「うーん、8万くらいかしらねぇ」
は、8万って…。
「いつもそんなに儲かるんですか?」
「いつもはもっと儲かるわよ、というよりも儲けるわ!」
豊満な胸を揺らして、自慢げに笑ってる姿が勇壮に見えるのは何故?
「じゃあ軍資金も手に入ったことだし、ご飯食べに行きましょう!」
手に持ったお金をヒラヒラと揺らしながら、歩いていく背中を追いかける。
「翔君何か食べたいものある?」
思い出したように立ち止まって、急に振り返った。
「食べたいものですか? え〜と…」
「私を食べたいとかダメよ? まだ時間が早いからね」
人差し指を俺の唇に当てて、片目を瞑ってウィンクをする。うん、岡田さんとは違う完璧なウィンクだね!
「って言いませんよ、そんなこと…」
どこのオヤジですか? っていうか時間が遅ければ言っていいのかよ! でも言わないけどね!
…
「あの…京子さん? ここ高いんじゃないですか?」
少し名の知れたホテルの、最上階にあるレストランにやって来ていた。
「ん? 気にしない、気にしない! たまにはいいでしょ?」
そう言うと軽く手を上げウェイターを呼ぶ。
「2人ともこのランチコースで、ワインは白ワインをお願いね」
「かしこまりました」
ウェイターは軽く一礼すると、颯爽と動いていった。まさにプロと言った感じだ。
「翔君は分からないだろうから勝手に頼んじゃったわ」
「はい、ありがとうございます。って昼からワインですか?」
「ん? ま、まぁ食前酒って事でね」
何か少し動揺したように見えたけど、気のせいかな。
「そう言えば、京子さんがお酒飲むところ見たことないですけど」
片倉家に居候するようになってだいぶ経つけど、1度もお酒を飲むところを見たことが無かった。
「そうね、家では飲まないようにしているしね」
「え? どうしてですか?」
「それは…あれよ…」
明らかに動揺しているな、なんなんだろう?
「お待たせしました、白ワインはこちらになりますがよろしいですか?」
どこそこの何年もののワインとか説明してくれてるけど、俺にはさっぱりわからない。
京子さんが肯定すると、グラスにワインが注がれた。
「あ、あの…京子さん、俺ワインなんて飲めないですよ」
「え? ああ、形だけでも乾杯しましょ?」
そりゃそうか1人じゃ乾杯できないし、って何に乾杯するんだろ…?
「じゃあ、私たちの、初エッチに乾杯!」
「初エッチに乾…、って何言ってんすか!」
危うく復唱して乾杯するところだったよ! 何この危険なワードは!
普通貞操って女性が気にするものであって、男のほうが危険を感じてどうする!
「良いじゃにゃいの! 減るみょんでもないしにぇ!」
あれ!? 京子さん、まだワイン1口しか飲んでないのに、ろれつが回ってないよ!
って目が据わってるし、しかも何故か睨んでるよ!
「翔もにょめ!」
「だから俺ワイン飲めないですって!」
「私の酒がにょめにゃいっていうのきゃ!」
そういうと急にバタっとテーブルに突っ伏してしまった。
「京子さん?」
すーすーと寝息が聞こえてるところを見ると、寝ちゃったみたい…。
っていうか酒、弱!
ウェイターがスーっと寄ってきて、俺にキーを差し出してくる。
「なんですか?」
「片倉様はお部屋をお取りになられていますので、そちらにどうぞ」
何この手際の良さは! もしかして常連なのか?
ウェイターの人に手伝ってもらい、京子さんを背中に背負うと、キーに書いてある部屋へと運んでいく。
部屋まで運んでベッドの上に寝かせたはいいが、どうすりゃいいんだろうか…。
とりあえず服を脱がせるか? 皺になって後で怒られても嫌だしな。
上着を脱がせブラウスのボタンに手をかけると、女性の服なんて脱がせたことないから、
緊張で手が震えていることに気付く。
「し、失礼します」
ブラウスを脱がせると、青少年の目に毒な豊満な胸が下着の中で自己主張をしていた。
よ、よし、次はスカートだ…。
ファスナーとフックを外しスカートを脱がせにかかる。
ピッチリしたスカートだったので、脱がせるのに四苦八苦していると…。
「もう、翔君、せっかちなんだからぁ」
「え!? い、いや、これは…」
だから何故このタイミングで目を覚ますか!
不意に頭を掴まれて、何かフワフワと柔らかい感触に包まれる。うわっこれ胸だ! すごい柔らかい!
なんて喜んでる場合じゃない、い、息が出来ない!
