第14話:いつもの俺たち
「はい、お兄ちゃん! あーん」
「あ、あーん…」
おもむろに開けた口にヤキソバを押し込まれる。
「むぐぅ!」
ちょ…これいっぱい入れすぎだから!
って言うか喉に詰まった!
涙目で蘭ちゃんを見ると、心配そうな顔で覗き込んでいた。
「お兄ちゃん! 誰に泣かされたの!?」
いや、あのね…そんなことより
「むぐぅ! むぐぅ!(水! 水!)」
「え? 蘭…好き?」
赤くなってるけど、そんなこと言ってないから!
ダメだ、そばにいる菜摘さんに助けを求める。
「むぐぅ! むぐぅ!(水! 水!)」
「え? なぁに翔君?」
「むぐぅ! むぐぅ!(水! 水!)」
「え? 菜摘…好き?」
なんでやねん! 言葉は出せないけど手の甲で菜摘さんの胸にツッコミを入れる。
「ひゃう!」
ひゃう? 菜摘さんもツッコミ入れたくらいでそんな声出さなくても。
「ほら!」
目の前にペットボトルの水が出てきたので、すぐに引っ手繰るように受け取りガブガブと水を飲む。
「ぷはぁ! 死ぬかと思った!」
振り返るとあきらさんが照れくさそうな顔で立っていた。
「あきらさんありがとう! 助かったよ!」
「あぁ、無事で何よりだ」
「そ、それより、翔…後ろ」
「ん? 後ろに何か?」
そういいつつ何気なく振り返ると、般若のお面があった…
じゃない葉子さんの憤怒の顔があった!
「なななんですか、葉子さん!」
「動揺しすぎだから」
園田先生、そこで冷静なツッコミは止めてください!
「さっき菜摘さんの胸、触ったよね!?」
「え! 触ってないですよ! 何言ってるんですか!」
あれ? 何かが脳裏を掠めたような…
ひゃう!
「あぁ!」
「もう翔君ったらそんなに触りたいなら、誰も居ないところで…」
「違うから!」
「じゃあ翔君、スクール水着好き疑惑もあるし、ちょっと向こうでお話しましょうね〜」
耳を引っ張られて、連れて行かれる。
「翔! まぁがんばれ…」
何をだよ健太郎!
そして…
「ぎゃぁぁぁぁあああああ!」
「翔…これでも飲め」
そう言って健太郎が缶ジュースを差し出す。
「なぁ翔」
「なんだよ」
「お前はもうちょっと考えて行動したほうがいいぞ」
いつになく健太郎が真面目なことを言う…
「きもっ!」
「なんでだよ! そうじゃなくて胸触るにももうちょっと分からないようにだな…」
「違うっつーの!」
「そんで感触はどうだった?」
「それはもう…って何言わせようとしてんだよ!」
「いいよなーお前は常に美女&美少女がそばにいてよー」
遠い目をして話す健太郎は、涙ぐんでいる。
そんなにか?
「くそ! 泳いでくる、うぉおおおお!」
健太郎は急に立ち上がると海に猛ダッシュしていった。元気なやつだ。
「翔君…」
後ろから声がしたので振り返ってみると、大きな胸が…じゃない菜摘さんが立っていた。
「菜摘さんどうしたんですか?」
「隣、座っていもいい?」
「いいですよ」
すると菜摘さんは、俺にぴったりくっつくように座った。
「な、菜摘さん近いですよ」
「わたしがそばにいるのは嫌?」
「そ、そんなわけないじゃないですか」
「それなら良かった」
心底安心したような表情をする菜摘さんはかわいらしい。
「それより何かありました?」
「ううん、翔君と過ごせる夏休みもこれが最後だなって思って…」
そうだった、菜摘さんは1学年上だから、今度の春が来たら卒業して行ってしまう。
「菜摘さんは大学行くんですか?」
「一応そのつもり」
「なら片倉家に居ますよね? また遊びにこれますよ」
「翔君は知らないんだ」
「何をですか?」
菜摘さんは寂しそうな表情して海を見つめながら話す。
「高校卒業したら、片倉家を出て行かないといけないの」
「えっ!? 何故ですか?」
「始めからそういう契約だったのよ」
「そうなんですか…でも、京子さんに言えば何とかなるんじゃないですか?」
「そうかなぁ?」
「そうですよ」
すると菜摘さんは、ぱぁっと明るい顔になった。
「そうだね! わたし少し元気が出てきたかも」
「はい、元気なほうが菜摘さんらしいです」
「皆のところ戻るけど、翔君はどうするの?」
「そうですね、戻りましょうか」
「うん」
それから俺たちは、夕日が辺りをオレンジ色に染めるまで遊んだ。