第16話:翔の気持ち裁判
「なぁ翔?」
「なんだゲンゴロウ」
「健太郎だよ! 人だよ!」
「で、なんだよ」
「如月(葉子)さん達の中に好きな娘居るのか?」
「なんだよ、唐突に、っていうか声でけーよ」
慌てて葉子さんの方を見ると友達と談笑中なので、聞かれてはいないだろう。
「いや、あれだけモテモテなのに、決まった彼女とか作らないからさ」
「モテてねーよ、単純に弄られてるだけだよ」
「そうか? 俺にはモテてるようにしか見えないけどな」
「気のせいだって」
「で、どうなんだよ?」
「うーん、みんな魅力的だとは思うけど、彼女ってなるとなんか違うなぁ」
「そんなもんか?」
「そんなもんだ、たぶん」
「たぶんかよ!」
確かに葉子さんたちは容姿端麗だし彼女にするには申し分ないとは思うけど、
何かが違うと感じてるんだ。
夕食を終えて部屋で寛いでいると、蘭ちゃんがドアを開けてひょこっと顔を出した。
「ん? どうしたの?」
「あのね、葉子さんたちが呼んでるよ?」
「へ? なんで?」
「分かんない」
「何だろ…」
「行こ、お兄ちゃん」
蘭ちゃんがすっと手を差し出してきたので、手を乗せてみる。
「お兄ちゃん、お手…て違うよ!」
「冗談だよ」
「もう! 早く!」
「そんなに引っ張らなくても行くからさ」
蘭ちゃんと手を繋いで食堂に行くと、何故か机がコの字に並べられていて、
机の無いところに葉子さんが立ち、コの字に並べられ机にあきらさん、菜摘さん、
京子さん、岡田さん、園田先生が座っている。
なんか多くない?
「って岡田さんと先生は何してんですか!?」
「何って葉子ちゃんに呼ばれたんだけど?」
岡田さんは、何か問題でも?というように、無い胸を反らしている。
「私は面白そうだから来てみただけ」
「そんな理由で来たんですか、先生…」
「そうよ」
そうよってしれっと言われても困るんだけどさ。
「被告人前へ」
何故か寒気がするほど冷たい葉子さんの声。
「へ? 被告人って誰?」
キョロキョロしていると
「翔君よ!」
「ああ、そうか…って俺!?」
「って言うか前ってどこ?」
「そこよ!」
と指差したのはコの字に並べられた机の真ん中で、ちょうどみんなが俺を
囲んでいるような感じになった。
「葉子さん、あの…いったい何が始まるんですか?」
「被告人、私語は慎みなさい」
「あきらさんまでどうしたんですか?」
「…」
え? なんで無視!?
「それでは、翔君の『彼女ってなるとなんか違うなぁ』発言に対する裁判を始めます!」
あれか!? っていうか聞いてたのか!?
あの時、葉子さんは友達と談笑してたはずなのにどうして!?
「証言者、前へ」
おずおずと食堂に入って来たのは、健太郎だった!
「よう! 翔」
「お前か!」
「なんか色々聞かれたんで、全部話しちゃった」
テヘって顔してるけど、全然かわいくねーんだよ! まったく!
「えーと…うじ虫くん?」
名前を忘れてるはいいとしても、うじ虫って酷いよね?
健太郎は両手で顔押さえて泣いてるしさ、まぁ、どうでもいいんだけど。
「『彼女ってなるとなんか違うなぁ』と、発言したのは、本当なの?」
すると健太郎は、パッと顔を上げて「本当です!」と力強く言った。
泣いてないのかよ! あ、もしかして罵られて喜んでたのか? 変態め!
「え? 翔君どういうこと?」
菜摘さんが少し涙目になりながら問いかけてきた。
「いや、アレはその…」
「あの約束は嘘だった?」
「っていうかなにも約束なんかしてないでしょ?」
すると菜摘さんはぷぅっと頬を膨らませてしまった。
「お兄ちゃん…」
蘭ちゃんも涙目、っていうか泣いてる?
「た、確かに言いましたけど、でも今のところはそうだというだけですよ…」
「保証できるの?」
葉子さんは半眼で睨みながら聞いてくる。
「ほ、保証は…できません…」
「死刑!」
「なんで!?」