番外編1:菜摘の休日
番外編を書いてみました。
時系列で言うと翔とあきらのデートの日になります。
「ふぁ〜あ」
目をゴシゴシ擦りながら、時計に目をやると10時を少し過ぎたところだった。
「今日は何をしようかな…翔君はあきらちゃんとデートだし」
とりあえず顔を洗いに洗面所に行くと、蘭ちゃんが腕組みをして怒った顔で立っている。
「あ、蘭ちゃん、おはよう」
「菜摘ちゃん…」
蘭ちゃんはどこかにお出かけみたいで、外出の身支度を整えていた。
「蘭ちゃん、どこかにお出かけ?」
「はぁ…」
何故呆れたようにため息をつくんだろう?
「ん?」
「菜摘ちゃんとお買い物に行く約束…」
「そうなんだ、いってらっしゃ…ふぇ!? そうだっけ!?」
「忘れてたんだ…」
「わ、わ、忘れてないよ? 覚えてなかっただけで…」
「……もっと悪いから! とにかく待ってるから早く用意して」
「…は、はーい」
そうだった、隣町に新しくオープンしたデパートに行く約束だった。
急いで顔を洗って、自分の部屋に駆け込む。
途中、何もないとこでコケたけど、そんなの気にしている暇は無い。
なんとか20分で支度を済ませて、玄関にやってきた。
「遅い!」
プクッと頬を膨らませた蘭ちゃんがかわいらしい。じゃなく。
「ご、ごめんね」
「じゃあ、行こう!」
…
「うわー、思ったより大きな建物だね」
ショップやアミューズメント、レストランなどが全て揃っていて、建物も凄く大きい。
それにオープンしたばかりとあってかかなり混雑している。
「蘭ちゃん迷子にならないでね?」
迷子になったらもうめぐり合えないんじゃないかと思うほど広いから。
「その言葉そっくり返すよ」
「うぐっ…」
「いつも私が向かえに行ってるじゃん」
「……」
「菜摘ちゃんも高校生なんだからさ」
「と、とにかく見て回ろうよぉ」
「それもそうだね時間が勿体ないね」
2人ともたくさんお金を持ってる訳じゃないので、所謂ウィンドウショッピングが主体となる。
「なんかここ可愛い雑貨がありそう」
洋服や、アクセサリーショップを見たりしているとき、ちょうど目に入った雑貨屋だった。
「コックアドードルドーなんて珍しいお店の名前だね、どういう意味なんだろ?」
蘭ちゃんは店内をグルッと見回して、問いかけてきた。
「あ、それはね、ニワトリさんの鳴き声だよぉ」
「えー? ニワトリさんは、コケコッコでしょ?」
「うん、日本ではね、でもアメリカではクックドゥードゥルドゥって言うんだよぉ」
「あ…そう読むんだ」
蘭ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「え? それ本当ですか?」
「…は? えっと…どなたですか?」
いつの間にか蘭ちゃんの横に店員っぽい人が立っていた。
「あ、すみません、ここの店長です。それでさっきの話し本当ですか?」
「は、はい、本当ですよぉ?」
「知らなかった…」
「えー!? 知ってて付けたんじゃないんですか?」
「いや、なんか格好よさげな感じだったんで…」
「……」
どうしよう? 翔君が居れば、迷わずツッコムんだろうけど…。
「でもいまさら店名変えられないし…そうだ、ニワトリ関連の商品を仕入れて…」
店長と名乗った人は、なにやらブツブツ言いながら奥に行ってしまった。
もしかしてツッコミが欲しかったのかな…?
結局この店では、小さい猫の置物と、蘭ちゃんとお揃いでレターセットなどを買った。
「菜摘ちゃん、お腹空いたよ、何か食べよう」
雑貨屋を出たところで、蘭ちゃんがお腹を押さえながら、つらそうに言った。
「そうだね何がいいかな」
インフォメーションエリアにあるフロアガイドを手に取り、広げて探す。
「このパスタのお店なんかどお?」
最近パスタを食べていなかったから、パスタって文字を見たらむしょうに食べたくなった。
「どれどれ、おいしいパスタのお店<パスタ>って、店名そのままだね…」
蘭ちゃんも特に決まった希望もないということで、パスタに決まった。
蘭ちゃんはカルボナーラを注文し、わたしはペペロンチーニを注文した。
半分ほど食べたところで蘭ちゃんが不意に聞いてきた。
「菜摘ちゃんっておにいちゃんのこと好きだよね?」
「へ…? おにいちゃんって翔君?」
「うん」
蘭ちゃんは興味津々という感じで、目をキラキラと輝かしてこっちを見ている。
「えっと…好き…かな」
「やっぱりね、私の感だと葉子ちゃんとあきらちゃんも好きだと思う」
うぅ…やっぱりそうよね、私でも分かるくらいだから、周りも気づいているよね。
「ら、蘭ちゃんはどうなの?」
「大好きだよ」
蘭ちゃんは、その純粋さで、はっきり言えるからいいな。
「私たち4人の中から、翔君の相手が決まるのかな?」
蘭ちゃんに聞くのもなんか違うような気がするけどね。
「どうだろ? ライバルは多いと思うよ」
「案外、全然違う人だったりね」
自分が選ばれたいとは思うけど、それはそれで片倉家にいるほかの人とギクシャクしそうだし。
「翔君の好みのタイプってどんな人なんだろ?」
「そういえば聞いたことないね」
「でしょ?」
「今度聞いてみようよ」
「そうだね」
…
パスタを食べたあとは、特に買ったものもなくウィンドウショッピングをして終わった。
それから翔君と唇が触れる事故があったりで、なかなか話す機会がなかったけど、
ある時、暇そうにしていた翔君を捕まえて、蘭ちゃんと翔君の部屋に好みのタイプを聞きにいった。
「翔君の好みのタイプの女子ってどういう人?」
「え? なに改まって?」
「いいじゃん、おにちゃん教えてよぉ」
「好みって別に普通だよ?」
「普通って?」
蘭ちゃんが必要以上に食い下がってる、がんばれ!
「そうだなぁ」
翔君は少し天井のあたりを見ながら考え込んでいる。
「歳は自分より下がいいかな」
わたし撃沈…
蘭ちゃんがガッツポーズして、こっちを見てるのが恨めしい。
「あ、でもあんまり離れすぎててもアレかな?」
蘭ちゃん撃沈…
「あ、でも、好きになった人が好みかな? って誰もいねぇ!」
最後まで聞かずに蘭ちゃんと2人翔君の部屋をあとにした。
翔君が言った好みのタイプで言うと、片倉家には該当者なし。
クラスメイトも外れるから、今のところ該当者なしか。
好みのタイプから外れたけど、まだダメと決まった訳じゃないから、
がんばって翔君を振り向かせてやるぞぉ!
気合を入れて拳を突き上げた時、ふと横を見ると、蘭ちゃんも拳を突き上げていた。
同じこと考えてたみたいだ。