表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片倉荘  作者: Satch
5/22

第5話:葉子さんって何者!?

俺とあきらさんで、教壇の上にあった先生のメモを見ながら、

いろいろな係りを決めている。


しかし先生のクセに字…下手くそだよな。


「ここ見てみろ」


あきらさんが口角を上げて指差した部分を見ると、受け翔、攻め健太郎って…

何書いてんだよ! 先生BL好きなのか?


「はいはーい」


「岡田さんどうしたの?」


岡田さんがいつの間に復活したのか手を挙げてアピールしてる。


「飼育係がやりたいです!」


「そんなのないから!」


「えー! そうなの?」


そうなのってそれワザとだろ!?

自分が小学生に見えるっていうのを利用しただけだろ?

しかもまわりは苦笑しかしてないからね!


あらかたメモに書いてあったことを終わらせた頃、図ったように園田先生が戻って来た。


「おつかれさーん」


教室に入ってきた先生の髪の毛がハネてるのを見て悟った。


「先生、寝てたんすか?」


「えぇ! ね、寝てないわよ!」


吹けもしない口笛吹いてるし、ってその誤魔化し…古!


「まぁいいです、それよりメモにあった内容終わりました」


「本当? 助かったわ」


「それより今度こんなラクガキしてたらお仕置きですよ?」


俺と健太郎のことを書いたラクガキを指差す。


「お仕置き…」


「なんで赤くなってんすか!」


お仕置きで何を想像したんだろ? 禁断の香りがするので聞く気も起きない。



さて帰ろうかと教室を出ると、捨てられた子犬のような目をした菜摘さんが、

廊下で俺たちが出てくるのを待っていた。


「ふぇーん! 寂しかったよー」


そう言うと菜摘さんはあきらさんに抱きついた。

最初俺に抱きつこうとして葉子さんに阻止されたので、あきらさんに向かったという経緯です。


なんか子供みたいだな菜摘さんは。



朝と同様4人で片倉家に帰ってくると、蘭ちゃんも帰ってきてて、「おかえりー」っと俺に抱きついてきた。

葉子さんの阻止を小さい身体を生かし、かいくぐった成果だった。


「まぁ蘭ちゃんならいいわ…」


葉子さんも少しお疲れのようですね?

とか言ったら、うるさいとか言われるから黙ってるけどね。

っていうか俺、なんで葉子さんに管理されてるんだろう?


今日は学校は半ドンだったので、片倉家で昼食を取って、各自部屋に戻っていた。


さて今日はどうしよう? 本屋に行きたいし、駅の周辺でも探索してみるか、

着替えを済ませて、部屋を出たところで菜摘さんと鉢合わせした。


「あれ、菜摘さんもでかけるんですか?」


「あ、翔君、ちょっと本屋さんに行こうと思ってぇ」


「マジですか? 俺も行こうと思ってたので、案内してもらってもいいですか?」


「うん、いいよ!」


2人で玄関を出ると菜摘さんが鍵を掛ける。

片倉家では全員1個ずつ鍵をもっていて、出かける時は家に誰か居ても、必ず鍵を掛けることになっている。


「じゃあ、いきましょうかぁ」


そう言って菜摘さんが俺の手を取った。


「・・・っ! な、何で手繋ぐんですか!?」


「え? はぐれたら行けないと思ってぇ」


俺は高校生なんだから、はぐれたりするわけないのに…


「わたしが」


「菜摘さんがかよ!」


なんか無事に本屋にたどり着けるか不安になってきたぞ。


「菜摘さん、もちろん本屋には行ったことあるんですよね?」


「あー! 翔君またわたしをバカにしてぇ!」


ぷーと頬を膨らませて、拗ねた顔をする。ちょっと可愛い。


「そ、そういうわけじゃないんですけどね…」


「ちゃんと1人で行けたことが2回ありますよぉ!」


たわわに実った胸を反らして、誇らしげにしているけど、自慢できることじゃないからね?