「うぐぐ…」
く、苦しい…。
もう少しで失神しそうになると、ようやく開放された。
「翔君…むにゃむにゃ」
「って、寝てたんかい!」
つーか、むにゃむにゃって言う人初めて見たよ!
とりあえず目に毒なので、布団を被せてようやく一息つくことが出来た。
「さて…どうすっか…」
まぁどうするもこうするも起きるまで待つしかないよな…。
…
「ん…? ここどこ?」
携帯いじったりして、時間を潰すこと約2時間、ようやくお目覚めのようだ。
「京子さん起きました?」
「あれ、翔君…ここどこ?」
キョロキョロと部屋の中を見回している。
「ホテルの部屋ですよ」
「え? ホテルの部屋?」
まだ事態が把握できてないのか、目をパチパチと瞬いている。
「レストランで酔って寝ちゃったから、運んだんですよ」
「あちゃー、またやっちゃった」
額に手を置いて天を仰いでる。
「はい?」
「私、お酒がものすごく弱いのよね」
「じゃあ…何で飲んだんですか?」
腕を組んで少し考える。その姿は蘭ちゃんもやってたな、さすが親子だ。
「久々のデートで浮かれていたから?」
「疑問に疑問で返されても、困ります…」
そこで京子さんは布団の中の自分の格好に気が付いて妖艶な顔になる。
「翔君、寝てる間に何か…した?」
「な、何もしてないっすよ! 皺になると思って服は脱がせましたが…」
ふ〜んと言って疑いの眼差しを強くする。
「本当は?」
「本当ですよ!」
身の潔白を証明するように両手を挙げて降参のポーズをする。
「なぁんだ…つまんない」
つまんないって言われても困るけどさ。
「今度は起きてるときに脱がしてね」
「お断りします!」
…
お酒飲んで頭が痛いって言うので、片倉家に帰ってきた。
「あれ? おかえりー! 早かったね!」
蘭ちゃんがスティック状のお菓子を咥えながら顔を出した。
「お酒飲んじゃってね」
「あー」
あーって、やっぱり蘭ちゃんも京子さんの酒の弱さ知ってるんだ。
「でもママ、今日はあんまり酷くないね」
「それはホテルで休憩して来たからよ」
ちょっと待って! その発言なんか危険!
「そっかぁ」
でも相手が蘭ちゃんで良かったと、ホッとするのも束の間だった。
「ホテルで休憩ですって!」
「ぎゃ!」
葉子さんのドスの効いた声がいきなり聞こえたので、思わず悲鳴をあげちゃったよ!
「翔君! ぎゃって何よ! ぎゃって!」
「えーと…ごめんなさい」
「そんなことより、ホテルで休憩ってどういうことなの!? 翔君!」
般若のお面ってこんな顔だったよな、これで角が生えてたら完璧だったな。
「文字通り酔い覚ましに休んできただけでございます」
「翔君優しいのよ、洋服が皺になるからって脱がせてくれたのよ」
「…!?」
ちょ! ここでそんな発言したら、俺の死亡フラグが立っちゃうよ!
「ぜ、全部脱がせたわけじゃないからね!」
「翔君、ちょっとあっちでお話しましょうね」
俺の手首を掴んでグイグイと奥の部屋に引っぱって行かれる。
京子さんに助けて目線を送るが、思い切り逸らされたよ!
京子さんがダメならと蘭ちゃんに助けて目線を送ったが、キョトンとした顔された…。
「な、何もなかったですよ!」
涙目で首をフルフルと横に振って抗議をしてみる。
「そんな捨てられた子犬のような目をしてもだめよ?」
「うぐ…」
くそ、逃げ道は無いのか!?
「蘭ちゃーん」
「はーい」
トタトタと足音がして、蘭ちゃんがやってきた。
「翔君にお仕置きをしてあげて」
「了解しました、隊長!」
敬礼する蘭ちゃんは可愛らしいけど、いつから葉子さんは隊長になったのですか?
「成敗!」
成敗ってそれ何か違うから!
空気を切り裂く音が聞こえたかと思ったら、俺の額に凄まじい痛みが走った。
「いだぁぁ!」
体が3mほど飛んだ、と思うような衝撃だった。
なんで蘭ちゃん、あんなに小さな手なのに、デコピンがこんなに痛いんだ!
「何も無かったなら、このくらいで許してあげるわ」
いやいやいや、何も無かったんだから、デコピンも要らないじゃんか! とか怖くて言えません。
おそらく最初にぶち当たる壁に来ていると思われます。
次話が途中まで書いて止まってしまってる。
外伝のようなものを書いて気分転換したほうがいいのだろうか…