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片倉荘  作者: Satch
10/22

第10話:デート(葉子編)

『ダ、ダメよ翔君…みんな見てるわ』


「葉子さん」


『見せ付けてやろうぜ』


今日の翔君は何でこんなに積極的なの!


『葉子、さぁこっちにおいで』


「葉子さん!」


『あぁ、翔君…』


「葉子さん起きて下さいよ!」


葉子さんの体をガクガク揺すって起こす。


パチっと目が開いたかと思ったら、両腕を俺の首に絡めて顔を近づけて来る。


「翔君…」


葉子さんはウットリとした顔で目を閉じると、更に顔を近づけて来る。


「ちょっと! 葉子さん! 寝ぼけないで下さい!」


グイグイと引っぱられて、唇がくっつきそう!

不意に葉子さんの目が開いて、動きが止まる。


「葉子さん起きてもらえました?」


「……」


何か嫌な予感がするけど、腕が首に絡まってるので、身動きが取れない!


「きゃぁぁぁああああ!」


突然、空気を切り裂く悲鳴が轟いたと思ったら、俺の頬に強烈な痛みが走った。


「いだぁ!」


早すぎて良く見えなかったけど、おそらく平手打ちを食らったのだろう。

ワナワナと体を震わせて、こっちを睨んでるが、何故!?


「翔君なにするのよ!」


「えぇ!? 俺はなにもしてないっすよ!」


誤解されてるけど、どうすればこの誤解を解くことができるんだろう?


「何してるんだ?」


「あきらさん!」


あきらさんが女神に見えるよ! 救いの女神ね。


「翔君が寝ている私にキスしようとしたのよ!」


「ち、違…」


首をフルフルと振ってあきらさんにアピールするが見ちゃいない!


「へぇ! 寝込みを襲うとは翔もなかなかやるな!」


「ち、違いますよ! 出かける時間になっても、葉子さんが部屋から出て来ないので呼びに来たんです」


必死に説明をするが、必死になればなるほど、どつぼに嵌っていく感が否めない。


「でも鍵を開けて部屋に入るのはどうかと思うぞ?」


「そうよ! 鍵はどうしたのよ!」


「え? 鍵は開いてましたけど…?」


「へ…?」


葉子さんはキョトンとした顔をしたかと思うと、しばらく考えこんだ。


「か…わす…た」


「はい?」


すんごいちっさい声で何か言ったけど、聞き取れなかった。


「葉子、どうした?」


「うるさい! 鍵掛けるの忘れたって言ったのよ!」


なんであきらさんがうるさいって怒られたのか分からないけど、1つ誤解は解けたかな?


「はぁ……鍵は分かったが、キスは?」


「それは揺すって起こしたら、葉子さんから迫ってきて…」


「な! わ、私がそんなこ…と…」


目を見開いて反論しようとしたみたいだけど、どんどん声が小さくなっていく。


「もしかして、夢だと思ってたのが…」


「葉子? 何ブツブツ言ってるんだ?」


「な、何でも無いわよ! もういいでしょ!」


「なんだか分からないけど、葉子がいいならいいけどな」


あきらさんもそれ以上の追求は無理と判断したのか、小さく肩を竦めた。


「翔君、着替えるから出てって」


「あ、はい!」


俺はそそくさと葉子さんの部屋を後にした。

何故だか誤解は解けたようなので、一件落着なのかな?