いや、その胸は自慢できるけどさ…


「2回…?」


「大丈夫ですよぉ、いつもはあきらちゃんや蘭ちゃんに、連れて行ってもらってますからぁ」


それは大丈夫とは言わなくない? あきらさんは分かるとしても、

小学生の蘭ちゃんにまで連れてってもらってるって、高校生としてはどうなのよ?


相変わらず手を繋ぎながら歩いているけど、俺、顔真っ赤なんですが…

菜摘さんは平然としているのが意外だった。


「翔君は何の本を買うのぉ? …もしかしてぇ…えっちぃ本とかぁ?」


頬を赤く染めて、キラキラした目で言われても違いますからね?

そういう本を買うなら、少なくても女性と一緒に本屋には行かないよ?


「そんなの買いませんよ! 漫画とか小説を見に行くんです」


「なぁんだ、ですよぉ」


心底残念そうな顔されても、期待には答えられないから!


「菜摘さんは何の本を買うんですか?


「え!? わ、わたしですか!?」


「あれ? なんで動揺してるんですか? もしかしてえっちぃ本ですか?」


少し下から菜摘さんの顔を窺うように聞いてみる。


「ちちち違いますよぉ! お料理の本ですよぉ」


空いているほうの手を顔の前でブンブン振って否定する。


「え! 菜摘さん料理作れるんですか?」


すると菜摘さんは顔を曇らせて、首をフルフルと横に振った。


「作れないから買うんですよぉ」


「へぇ、頑張り屋さんなんですね」


「違うのぉ、お料理を作って食べてもらいたい人がいるからなのぉ」


「へぇ、その人が羨ましいですね」


菜摘さんは何も言わずに少し潤んだ瞳で俺を凝視しているけど、なんか悪いこと言ったかな?


「あ! 無事に本屋さんに着きましたよぉ」


無事にってところが気になったが、辿り着いてよかった。


そこは駅前通りの、専門書などもおいてある4階建ての少し大きな本屋だった。

っていうかこんな分かりやすい場所にあって、1人で2回しか来れてないって…

そんなんでよく学校とか行けてるよね? あ、そうか朝はみんな一緒だしね。


「翔君は本屋さんの後の予定は、何かあるのぉ?」


「俺は、この駅前を少し散策してみようかと思ってます」


菜摘さんはすこし考えて、遠慮がちにお願いしてきた。


「わ、わたしもご一緒してもいいですかぁ?」


「え? 別に構いませんよ」


「あ、案内はできないですが…」


「そこは期待していませんから」


「…」


いや、そんな涙目で見られても、事実だからしょうがないでしょ…


30分後を集合時間と決めて、それぞれの買い物に散っていった。


小説や漫画を見てまわって、買うものも買ったけど、まだ15分ほど時間が余ってしまった。


菜摘さんでも探しに行くかと思い、料理本のコーナーに行ったけど居なかった。


おかしいなどこ行ったんだろう?


