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片倉荘  作者: Satch
7/22

第7話:デート(あきら編)

あきらさんに連れられて、遊園地にやって来ました。

っていうか、デートとしてはめっちゃ普通じゃん!定番中の定番だよ!


「なんだ? 遊園地じゃ不満か?」


俺の脱力した様子をみて、あきらさんが心配そうに顔を覗き込んできた。


「いや、すごい普通だなと思って」


バンジージャンプとかさせられるんじゃないかと、内心ビクビクしてたけど杞憂に終わった。


「滝にダイブでもさせられると思ったか?」


「…っ!」


俺の予想を上回ること言ってるよ! ってそれ死ぬから!


「冗談だ」


口角をちょっとだけ上げて笑ってるけど、冗談を言っている顔じゃないよね?

どう見ても挑発的な笑いにしか見えないから!


「じゃあアレに乗ろうか」とあきらさんが指差したのは、この遊園地の売りとなっている絶叫ジェットコースター。


「え!? いきなり?」


「うん、まずはアレに乗らないとな」


そう言って、俺の手を掴みおもむろに歩き出した。

女の子に手を繋がれるのにも、だいぶ慣れてきたけど、顔はまだ少し赤くなる。


まだ時間が早いからすぐ乗れそうだけど、30分くらいは待ちそうだった。

しかしこのジェットコースターの「DEAD OR DEATH」って名称はどうだろう? ORで区切ってるけどどっちも死だからね!


そんなツッコミを入れていると、ようやく俺たちの乗る番が来た。

繋いでた手が離されたことに気付いた時には、あきらさんは1番前に乗り込んでる! 早っ!


「翔! 遅いぞ!」


「あきらさんが早すぎなんですって!」


目をキラキラさせて今か今かと発進を待っているあなたは小学生の男子ですか?


「お! 動きだしたぞ!」


この最初にカリカリ音を立てながらゆっくり登っていくのが嫌なんだよね。


「早く! 早く登れ!」


どんだけ絶叫したいんですか!


そして最高到達点から最高速で下って行った。ひねったり回転したりと結構ハードだ!

あきらさんは両腕を上げたりして楽しんでいたけど、俺にはそんな余裕な無かった。


1回乗り終わったあきらさんは、今乗ったジェットコースターの列の後ろに並んだ。


「え!? また乗るんですか?」


「ん? 嫌か?」


「嫌じゃないけど…何か違うのを乗ってからがいいな〜、なんて」


「却下!」


早! っていうか、やっぱり俺の意見は通らないのね…。


途中から意識が無いから、正確には分からないが連続で10回くらい乗ったかな?


さすがにそれだけ乗ると気持ち悪くなり、今はベンチに横になって休んでいた。

頭はあきらさんの太ももの上にあり、とても柔らかくて良い感じです。って何考えてんだ俺!


「だらしないな! 翔は!」


柔らかい太ももの上から恨みがましく見上げると、あきらさんと目が合い、

なんかこの状況が妙に恥ずかしくなって顔が真っ赤になるのが自分で分かった。


「翔? 赤くなってどうした?」


どうした?って聞いてるあきらさんも顔が真っ赤じゃん!


「な、なんでもないです…」


「そ、そうか…」


気まずい! 何か喋らなきゃと思うが、こういう時に限って話題が出てこない!


