第17話:夜の散歩
今回はちょっぴりシリアスです。
夕食の後、菜摘さんに散歩に誘われて夜の街を散歩中。
「翔君…もうすぐお別れだね」
「大げさですね、卒業しても会えることは会えるでしょ?」
「うん…」
菜摘さんは、いつもの元気がない。
「菜摘さんが大学生かー、あんま想像できないですね」
「うん…」
うーん、おどけて言ってみたけど対して効果なかったか。
「翔君…あの…あのね」
「はい?」
「こないだの裁判みたいので、翔君が言ったことってやっぱり本心なの?」
裁判みたいってか、完全に裁判だったよね?
「あんま思い出したくないですけどね、アレは」
「あ、ご、ごめんなさい」
「いえ、でもあれは本心ですよ」
「そうなんだ…」
「はい…」
えーと…今日は沈黙がとても辛いのはなんでだろう?
菜摘さんはさっきから何か考え込んでいるような、悩んでいるような感じで、
時々俺の顔を見てはため息をついている。
あの…人の顔見て、ため息つかないで欲しいです、マジで。
「し、翔君!」
「ひゃい!」
はいを、噛んじゃったよ、だって菜摘さんが俺の腕をつかんでいるんだけど、
2つの柔らかい感触も一緒に付いてきたから。
そんでもって下から切ない顔で見上げられたら、破壊力ハンパないっス。
「わた、わたしは翔君が…」
「はい?」
「んと…その」
「菜摘さんどうしました?」
菜摘さんはモジモジとして、何かを伝えようとしているように見える。
「わ、わたしは、し、翔君が好き!」
「ありがとうございます、俺も菜摘さん好きですよ」
「えっ!?」
「葉子さんもあきらさんもみんな好きです」
「なんだ…」
なんだって何だ…?
「もう! 翔君はどうしてそんなに鈍感なのぉ!」
「え…?」
菜摘さんは何を怒ってらっしゃるのでしょうか?
「翔君のことを異性として好きなのぉ!」
「異性として…って」
「えっ!? それって…えっ!?」
「そんなに動揺することないと思う…」
そんなの全然気づかなかったよ。 やっぱ俺って鈍感なのか…。
「でも、俺は…」
「何も言わないで…分かっているから、ただ気持ちを伝えたかっただけなの」
「うん…」
既に泣いている菜摘さんの顔をまともに見ることが出来ない。
「でも菜摘さんなんで俺なんか、何もとりえとかもないですけど?」
「翔君は最初から今まで優しかったから…」
「え?」
「わたしってしゃべるのも歩くのも、何をするのもトロいでしょ?」
「…う、うん」
「だからわたしの話しをちゃんと聞いてくれる人ってあんまり居なかったの」
「うん…」
「もちろん葉子ちゃん達は別だよ?」
「うん…」
「男の子とちゃんと話したのも、翔君が初体験で…」
ちょ!? その言い方は誤解されるから! でも話の腰を折るのもなんだし…。
「だから…うぅ」
「菜摘さん…」
「翔君…気持ちが無くてもいいの、ぐすん、い、今だけ抱きしめて!」
「だ、抱きしめ…」
「お願い!」
そんな涙で濡れた顔で見つめられたら、断るわけに行かないよ。
優しく包み込むように小柄な身体を抱きしめてあげると、
子犬のように震えて泣いている菜摘さんが居た。
そこで困った事が発生! 俺の体の一部に変化が!?
こういう時は、何か違うことを考えればいいんだよな。
えーと…そうだ! 葉子さんの怒った顔を思い浮かべればいいんだ!
うん、いい感じで般若…もとい葉子さんの憤怒した顔を思い浮かべることに成功!
しかし、間近に感じる菜摘さんの香りと感触がそれを上回って効果が持続しません…。
しばらくして菜摘さんは俺から身体を離した。
「ごめんね…ありがとう」
泣き笑いの表情で言われると、こちらもツラくなってくる。
葉子さんの憤怒の顔も効果が無かった彼も、何とかバレずにすみました。
「何か当たってたけど、気付かなかった事にするね」
バレてました! ってかそれ言わなくていいよね?
「翔君、帰ろっか?」
「そうですね」
片倉家に帰ると葉子さんが食堂で待っていて、
いつもと違う優しい声で「おかえり」と菜摘さんに言った。
「ただいま…」
あれ? 当然ここは二人でどこ行ってきたか詰問されると思っていたのでちょっとビックリ。
葉子さんは菜摘さんの肩を抱くと一緒に2階に上がっていった。
おそらく前もって葉子さんにこの散歩の意味を伝えていたらしい。
俺はどうしたらいいか分からずに立ちすくんでいた。
「あらぁ、どうしたのぉ? こんなところで」
「あ、京子さん、実は…」
さっきの散歩のことを京子さんに話す。
「あの…俺どうしたらいいですかね?」
「そうねぇ…」
京子さんは右手の人差し指を唇に付けて、少し考えると
「どうもしなくてもいいと思うわ」と言った。
「え…?」
「いつもどおりの翔君でいいと思う」
「そうですかねぇ」
「同情で付き合ったとしても、長くは続かないだろうし、菜摘ちゃんを傷付けるだけだわ」
「確かにそっちのほうが酷いですね…」
「若いうちは悩むことも大事だけど、もう夜も遅いしお風呂にでも入って早く寝なさい」
「そうします」
「何なら一緒に入ってあげるわよ?」
って言いながら脱ごうとしなくていいです!
「い、いえ、結構です!」
逃げるように食堂を後にした。