「葉子、いったいどんな夢見てたんだ?」


「ゆ、夢なんて見てないわよ!」


「とか言いながら顔が赤いぞ?」


「う、うるさい、あきらも出てってよ!」


「はい、はい」



「翔君お待たせ、いきましょうか?」


玄関で待っていたら、いつにも増して着飾った葉子さんが目の前にいた。


「はい、でも今日の予定聞いてないですけど?」


「行きたいところがあるの」


葉子さんが行きたいところってどこだろ? 意外と想像がつかない。


「行きたいところってどこですか?」


「それは着いてからのお楽しみということで」


そう言うと、スッと俺のまえに手を差し出してきた。

まさかお手をしろとか…じゃないよね? でもとりあえず手を乗せてみる。


「何してるのよ!」


「え…? いや…、お手かなって」


「はぁ? なんでお手なんてさせる必要があるのよ? あんた犬?」


やばい! 翔君からあんたに格下げされてる…。


「犬じゃないです…」


「分かってるわよ! さっさと、て、手を繋ぎないさいよ!」


やっぱそうだよね、葉子さんの場合、ひと捻りありそうな感じなので、読み辛い。

でも顔赤くして命令されると、こっちも意識しちゃうんですけど。


「は、はい!」


手を繋いだと思ったら、足早に歩き始めたので、引っぱられる形になり、立ち位置が男女逆になっている。

なんか立場が弱い男みたいで嫌だな、っていうか実際に立場は弱いけどね。



「行きたいところって、この映画館ですか?」


「違うわよ、まだ時間が早いから映画を見るのよ」


そこは駅前にある映画館で、今上映しているのは、SF物、アクション物、恋愛物などがあった。


「翔君、どれ観たい?」


どれがいいかな?

SF物のタイトルは「月からの使者、火星人」、月からの使者なら火星人じゃないだろ!

アクション物のタイトルは「ダイ・ランボー」、なんか混ざってるよ!

恋愛物のタイトルは「町の中心で愛を叫んじゃう?」、範囲狭いよ! っていうかそれただのバカップルだから!


「れ、恋愛映画ですかね」


「それって私に気を使って恋愛映画にしてる?」


「使ってないですよ? 今、上映しているのだとそれですね」


「葉子さんはどれが観たいですか?」


しばらく吟味するように映画のポスターを見ていたが、俺と同じ結論に至ったのか溜め息を吐いた。


「はぁ…私も恋愛映画ね」



はっきり言って退屈な映画だったが、なんとか眠らずに乗り切ることができた。

葉子さんはと言えば、最初から最後までのめり込むように見ていた。


カフェで遅めの昼食を食べながら、さっき観た映画の話になった。


「なかなかいい映画だったわね」


「そ、そうですね…」


歯切れの悪い俺の反応にジト目で睨みながら話を続ける。


「まさか途中で主人公が変わるとは思わなかったわよね」


「そ、そうですね、あっと言わせる意味があったんじゃないですかね」


あれ? ジト目で睨んだまま何も言わなくなったけど、なんだろ?


