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片倉荘  作者: Satch
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第1話:突然の話

「っていうことなので、明日出てってくれな」


「はっ!?」


「いや、だからね、明日この部屋を出てってくれって言ったんだ」



この、部屋を追い出そうとしているのは、

いい加減禿げあがった頭が眩しい60過ぎたじいさん…

俺が住む共同アパートの大家さんだ。


別に俺が何か悪さしたりして、追い出されるわけじゃないよ?


俺はまだ17歳の高校生で、家から高校まで通うのに遠すぎるということで、

高校の近くにあったこのボロい共同アパートに入居した。


ボロいが住人達はみないい人で、ここで1年ちょっと平和に過ごしていたのに、

突然の退去勧告に、戸惑うばかりだ。


その理由は、このボロアパートを取り壊して、マンションを建てるからだそうだ。



「なんですかそれ!? っていうか急すぎませんか?」


「うん、まあ、さっき思いついたから」



そう言って、自分の眩しい頭をさすっている。



「思いついたからって…」


「善は急げっていうだろ?」



いわねぇよ! この場合は!



「…」


「まあ、決まったことだから、それじゃ」



サッと軽く手を挙げて、頭をぽりぽり掻きながら去っていく大家の背中に、呪いでもかけたろか…



「はぁ…」



ため息を吐きつつ、実家に連絡するために携帯を開いた。





「ってことで、アパート出てけってさ…」


「まぁ、そうなの、大変ねぇ…」



大変ねぇって、あんたの息子がアパート追い出されるのに、

そんな他人事みたいに言わないでくれ。



「俺はどうすりゃいいんだよ?」


「ちょっと待っててね、お母さん何とかしてみるから」


「何とかってなに? って切れてやがる!」



なんか今になってものすごい不安になって来たけど、この先大丈夫なのか、俺。




−翌日−




あの後、母さんから連絡が来て、ここに行けって住所言われて、

今日その住所の場所に来たけど、どうみても一軒家だよな?