本屋の出入り口に行くと、菜摘さんがボーっと立っていた。

店員にじろじろ見られているけど、全然動じないというか、気付いてないのか。


「菜摘さん、どうしたんですか?」


「あ、翔君! お料理の本買ったんだけど、時間が余ってしまって」


「なんだ、それなら声かけてくれればよかったのに」


「でもぉ、翔君の後くっ付いて歩いても邪魔かと思ってぇ」


「え? そんなに前からここで待ってたんですか?」


「友達に聞いて、買う本は決まってたからぁ、すぐ買ってしまってぇ…」


健気というか、なんというか、それが菜摘さんなんだろうな。


「じゃあ、俺も終わったんで、出ましょうか?」


「うん!」


それから菜摘さんと2人また手を繋いで、駅前通りを見てまわった。


アクセサリーショップや雑貨屋などが軒を連ねていたから、飽きることなく時間が過ぎて行き、

今は少し洒落た感じの喫茶店で休憩をしていた。


「今日は楽しかったですね」


「そうですねぇ、なんかデートみたいでしたねぇ」


そう言って、菜摘さんは頬を染めて嬉しそうに笑っていた。


「え!?」


言われてみればデートっぽい感じになってたような気がする。


「そ、そうですか?」


わざとらしくとぼけてみたけど、菜摘さんにジト目で睨まれた。


「これはデートですよねぇ?」


「いや、それはその…」


「デート!! ですよねぇ?」


なんで菜摘さんはこんなにデートにこだわるんだろう?


「…はい」


すると菜摘さんはぱぁっと明るい笑顔になった。


「わたしの初デートの相手は、翔君だぁ!」


「え!?」


何故か俺は、その時背筋に冷たい冷気を感じていた。



今度は俺が先導して二人で片倉家に戻ってくると、全員揃って食堂に集まっていた。


「ちょっと2人ともそこに座りなさい」


葉子さんが何故か命令口調で、俺と菜摘さんを並んで座らせると、

葉子さん、蘭ちゃん、あきらさんの順に、俺たちの前に座っていった。

京子さんは菜摘さんの横に座り、完全な包囲網が出来上がった。


「な、なんですか、葉子さん?」


薄々何を言われるか感ずいた俺は、声が上擦ってしまった。


「あんたたち2人で何処行ってきたのよ?」


「何処って、菜摘さんに本屋に連れて行ってもらっただけだけど?」


「ふーん、菜摘さんにねー、方向音痴の菜摘さんにねー」


なにコレ? すごい寒いけど、部屋の温度下がった?


「そ、そうだけど…?」


吐く息も白くなっているかのような錯覚が起きてますよ。


「それはどうでもいいけど」


どうでもいいんかい! もちろん声には出しません!


「本屋さんに行っただけにしては遅かったじゃない?」


「4階まであったし、いろいろ見て回っていたから」


葉子さんはジト目で俺と菜摘さんを睨むと、何やら手帳のようなものを取り出して

ペラペラとページを捲っていった。


ふと横目で菜摘さんを見ると、青ざめた顔でガタガタ寒そうに震えている。


葉子さんはページを捲っていた手を止めると、おもむろに切り出した。


「諜報部員の話によると、2人中睦まじく手を繋いで駅前通りを歩いていたと、

報告が来てるけど、これはどういうこと?」


諜報部員って何? しかも今さっきの情報がもう届いているの?

恐ろしい…葉子さんを敵に回したら命さえ危ぶまれそうだ。


「そ、そ、それは菜摘さんが、はぐれたらいけないと言うんで…」


「…っ!」


急に自分の名前が出た菜摘さんは、涙目で縋るように俺を見てきた。


「あらあら、翔君は手が早いのね?」


「なっ! ち、違いますよ!」


京子さんが妖艶に笑ってるのが何故か怖い。


「それで、どっちが先に手を繋いだのよ?」


葉子さんは鋭い目で、さらなる追求をしてきた。


「な、菜摘さんです…」


「…っ!」


菜摘さんが本当に縋りついて来て、涙目で首をフルフルと横に振る。


菜摘さんゴメン、でも俺にはこの空気耐え切れないから…

いくらなんでも菜摘さんには酷いことはしないと思うし…

と目で合図を送るが、分かってくれたかは定かでない。


「菜摘さん? ちょっとこちらへ来ていただけるかしら?」


葉子さんが妙に優しい声で、菜摘さんに声をかけるが、

菜摘さんはガタガタ震えているだけで動けなくなっている。


あきらさんたちは、嫌がる菜摘さんを両脇から掴んで立たせると、どこかに連れ去っていった。


葉子さんも、後を追うようにジト目で俺に一瞥をくれて去っていった。

こわっ! 石にされるかと思ったよ…


その直後、菜摘さんの断末魔のような声が聞こえたのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