第3話:初めての就寝
第1話と2話のサブタイトルを変更しました。
(第?話:xxxx←コレ)
内容に変更はありません。
午後も7時になり、お腹もグーグー鳴り出した頃、
あきらさんがいきなりドアを開けて顔を出してきた。
「…っ! あの…あきらさんノックぐらいしてくださいよ!」
「何故だ? 急に開けられて困ることでもしていたのか?」
なにやら意味深な表情で口角を少しだけ上げている。
「そ、そんなことはしてないですけど…」
「じゃあ別に構わないだろ?」
まったく表情を変えずに何を言ってるんだろうか? この人は…
「構わな…くは無いですよ! 出来ればノックしてください!」
「できるだけ善処しよう」
なんか返事が軽いんだよな、本当に善処する気あるのかな?
「それより何か用ですか?」
「ああ、そうだった夕食の時間なので呼びに来た」
「あ、それはわざわざすみません」
「なんか他人行儀だな、その敬語はどうにかならんのか?」
「それは…そのうち無くなると思います」
「そうか? それならいいが、それより行こうか?」
そう言うと、おもむろに俺の手を取って立たせると、そのまま手を繋いで歩き出した。
「あの…手を離してもらえませんか?」
「いいじゃないか、別に減るもんじゃなし」
何コレ? 普通立場逆じゃない?
確かに減りはしないけどさ、同世代の女の子と手を繋いだことがないから、
すごい恥ずかしいんですが…
「は、恥ずかしいです…」
「なんだ! 手を繋いだこともないのか?」
そう言っているわりには、あきらさんも顔真っ赤じゃないか!
でも口に出しては言えません…
「私も初めてだ」
「初めてなのかよ!」
この人は、本当に訳が分からない、1番しっかりしてそうなのに…
俺が連れられて来たのは、最初に皆と挨拶した、あの食堂のような部屋だった。
2つあるテーブルは横にくっつけて並べてあった。
1番端には、京子さんが座り、その隣に蘭ちゃんが座っていて、
向かい側、京子さんの前に菜摘さんが座り、蘭ちゃんの前に葉子さんが座っていた。
「あ! お兄ちゃんココ座って!」
蘭ちゃんが満面の笑顔で、自分の隣の椅子を軽く叩くと、
あきらさんは俺の手を離して、葉子さんの隣に座った。
「ああ、蘭ちゃんありがとう」
蘭ちゃんは顔を真っ赤にして、えへへって感じで笑った。
「ちょっとあきら! あんた今、私の下僕と手を繋いでなかった?」
「繋いでたけど、それがどうした?」
えぇ! と騒ぎ出す一同。
「もしかして、私の下僕のことが好きなの?」
「いや、よく分からない、しかし嫌いではないな」
「そう…」
何故か弱気になる葉子さんが気になったけど、やっぱり突っ込まずには居られない。
「葉子さん、俺葉子さんの下僕じゃないから!」
「ふん」
葉子さんはツンとそっぽを向いてしまった。
そのタイミングを見計らい、京子さんが場を改める。
「では、みなさん、いただきましょう、いただきます!」
「「いただきます!」」
料理は全て京子さんが作ってくれているらしい。
っていうか、手伝えよ女子達!
なんて言ったら命の灯が消えるので、言わないけどさ。
まぁ俺も手伝って無いから人のこと言えないか。
…
夕食も楽しく終えて、今はみんなで談笑中。
菜摘さんが蘭ちゃんとは逆サイドの俺の隣に座っている。
っていつの間に!? まったく気配を感じなかったけど?
「ちょっと菜摘さん、いつの間に、私の下僕の隣に移動したのよ!」
「だ、だって翔君が遠かったから…」
頬を赤らめて俯いた状態で、チラチラ俺を見ているのが可愛らしい。
「遠かったって程離れてないでしょ?」
「だってもっと近くで翔君の顔見たかったんだもん!」
だもんって…京子さんを抜かすと最年長なんだから…
「菜摘さんもなの…」
なにやら葉子さんが呟いたようだったが、俺の耳には届かなかった。
そんなことを話している時、蘭ちゃんが爆弾を投下した。
「おにいちゃん、一緒にお風呂入ろう!」
「「なっ!」」
蘭ちゃんと京子さん以外、全員ハモったよ、美しい!
って違う、違う、美しい言ってる場合じゃなかった!
「だめだから!」
「えー! いいじゃん、入ろうよー」
「蘭ちゃんやめなさい、翔君も今日は疲れているからね」
京子さんが助け舟を出してくれた。
「はぁい」
素直に返事をする蘭ちゃんは可愛いね。
「じゃあ、明日ね!」
そうでもなかった!
「ということで、私と入りましょう」
娘に続いて、京子さんも爆弾投下しやがった。
「「それは、もっとだめだから!」」
「あらぁ、いろいろしてあげたかったのにぃ」
一瞬頭にピンク色の映像が浮かびそうになったが、慌てて振り払った。
…
そんなこんなでやっと風呂に入れたが、俺に平穏は2度と訪れないのではないだろうか?
