第4話:学級委員
今日は高校2年生になって、初めての登校日。
俺たちが通う川上高校には、片倉家の最寄駅から駅を3つ分移動したところにある。
さらに学校の最寄駅から10分ほど電車に揺られると、この街1番の繁華街へと行くことが出来る。
片倉家は、最寄駅まで歩いて5分という好条件だった。
そして今、葉子さん、あきらさん、菜摘さんと一緒に、片倉家から最寄駅までの道を歩いている。
「ちょっと、あんた私のカバン持ちなさいよ」
「何でですか!」
「私の奴隷でしょ?」
「だから奴隷じゃねー!」
っていうか微妙に格下げされているよね?
何故に葉子さんは、俺を下僕とか奴隷にしたがるのかな。
「ちょっと葉子さん?」
「何よ!」
なんで、強気の返事が返ってくるのでしょうか?
「なんで俺が奴隷なんですか?」
「…」
え? 無視?
「葉子は翔のことが気に入ったんだよな」
あきらさんから爆弾発言を頂きました。
「なっ! そんなんじゃないわよ!」
「照れなさんな、私にはお見通しだから」
「ち、ちがうわよ!」
葉子さんは早歩きでスタスタと先に行ってしまった。
「え? あきらさん大丈夫なんですか? あんなこと言って」
「ん? 大丈夫だ。3歩歩けば忘れてるだろうから」
それニワトリだからね、人間は3歩じゃ忘れないよ?
…
学校に到着した俺たちは、貼り出されたクラス替えの表を見ていた。
この川上高校は、1年から2年になるときに、1度だけクラス替えがある。
「お! 翔! 私と同じクラスだな」
「あ、本当ですね」
あきらさんがどこか嬉しそうに言うので、俺も嬉しくなった。
「私もよ!」
「あれ、葉子さんいたんですね?」
「いるわよ!」
「あー…葉子も一緒か」
心底嫌そうな顔で言うあきらさん。
「悪かったわね!」
口調は強気だけど、顔は笑っていた。
これは2人のコミュニケーションの一環なんだろう。
「わたし1人だけ違いますよぉ」
「そりゃ菜摘さんは学年が違いますからね!」
「だったら留年すれば同じになれるかなぁ?」
恐ろしいこと言うなこの人は、でも故意にじゃなく、本当に留年するんじゃないだろうか?
「菜摘さんは学年でも成績上位なんだから、そんなことしたら、先生たちが嘆くぞ?」
「え? あきらさん、菜摘さんてそんなに勉強できるんですか?」
「あぁ、常に学年で5位以内にいるって聞いたけどな」
一瞬フリーズして頭が真っ白になった気がした。
「どうした? 翔?」
「菜摘さんゴメンナサイ!」
土下座するような勢いで、菜摘さんに頭を下げる。
「ふぇ? 翔君なんで謝ってるの?」
「いや、菜摘さんて頭の残念な先輩かと思ってました!」
「ふぇ!? 翔君ひどいですよぉ!」
涙目の菜摘さんが、俺の胸をぽかぽかと叩くが、まったく痛くない。っていうか可愛らしい。
「ちょっと、あんたたち何イチャイチャしてんのよ!」
「え? イチャイチャなんて、そんなこ、いだっ!」
「何で拳骨するんですか!?」
タンコブでも出来たんじゃないかってくらいの激痛に、頭をさすりながら抗議する。
「ふん!」
葉子さんはツンとしてそっぽを向いてしまった。
「ふんって…なんなんだ…」
「ヤキモチだな」
あきらさんが葉子さんに聞こえないように囁いた。
「え?」
なんで葉子さんがヤキモチ焼くんだろう?と俺は首を捻る。
「早く教室に行くわよ!」
そう言って、葉子さんは颯爽と歩いていった。
「じゃあ行きますか」
歩き出した俺とあきらさんの後ろに、菜摘さんも着いてきていた。
「菜摘さんは向こうでしょ!」
俺が菜摘さんの背中を少し押して、3年生の教室のほうに向けた。
「ふぇぇ!」
「ふぇぇじゃないですよ! せ・ん・ぱ・い!」
「し、翔君、なんでわたしだけいじめるのぉ?」
えぇ? いじめてるつもりは無いんだけどな…
「それは菜摘さんが…」
「わ、わたしが…?」
菜摘さんのごきゅっと唾を飲む音が聞こえる。
「弄りやすいからです!」
ふぇーんと泣き真似する菜摘さんを置いて教室に向かった。
…
葉子さんとあきらさんと一緒に教室に入る。
「よう! 翔! おはよう!」
「おはよう、ゴミ太郎…」
「健太郎だよ!」
この妙に元気がいいのが、親友の杉崎健太郎。
成績も普通で、容姿も普通の平凡なやつだ。
「平凡で悪かったな! それより! 翔お前、相田さんや如月さんと一緒に住んでるんだって?」
「誰? それ…」
「誰って…一緒に教室入ってきただろうが!」
「あ! 葉子さんとあきらさんか?」
「そうだよ、苗字も知らなかったのかよ…」
「…」
「相田あきらさんと如月葉子さんだよ」
「し、知ってたよ…」
「嘘つけー!」
もう笑うしかないね、苗字を聞いてなかったもんな。
っていうかどんだけ情報通なんだよ!?