「あ、俺、もう大丈夫ですから」


そう言って起き上がると、あきらさんも少しほっとしたような様子だった。


「これからどうしようか?」ということで辺りを見回してみると、

休んでいたベンチの前方に、お化け屋敷があるのが目に入った。


「あ! お化け屋敷がありますね? あれ行きましょう!」


俺はお化けとかそういうのは大丈夫だし、あきらさんもきっと大丈夫だろうと視線を向けると、

顔を青くして「お、お化け屋敷」とか呟いているのが聞こえてきた。


そこでピンと来た俺は、あきらさんの手を取って、お化け屋敷のほうに引っぱる。


「し、翔? の、喉乾かないか?」


「いえ、別に?」


ぐいぐいとお化け屋敷のほうに引っぱっていくと、あきらさんは段々涙目になってきた。


「あきらさん、どうしたんですか? もしかしてお化け屋敷が怖いとか?」


「そ、そんな事ある訳ないだろう!」


今度は逆に俺をぐいぐいと引っぱってきた。その無理している背中が可愛らしい。

やめても良かったがそのままお化け屋敷に入って行くので、逆らわないことにした。



「ぎゃぁぁぁあああ」


入ってすぐあきらさんは俺の腕にしがみついて、泣き叫んでいた。


既に虚勢を張るプライドも消えて無くなる程、怖がっているみたい。

こんなあきらさんを見るチャンスなんて滅多に無いからレアだよな。


しかしそんなにしがみつくと、胸が肘に当たって柔らかい感触があります!

洋服を着ていると分からないけど、意外とあります! そんなこと口にしたら死にますが!


お化け屋敷を出ても、あきらさんはまだ腕にしがみついたままだった。


「あ、あきらさん?」


いつまでも何も喋らないあきらさんに呼びかけてみる。


「翔…覚えてろ!」


あきらさんは俺を半眼で睨んでくるけど、目に涙が残っているので迫力に欠ける。


「うん、覚えとくよ! あきらさんの泣き叫ぶ姿をね!」


「…くっ!」


あきらさんはしがみついていた手を離すと、ズンズンと先を歩いて行ってしまった。

やべぇ! 本気で怒らせちゃったかも知れない。


「あきらさんちょっと待ってよ」


足早に歩くあきらさんに追いついて呼び止める。


「あきらさんってば!」


急にくるっと振り返ったあきらさんの顔は別に怒ってはいなかった。

怒ってはいなかったけど、いつもと違って見える、そう女の子っぽい顔をしていた。


「翔だけだから!」


「え?」


「あんな姿を見せるのは翔だけだから!」


口止めかな?


「分かってますよ、誰にも言いませんから」


「分かってない!」


あきらさんはまたズンズンと足早に先を歩いて行ってしまった。


「…?」


口止めじゃないの? 意味の分からない俺は首を傾げるばかりだった。



絶叫コースター「DEAD OR DEATH」にもう1度乗って、何とか機嫌を直してもらい、

今はジュースを飲みながら休憩していた。


「翔、さっきはすまん! 全部忘れてくれ!」


「大丈夫ですよ、もう忘れましたから」


あきらさんは何故か少し寂しそうな顔をしてから笑った。

それはいつもの口角を上げるだけの笑いではなく、ごく自然な笑顔だった。


「あきらさん、その笑顔かわいいですよ!」


「な! 何を言っている!」


みるみるうちに真っ赤になっていくあきらさん。


「翔…おまえは…天性の女たらしなのか…?」


何やら小さい声で呟いていて良く聞き取れない。


「え? なんですか?」


「いや…何でもない…そろそろ帰ろうか?」


「そうですね、だいぶ暗くなって来ましたしね」


どちらからともなく手を繋いで、出口ゲートを潜った。



片倉家に戻ってくると、京子さんと葉子さんが食堂でお茶を飲んでいた。


「ただいまー」


「あきらちゃん、チュウした?」


京子さんが開口一番にあきらさんに聞いてるし…まずおかえりとか言ってよ!

っていうか何で京子さんはそんなにキスをさせたがるのだろうか?


「だから京子さんと違いますから!」


「なぁんだ、つまんない」


つまんないって…


「それよりあきら! 何も無かったでしょうね?」


「あぁ、葉子が考えているようなことは無かったよ」


「それならいいわ」


いつも思うけど、葉子さんは俺のマネージャーなのかな?