目の前にある一軒家は、豪邸とまでは行かないが、

一般家庭よりはでかいが、門とかは普通の一軒家だった。


佇んでても埒が開かないので、呼び鈴を押してみる。



「はぁい、どなたぁ」


インターフォンから若干間延びしたような、大人びた女性の声がした。



「あ、あの、俺…大谷翔って言いますが…」


「あらぁ? 翔君なの? 鍵開いてるから、入って」


「あ、はい…」



俺はドアを開けて玄関に入る、玄関は散らかっては居ないが、

女ものと思われる靴が沢山並んでいた。


しばらく玄関に居ると、パタパタとスリッパの音がして、

奥の部屋のほうから、30代前半くらいの女性が現れた。



「…っ!」



しかしその姿を見て絶句する、なんと裸にバスタオルを巻いただけの格好だったから。



「あら、ごめんなさいね、シャワー浴びてたので…」


「え、えーと…」



服を着る時間くらい待つのに…

目のやり場に困って、どもってしまう。



「ここじゃなんだし、上がって、キャア!」



突然悲鳴を上げた女性の声に、目のやり場に困って

俯いていた顔を上げると、裸の女性が目の前に居た。


いや、足元を見るとバスタオルが落ちていた。


胸を隠すようにその女性はバスタオルを拾い、俺に背を向けてバスタオルを巻いた。

俺の目はプルンと丸いお尻を見ていたことは言うまでもない。



俺が通された部屋は結構広く、食堂にあるような机が2つと、

椅子が8脚ある部屋で、合宿所の食堂を思わせる。


勧められるまま、そのうちの1脚の椅子に腰掛ける。



「じゃあ、ちょっと着替えてくるから」



その女性は、そそくさと奥の部屋に消えていった。

俺は別にそのままでも良かったという叫びは、心の中に仕舞っておいた。




「しかし、大きくなったわね」


「はっ?」



俺は思わず先ほど下半身が反応したことを言われたのかと思ったが、意外な事を言った。



「翔君とは小さい頃に会った事あるのよ」



そう言うと、俺の前にコーヒーカップが置かれて、黒い液体が揺れて湯気が立っていた。



「えっ? そうなんですか?」


「あ、そうそう、私の名前は、片倉京子っていいます」


「片倉…片倉…聞いたことがあるようなないような…」


「まだちっちゃかったし、覚えてなくてもしょうがないわね」



京子さんは艶めかしい口元に手を置いてクスクスと笑っている。



「あなたのお母さんからしばらくぶりに電話があってね、

翔君をここに住まわしてくれないかって言われたのよ」



「あの、母とはどういう…?」


「まあ、所謂遠縁の親戚になるのかしらね」


「そうなんですか? でも遠縁の親戚が居るなんて、全然聞いた記憶ないですね」


「遠縁ってそんなものじゃないかしら?」


「そうなんですかね?」


「そうよ、きっと」



なんかこのままだと答えが出ないまま、無限ループしそうなので、話題を戻す。



「それで、俺は…僕はここに一緒に住んでいいんですか?」


「もちろん! 私に断る理由はないわ」



何故かその時、京子さんの瞳が妖しく光った。

それが妙にセクシーで、ドギマギしてしまう。



「って言っても、他に同居人もいるけどね」


「え? あ…旦那さんですか?


「ふふ、旦那とはとうの昔に分かれたわ、私は10歳になる娘と2人家族なの」


「2人でこのでかい家は寂しくないですか?」



京子さんは今度は小馬鹿にするような目で俺を見て言った。



「娘を同居人とは言わないでしょ? 他に居候が3人居るのよ、

居候と言っても、毎月部屋代はちゃんと貰ってるけどね」


「あ、そうなんですか」


「もうじき帰ってくると思うわ」



京子さんがそう言った時、玄関のドアが開く音が聞こえた。



「ただいまーってあれ? お客さんかな?」



最初の声は、元気いっぱいの女の子の声だった。



「えぇ? わぁ! 本当だぁ男ものの靴だぁ」



次に聞こえたのが、若干間延びしたような女の子の声。



「お客とは珍しいな」



次に聞こえたのは、先の2名とは違い、冷静でクールな女の子の声。



「こんな靴履いているようじゃ、ろくな男じゃないでしょ」



最後に、トゲのある言葉使いをする女の子の声。

なんか、女の子の声しかしなかったような気がするけど…



「あの…男の人はいないんですか?」



最後の女の子の言葉に軽くヘコみながら、京子さんに尋ねる。



「あら…そっちの趣味が?」


「違うから!」


「それなら良かったわ」



何が良かったのか聞きたいが、聞いたら負けな気がしてきた。



「男性は翔君だけね」



また京子さんの瞳に妖しい光が灯った気がしたよ。




この食堂のような部屋に、ガヤガヤと女の子達が入ってきた。

最初に声を出したのが、また10歳くらいの女の子。



「ママ、ただいまー、ってその人誰?」



俺を指差しながら、きょとんとした顔をしている。



「おかえり、今日からあの部屋に入る翔君よ」


「そうなんだ! 娘の蘭です! よろしくぅ」


「こちらこそよろしく!」



少し赤みがかったセミロングの髪で、天真爛漫を絵に描いたような可愛い女の子だ。



「鬼畜め! 10歳の少女に欲情するとわ!」


「真顔で変な事いうな! っていうか欲情なんかしてねーよ!」



思わず大声で突っ込んでしまった。

初対面で突っ込みを入れたのは初めてだよ…



「冗談だ」


「わかりずれぇよ!」


「私は、あきらだ、よろしくな」



少しだけ口角が上がったところを見ると、これが笑った顔なのだろうか?

整った丹精な顔立ちに、黒いストレートのショートカットで、

少し…いやかなり冷たい感じがする女の子だ。

これは俗にいうクールビューティというのだろうか?



「わわわ、わた、わたしは、なな、菜摘といいます、よろし…」



うーん、最後が聞き取れないくらい小さい声だったけど、

よろしくということだろう…緊張しすぎだし。

肩より少し長い黒いストレートの髪で、何となくおっとりとした幼い印象があるこちらも美少女だ。



「わたしは葉子よ! 今日からあなたはわたしの下僕よ」


「ならんわぁ!」



この小生意気な美少女は、少し茶色い髪をツインテールにしている。

なんでこんなにツンツンしているのか分からず首を捻る。



「よ、よろしく」



そう言うと、頬を真っ赤にしながらそっぽを向く。

なんだコレは、もしかして、あの希少動物のツンデレなのか?



「おにいちゃん! 蘭がお部屋に案内してあげるね!」



俺の手を握り、ぐいぐいと引っぱって来る蘭。

その柔らかい手の感触に思わず頬が緩む。



「やっぱり鬼畜…」


「だー! 違うから!」


「さ、最低ですよぉ…」


「ちょ…」


「下僕の分際で」


「だから下僕じゃねぇぇ!」



そんな俺たちのやり取りを京子さんは嬉しそうに眺めていた、

俺、ちゃんとここでやっていけるか不安になってきたよ。

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