「一緒に住んでいるって言うと誤解されるけど、同じ家に住んでいるだけだからな?」
「それだって充分羨ましいぜ!」
「3年の菜摘さんも一緒だけどな」
「菜摘さんって、木下菜摘先輩か?」
「苗字は知らないけどさ、学年で5位以内の成績だって」
「そうだよ木下菜摘先輩だよ! お前! この学校の3大美女を独り占めかよ、このやろ!」
健太郎は俺の頭にヘッドロックすると、拳でゴンゴン頭を叩いてくる。
「痛い痛い! やめろバカがうつるから!」
「バカはうつらないからね!」
「独り占めって大げさなんだよ!」
やっとヘッドロックを外した健太郎の頭にチョップをお見舞いする。
そこへガラっと戸が開いて、先生が教室にやってきた。
「はーい、適当な席に座ってください」
適当でいいのかよ! 普通出席番号順とかじゃない?
窓際の1番後ろの席に俺が座り、俺の前にあきらさん、俺の右隣に葉子さん、葉子さんの前に健太郎が座った。
何この包囲網…
みんなあらかた揃ったところで、先生が自己紹介をした。
「えー1年の時、担当だった子もいると思いますが、園田一子と言います。
29歳独身です! スリーサイズは秘密よ」
秘密よってウィンクしてるけどさ、スリーサイズとか…興味ないわ!
「はい、大谷翔君、減点1ね」
「なんでだよ! ていうか何でもう名前知ってんだよ!」
「なんでって、生徒の名前を覚えるのは教師として当然のことよ?」
「うぐ…」
正論だけに言い返す言葉が見つかりません。
「では、みなさん、これから2年間よろしくね」
俺たちは始業式のために、体育館に移動した。
…
体育館での始業式も終わり、再び教室に戻って来た。
「大谷君、大谷君、また同じクラスだね」
尻尾を振って走り寄って来た1匹の犬。
もとい、スカートを翻し走ってきた女生徒。
「おう、岡田さんも一緒だったか」
「うん!」
嬉しそうに元気よく頷いているこの女子は、岡田翔子さん。
1年の時もクラスメイトで、身長がちっちゃくて、胸も無く、一見小学生のようだ。
そんな岡田さんの頭を撫で撫でする。
「ちょっと、子供じゃないんだから、やめてよー!」
真っ赤になりながら、それでも顔は笑っていた。
岡田さんが自分の席に戻っていくと、葉子さんのほうから視線を感じて、
そちらに向くと、ものすごい顔で睨んでいた。
こえぇ! それじゃ美人も台無しだよ?
っていうかなんで睨まれてるの…?
そこへ担任の園田先生が教室に入ってきて、メデゥーサの目から逃れることが出来た。
「えー、まず、学級委員を決めましょう。男子は大谷君で良いと思う人」
「ちょ…」
「はい、決定!」
俺以外満場一致だよ…。
なんで立候補でも推薦でもなく担任の独断で決まるのよ?
俺は机に突っ伏すしかなかった。
「次に女子でやりたい人いますか?」
すると驚いたことに3人の女子が手を挙げた。
それはあきらさんと葉子さんと岡田さんだった。
「じゃあ多数決で決めましょう」
…
多数決の結果、断トツであきらさんが当選した。
「なんで、あきらなのよ!」
「人望の違いだろうな」
確かにあきらさんは、任せておけば安心できる感じだよな。
俺がうんうんと頷いていると、葉子さんにもの鋭い視線で睨まれました。
岡田さんは机に突っ伏したまま動かないけど、寝てる?
「じゃ、後は学級委員に任せるから!」
サッと手を挙げて園田先生は颯爽と教室を出て行った。
「「…」」
俺とあきらさんは呆気に取られて、お互いに視線を合わせた。
「見つめ合ってんじゃないわよ!」
いや、別に見つめ合ってる訳じゃ無いけどね?