途中蘭ちゃんが裸で乱入してきたが、すぐに葉子さんたちに捕獲されて連行されていった。
風呂を出ると、何かと疲れたので、ベッドに入ってうとうとしていると、
静かにドアが開く音がして目を開ける。
「ん? 誰?」
またあきらさんかと思ったけど、そこに居たのは、パジャマ姿で枕を持った、蘭ちゃんだった。
「おにいちゃん一緒に寝よう…」
「え? だ、ダメだよ」
「どうして?」
「どうしてって…」
「ダメ…?」
涙目でそう言われると、こっちも断れなくなるんだけど…
まぁ、10歳だし、そんなに気にすることもないかな。
「い、いいよ」
するとぱぁっと嬉しそうな笑顔になり、俺の枕の横に自分の枕を置いて布団に入ってきた。
え? さっきの涙目はどこに?
「おにいちゃんのお父さんってどんな人?」
「どんなって、普通の農家の親父だよ」
「優しい?」
「どうかな? 俺には厳しいけどね」
「そんなんだ」
この娘も父親が居なくて寂しかったのかな。
京子さんの話だと随分前に別れたってことだから。
そんなことを考えていたら、蘭ちゃんはスゥスゥと寝息を立てて寝ていた。
「早!」
俺も蘭ちゃんの寝息を子守唄に眠りについた。
…
翌朝、葉子さんの怒鳴り声で目が覚めた。
「ちょっとあんたなにしてんのよ!」
「なにって寝てたんだよ」
ベッドで上半身だけ起こした俺が抗議の目を向ける。
「違うわよ! 何で蘭ちゃんがここに居るのよ!」
まだベッドの中で眠っている蘭ちゃんを指差す。
ってこの葉子さんの声で起きないなんて…。
「一緒に寝てあげただけだよ」
「寝てあげたって…な、何も無かったんでしょうね?」
「は? 何があるっていうんだよ」
俺の頭はいまいち目覚めて居ないので、葉子さんが何を必死になっているのか分かってない。
「そ、それはあれよ…その…」
顔を赤く染めて、なにやらブツブツ言っている。
「それより何か用ですか?」
「用ってほどでもないわよ!」
なんで怒ってらっしゃるんですかね?
「ふん」と言って、勢いよくドアを閉めて行ってしまった。
ドアの閉まる音に、ビクッと身体を震わせて、蘭ちゃんが目を覚ました。
「て、敵襲?」
敵って誰よ? ある意味当たってるけどな!
「驚かせちゃって、ごめんな」
「ううん」
蘭ちゃんは「うーん」と伸びをしてベッドを降り、自分の枕を手に持った。
「おにいちゃん、また今度一緒に寝てもいい?」
「ああ、いいよ」
蘭ちゃんは満面の笑みで飛び跳ねるように部屋を出て行った。
この家は一軒家だが、3人まで使える洗面所がある。
俺は顔を洗うため、洗面用具を持って洗面所に向かう。
洗面所には、菜摘さんが歯を磨いていたが、パジャマで左肩が露出し、右足は膝までズボンが上がっていて、
髪の毛はあちこちにハネ上がっていた。
なにこの絵に描いたようなお寝坊さんみたいな格好は…
「おはようございまーす」
「おばぼう…」
おそらくおはようと言ったのだろうが、歯ブラシを咥えたままなので、よく聞き取れなかった。
しかも前方を向いたまま動いてないし。
自分も歯を磨きつつ、しばらく菜摘さんを観察しているが、時折思い出したように、手が動いているところを見ると、
これ絶対寝ぼけてるよね? っていうか寝てるよね?
顔を洗い終えた俺は菜摘さんで遊んでみる。
「菜摘さーん」
耳元で優しく呼びかけてみるが反応なし。
「おい! 菜摘!」
少し語調を強くして言ってみるが反応が無いので、怒鳴ってみる。
「菜摘!」
「びや!」
悲鳴だか何だか分からない叫び声を上げて尻餅をついてから、
まわりをキョロキョロしていた菜摘さんは俺を認識する。
「しょ、翔君ひどいですよぉ!」
立ち上がってプリプリと怒ってらっしゃいますが、口の周りに歯磨き粉が付いてますよ?
「あー…えーと…ごめんなさい」
笑いを噛み殺して、とにかく謝っておこう。
「それよりも、菜摘さん、前ボタン…」
菜摘さんはパジャマの上着のボタンが上から3つ外れていて、ピンクのブラと谷間が見え隠れしていた。
「え?」
と言って、自分を見下ろしてから俺を見る、そしてまた自分を見下ろして、俺を見たところで固まる。
「キ、キャアァアアアアア!」
それから俺は、駆けつけた葉子さんとあきらさんに、事情を説明するが、なぜか怒られました。