「そんなシーン無かったわよ!」


「えっ!? あ、あははは」


カマをかけられて、ガックリと項垂れた。


「翔君、見てなかったでしょ…?」


「え! いや…その…」


「……」


「あ、は、はい、見てなかったです、ごめんなさい」


もうバレてるから素直に謝っとこう。



昼食の後、ブラブラとウィンドウショッピングなどして、やってきたのがこのこじんまりとした所謂ライブハウスで、

主にインディーズのバンドがライブを行なうところだった。


「葉子さんがこういうのに興味があったって意外ですね」


「そうかしら?」


「はい、クラシックとか聴いていそうな感じですよね」


「そ、そうね、クラシックも嫌いじゃないけど、メタル系のほうが好きね」


少し動揺したところを見ると、クラシックはほとんど聴かないみたいだな。


「ここのライブはメタル系なんですか?」


「日によって違うけど、今日はメタル系のバンドが出演する日ね」


一組目のバンドの演奏が始まるとその音で会話は出来なくなったので、演奏に耳を傾ける。

俺はあまりこういうの聴かないから良く分からないな。


何組かの演奏が終わり最後のバンドが現れると、葉子さんは目を輝かしてキャーキャーと騒いでいた。


あれがお目当てのバンドらしいな、ヴォーカルの顔は髪の毛で良く見えないがイケメンっぽい。

演奏の音で会話は出来ないけど、なんとなくほったらかし感があってなんか嫌だな。




「それでね、最後に歌ったバラードの唄がね、私の1番好きな唄なのよ」


「へぇ」


「みんな格好良いんだけど、ヴォーカルの人が特に格好良いと思わない?」


「そうですね格好良かったですね」


ライブハウスを出てからも、葉子さんはしきりにさっきのバンドの話をしているけど、

曲はおろかバンド名も知らなかったから、適当に相槌を打つだけだった。


でもここまで葉子さんのテンションが上がったところは、見た事が無かったので貴重だ。


「ちょっと、翔君ちゃんと聞いてる?」


「はい、聞いてますよ」


俺が少し投げやりに答えたので、葉子さんは小首を傾げて何やら考え込んでいる。


「翔君なんか怒ってない?」


「え? 怒ってないですけど?」


ほったらかされていた感が強いので、思わず少し不機嫌に答えてしまった。


「そう? なんかさっきからトゲがあるのよね、あ!」


何か思いついたようで悪戯をする子供のような顔してますけど、嫌な予感がプンプンするよ。


「な、なんですか?」


「もしかしてヤキモチ?」


「違います…っていうかなんでヤキモチ焼くんですか?」


「そ、そうね、つまんないわね」


つまんないって言われてもね…


「じゃあなんなのよ、男ならハッキリ言いなさい!」


「…なんか俺だけ浮いていた、というか付いていけてなかったので」


「あら?」


葉子さんは何かを感じ取ったようだった。


「な、なんですか?」


「もしかして寂しかったとか?」


「ち、違いますよ!」


ハッキリ言ってしまえばそうなんだけど、男としてのプライドが肯定を許さなかった。


「図星みたいね」


「!?」


ダメだ! なんか手の平で転がされている感じだ。


「翔君いい子いい子してあげるね」と言って俺の頭を撫で始めた。


「ちょ! 恥ずかしいからやめてください!」


「ふふ」


なんかいつもの葉子さんじゃない! なんでちょっとお姉さんっぽい笑みを浮かべてるんだろ?


「翔君ってやっぱりかわいいわね」


かわいいって言われて悪い気はしないけど、男ならやっぱり格好良いって言われたい。


「じゃあ帰りましょうね」


「はい…」


だからそのお姉さん口調はやめて下さい、でも普段見れない姿を沢山見れたので良しとするか。


今度は葉子さんから自然と手を繋いで来たので、こっちも自然と手を繋ぐことができた。



「ただいま」


2人で玄関に入ると、やはり蘭ちゃんが真っ先に顔を出した。


「おかえりぃ」


「蘭ちゃんただいま」


ガシガシと頭を撫でてやると嬉しそうな顔で走って行った。


「葉子、遅かったじゃないか?」


「別に何もなかったわよ、翔君だし」


「まぁそうだな、翔だしな」


え? なにこの空気…、まるでダメダメだと言われている気がするよ。


「気がするんじゃなくて、ダメダメだと言っているんだが?」


「あきらさん、心を読まないでくださいよ!」


「翔って本当分かり易いな」


そんなに分かり易い顔してたのかな? なんか納得いかない。


「それより夕食食べてないんだけど、何かある?」


「どうかな? 京子さんも2人は泊まってくると思って作ってなかったけど」


はぁ…、なんで泊まってくると思ったのか小一時間問い詰めたい気分だよ。


「あー、おかえりぃ」


「菜摘さんただいま」


「夕食食べてないって聞こえたけど私が何か作ろうか? 翔君だけに特別料理を作ってあげ」


「却下よ」


「ふぇえ…!」


却下するの早! 菜摘さんも有り得ない驚きかただな。

うわーんって走って行っちゃったよ…がんばれ!


「それなら私が作」


「翔を殺す気か?」


「……」


葉子さん黙り込んじゃったけどそんなに酷いのか…。


「な、なによ、あきらだって大して変わらないじゃない!」


「うぐっ…」


なにこの不毛な戦い…


「葉子ちゃん、おにいちゃん、チャーハン作ったから食べて」


「ありがとう、蘭ちゃんは気が利くな」


「えへへ」


「「……」」


2人共、10歳の女の子に惨敗だな。


「いだぁ!」


葉子さんとあきらさんのダブルパンチ食らった。そして半眼で睨まれてる。

目を合わせたら絶対狩られる! っていうか抹殺されると思う。


「あ、あはは、お、お腹空いたな、チャーハン食べよ」


「そうね私もお腹空いたわ」


前から葉子さんに半眼で睨まれ、左横からはあきらさんに半眼で睨まれ、

右横では蘭ちゃんが両手で頬杖をついて、嬉しそうに笑って俺が食べるのを見ている。

何故か涙目の菜摘さんが後ろに立ってるのが怖いんですけど…。


これってあれだよね所謂針のむしろってやつだよね? 全然味わう余裕ねぇよ!

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