「蘭ちゃんと菜摘さんはどうしたんですか?」


俺たちが帰ってくるのを待っていると思った2人がいないので聞いてみた。


「菜摘さんが蘭ちゃんに連れられて買い物に行ったわ」


普通逆だから! 蘭ちゃんが菜摘さんに連れられてが正解だから!

まぁ菜摘さんの殺人的な方向音痴ではそう言われても仕方ないか。



「ただいまー」


何とも言えない絶妙なタイミングで、蘭ちゃんと菜摘さんが帰ってきた。


「翔君、今何か失礼な事考えてなかった?」


ん〜?っと菜摘さんが顔を近づけてくる。顔近い!

あと数ミリで唇がくっ付きそうだよ! っていうか明らかにワザと唇近づけてるよね!?


「か、考えてないっすよ! それより顔近い!」


バシィィィィン!


葉子さんがどこから出したのか不明なハリセンで菜摘さんの頭を叩いた。

叩いた衝撃で俺の唇と菜摘さんの唇がほんの少しだけ触れた。気がした。


「いっ! たーい!」


「菜摘さん顔近すぎだから!」


「だからってハリセンで叩かなくてもぉ!」


涙目で菜摘さんは抗議の目を向けるが、葉子さんはまったく動じてない。


「ねぇ…今…唇触れなかった?」


葉子さんは菜摘さんの後ろにいたので見えていなかったが、

蘭ちゃんは俺の横に来ていたから見えてたらしい。


「え!? ちょっとどうなの?」


葉子さんは何故か俺ではなく菜摘さんに掴みかかるように問い詰めた。


「へ?」


菜摘さんは目をパチクリさせて葉子さんを見つめた。

たぶん菜摘さんは叩かれた衝撃で覚えてないのかも、ってことは…


「翔君どうなのよ!」


案の定、矛先が俺に向いた!


「え、えっと…ギリ触れてないですよ!」


手を顔の前でブンブン振るが、半眼で睨んでくる葉子さんの顔怖いっす!


「ほんとーに?」


蘭ちゃん、その子供特有の純粋な澄んだ目で問いかけるのは止めてくれ!


「ほ、本当だよ!」


ごめんね蘭ちゃん、でもここは嘘をつき通さないと俺の…いや菜摘さんの命がなくなるからね。

幸い菜摘さんは覚えていないみたいだし、それに本人の俺でさえ触れたのかどうか分かってないから。


「まぁいいわ、翔君を信じましょう。でもこれがもし嘘だったら翔君…分かってるわよね?」


「は、はい…」



夕飯までまだ少し時間あるからと皆それぞれ自室に入っていく。


「し、翔君?」


俺が部屋に入ろうとした時、菜摘さんが遠慮がちに声をかけてきた。


「はい?」


「あ、あの…」


何故かもじもじとしていて、なかなか続きを話しださない。


「菜摘さん?」


少しじれったくなって先を促すように名前を呼んでみた。


「わ、私…ファ…ファー…」


くしゃみがしたいとか…じゃないよね? なんだろ? ゴルフのキャディ…の訳ないよな。


「…?」


「わ、私のファーストキス!」


菜摘さんは、それだけ言うと顔を真っ赤にしながら自室に入っていった。


もしかして…というかやっぱり唇が触れて…いた? まじか!

しかし菜摘さんは葉子さんに問い詰められて誤魔化し切れるタイプじゃないよな。

ってことはあの時何を言われたのか分かっていなかっただけか…。



夕食が出来たと呼びかけがあったので自室を出ると、ちょうど菜摘さんと鉢合わせした。


「…!?」


目が合った途端真っ赤になって俯く菜摘さん。

やばい! このまま食堂行ったら異変に気付かれるかも知れない!


「菜摘さん、お、俺もファーストキスですよ!」


「…!?」


あー…俺も恥ずかしいですって意味で言ったんだけど…

菜摘さんはフラフラと、いやフワフワと? 食堂に向かって歩き出した。


数分後、菜摘さんが口走ったお陰で、唇が触れていたことがバレて皆に睨まれた…。

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