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片倉荘  作者: Satch
16/22

第15話:秋の夜長

季節は夏を過ぎ秋の到来を告げていた。


「あ、あの…京子さん」


夕食後の団欒のときに菜摘さんがモジモジと京子さんに話しかけた。


「ん? なぁに菜摘ちゃん、私に愛の告白?」


「ち、違います! あの…来年の話なんですけど…」


「来年? 来年なにかあったかしら?」


右手の人差し指を唇に当てて考え込む京子さんだが、なんでこの人はいちいち色っぽいかな。


「あ、あの、卒業してからのことなんですが…」


「あら、もうそんなに経つのね」


「最初の契約では、卒業までって約束でしたが、卒業してからも住まわせて貰えないですか?」


「それがね、来年の新入生の子が1人入居することになってるのよ…」


「え!? そそそそうなんですか…」


動揺しすぎだからと突っ込むところだけど、これはしょうがないか…。


「次の人が決まっていなかったら、そのまま住んで貰っても構わないんだけどね…」


「……」


「じゃあ、翔君の部屋に住む?」


気まずい沈黙を破って京子さんがおかしなことを言い出した。


「え!? お、俺が出て行くってことっすか?」


「ううん、翔君と菜摘ちゃんで同じ部屋に住むってことよ」


「「却下!!」」


葉子さん、あきらさん、蘭ちゃんが一斉に異議を唱えた。っていうか息合わせすぎだから!


「やっぱりそうなるわよね、惜しかったわね翔君」


「何がですか?」


「一緒に住めば毎日あんなことやこんなことできたのにね」


「えーと…」


ツッコミどころが多すぎてどこからツッコめばいいんだ…?


菜摘さんを気遣ってワザとそんな冗談を言ったのかも知れないけど、この状況とタイミングで良く言えたな。

フラフラと菜摘さんは食堂を出て行ったけど、大丈夫かな? 後で様子を見に行ってみよう。


「それで新入生ってどんな人ですか?」


「かわいい女の子よ」


と言って意味深に微笑みかけるのはやめてください、鋭い視線が突き刺さるんで…。


「知り合いの方ですか?」


「正確には知り合いの娘さんね、何年か前に1度会ったことがあるけど清楚な感じの娘だったわよ」


「清楚…へ、へぇ」


「お、清楚に食いついたか翔」


「ちょ!? 違いますよあきらさん!」


「違いますよって、顔がニヤけてんだけど?」


「うぐっ…」


「ライバル出現ね!」


「え? 葉子さん何か言いました?」


「な、なんでもないわよ!」





コンコン


「菜摘さーん」


コンコン


「なつ…うわっ!」


音もなくドアが開いたので、めちゃめちゃびっくりした。


「じょうぐんのうぞづぎ…ぐすっ…」


「え!?」


泣き濡れて髪の毛がぼさぼさの、菜摘さんのうらめしげな顔がそこにあった。

っていうかじょうぐんって誰ですか? とか言える雰囲気ではないね。


「いや、まさか次の入居者が決まっているとは知らなくて…その」


ジトっと半眼で睨むのはやめてください!


「ご、ごめんなさい」


次の瞬間菜摘さんが倒れ掛かるように俺に抱きついてきた!


「ちょ!? なつ、菜摘さん!?」


「か、かん、関係を持ってしまえば…」


菜摘さんは何やらブツブツ言いながら、俺を部屋に連れ込もうとする。


「菜摘さん!? おち、落ち着いて!」


その時、救世主の声が、もとい蘭ちゃんの声がした。


「お兄ちゃーん、何してるの?」


「あ、蘭ちゃんちょっと助け…」


「ずるい! わたしも遊ぶ!」


というやいなや、俺の背中にしがみついてきた


「いや…あのね…遊んでるわけじゃないんだけど」


「うわ!」「キャー!」


2人に挟まれてバランスを崩し、蘭ちゃんもろとも菜摘さんの部屋になだれ込んだ。


何がどうなってそうなったのか分からないけど、蘭ちゃんにキスしている俺がいた。


「んぐっ!」


すぐに唇を離したけど、蘭ちゃんはうっとりとした顔をしている。


「今日のお兄ちゃんは積極的…」


今日のってところが引っかかるが、恐る恐る菜摘さんを見ると、赤い顔して目を吊り上げていた。


「翔君やっぱりロリコ…」


「違うから!? 今のは完全に事故だから! ね! 蘭ちゃん?」


「私の初めてをお兄ちゃんに奪われちゃった…」


聞いてないし…っていうかその言い回しはいろいろ誤解を受けるから止めてくれ…。


「なんですってー!?」


ほらね?


「って葉子さん!?」


「翔君やっぱりロリコンだったんだ」


「やっぱりってなんですか!?」


なぜロリコンだと思われているのかいまいち理解できないんだけど。


「翔がそっち系の人だったとはな、今後少し考えねばな」


「だから違うんですってあきらさん!」


「そんな事より、蘭ちゃんの初めてを奪ったってどういうことよ?」


そんな事って…結構大事なことのような気がするんだけどね。


「お兄ちゃんにキスされちゃったー、えへへー」


「な!? んですってー!?」


「じじじじじじじじじ事故だから事故」


「翔、動揺し過ぎ…」


「お兄ちゃん、この責任は取ってくれるんだよね?」


「責任!?」


潤んだ目でそんなこと言われても困るんだけどさ。


「そうね蘭を傷ものにしたんだからしょうがないわね」


「傷ものってそんな大げさな…っていうか京子さんいつの間に来たんですか!?」


「さっきから居るけど?」


だめだ、動揺しすぎてて全然気づかなかった。


「蘭が16歳になったら結婚式を挙げましょうねー」


「やったぁー!」


ぴょんぴょん元気に飛び跳ねる蘭ちゃん、スカートが捲れてパンツ見えそう…って違う違う!


「結婚式!? そんな…」


「っていうのは冗談だけどね」


「……」


「翔、ツッコミ忘れてる」


忘れてるんじゃなくて呆れてるんだけど…。


「つまんない!」


ぷぅっと頬を膨らまして、いじける蘭ちゃん。


「せっかくドサクサに紛れてキスしたのにな…」


事故じゃなく蘭ちゃんが故意にキスしたんじゃん!


「じゃあ翔君、ちょっと向こうでお話しましょうね?」


「えぇ!? だから違いますって、蘭ちゃんが…」


「言い訳は後で聞くわよ! 早く来なさい!」


後では遅いんだけど…。


「京子さん! た、助けて!」


「あらあら、大変ね」


くそぅ、完全に楽しんでるな。


そして…




「ぎゃぁぁぁぁあああああ!」


秋の夜空に翔の叫び声だけが響き渡った。


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