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第7話:現状を把握するんですけど!?

 面倒な一騒動があったけれども、その後は特に問題が起きる事はなかった。宿に泊まる時も訝しげな顔をされたけれども、フードで顔を隠しながら泊まろうとするフィネッサに事情を伺うような事もせず、むしろ我関せずな淡泊な応対だった。

 フィネッサもそんな反応は気にしないのか、今は空腹を満たす為に食事を取っている。するとフィネッサが思った以上に行儀悪く食べている事にギョッとしてしまう。


『ちょっと、もうちょっとお淑やかに食べなさいよ』

「上品に食べたら良家のお嬢さんとか思われるじゃないですか。良いんですよ」

『だからって女の子が……あぁ!』


 もう見てられない。見てたら文句を言ってしまいそうな程に行儀が悪い。口の中に物を入れたまま喋らないの。食器を鳴らさない、スープを飲む時は音を立てない! あぁ、ぞわぞわしてきたわ。もう視界に入れないようにしましょう。

 フィネッサがぺろりと食事を平らげたのを確認してから、私はフィネッサへと意識を戻す。


『それで? これから貴方、どうするのよ?』

「そうですね……まずは行きたい所があります」

『行きたい所?』

「いきなり水害の多い土地に行って、何かさせてくださいと言っても微々たる効果しか上げられないでしょう。なら、先人の知恵に倣うべきです」

『……先人の知恵ねぇ。でも治水を担っていたヒュードラ公爵家はもう国内にはいないのでしょう?』


 私の確認にフィネッサが頷いてみせる。


「ですから、まずはお祖父様を訪ねるつもりです」

『……先王陛下?』

「はい。お祖父様は退位の後、政から身を退くのと同時に療養の為に王家の直轄地に移り住みました。ただ、最後までヒュードラ公爵家を説得していたと聞いていますし、懇意にもされていたと聞いてます」

『……へぇ、そうなの』


 先王陛下も先王妃様も私に良くしてくれた記憶の印象が強い。私を立派に育ててくれた第二の両親だと言っても過言ではない。

 今思えば、もっとあのお二方を頼るべきだったのかもしれない。そうすればレオニスタももっと賢明な判断をしてくれたかもしれない。

 過ぎてしまった話は戻らないんだけど。あの頃の私が恥を忍んで相談したかと言われればしないだろうから。もっと柔軟に動けていたら私はこうなってはいない。


『それでも知識まで知っているとは思えないわよ?』

「はい、それは勿論。ですからお祖父様に求めるのは“保証”です」

『保証、ねぇ。後ろ盾になってもらうと?』

「はい。……あまり褒められた手ではないのですが、勝手にしろと言われたからには勝手にさせて頂きます。どうせお父様達は水害の対策を現状維持で推し進めるつもりです。状況を変えるにはお父様達との対立も視野に入れなければいけません……」


 覚悟を固めた表情でフィネッサが呟く。

 レオニスタもフレイアも治水に力を入れる事はしないだろうと思う。それは彼等の権威を著しく損なう可能性も孕んでいるからだ。それならフレイアの力を使って豊穣を齎す土地を限定し、優遇するというのはわからなくもない。

 けれど、それはフィネッサも指摘した通り民の選別にも等しい。それを傲慢と取る民も多いと思う。今まで治水で貢献してきたヒュードラ公爵家の心変わりを許してしまったのは現王家なのだから。

 だからフィネッサが白蛇を召喚した事も、治水に対して意見を口にする事だって苦々しく思ってる筈だ。……一体、どちらが民の事を考えているんだか。


「無事資金も調達出来ました。足りない場合は、もう少し王都を離れてから考えます。……イードゥラ、お願いがあるのですが」

『何よ』

「これからもイードゥラに乗せて移動させて頂いてもよろしいですか? そうすれば馬車代なども節約出来るのですが」

『……そうねぇ』


 さて、ここで頷いて良いものか。私の体感だと、多分馬よりも速度は出せると思う。移動するだけならそれで良い。ただ、私がすぐに頷けないのは懸念があるから。


『節約は大事だけど、情報を得る事も大事だと思うのよ。ちゃんと調べて問題がなかったらにしましょう。私だけで手に負えない事態が待っているかもしれないのに単独行動をするのは無謀だわ。今回は王都から離れるという大義名分があったけれど、本来だったら避けるべきだと思うわ』

「……なるほど。イードゥラの意見も尤もです」

『今日は一日、宿で休んで様子見。明日で必要なものを調達しながら市場の人達から聞き込みして、情報を集めてからどう移動するか決めても良いんじゃないかしら?』

「はい。では、そのようにしましょうか」



 * * *



 旅の疲れはやはりあったのか、宿で休むと決めてからフィネッサはよく眠った。そして朝になり、朝食を食べてから市場へと繰り出す。

 必要なものを買い込みながら市場で人々の最近の噂や、フィネッサが向かいたい先王陛下が御座す王家の直轄地についてや、その道中で気になる事はないかなど調べていく。


「……やはり水害の多い地域では野盗の危険が多いみたいですね」

『みたいね』


 やはり多い噂は旅の途中で襲われる危険、特に水害が多い地域では野盗による被害が頻繁に上がっているという。商人達も危険と財産を失うのは避けたいと、水害が多い地域に足を向ける機会が減ったという。

 結果的に水害が多い土地では物流が滞り、野盗にでもならなければ生きてはいけない者達が増えていく。そんな悪循環だ。

 一方で、フレイアの恩恵に与って潤沢な農地を持つ者の中には貴族顔負けの生活を送っている者もいて、貴族である領主が口を出せない程の大富豪もいるのだとか。


(貴族の権威もフレイアの派閥でなければ富豪にも劣る事もある、か。私の時代にはそれだけ力の持った富豪は多くなかったけど、力ある貴族が王都を離れ領地に引っ込んだ事でそういった逆転現象も起きてしまったんでしょうね……)


 富豪である商人はやり手の証拠でもある。下手をすれば貴族よりも学があるものがいる。或いは商機を見逃さない勘か。その力が土地に還元されるのであれば良い。

 けれど商人というのは基本的にがめついもの。特に自らの富を集める事に執着するだろう。そのお金がその土地に還元されなければ貧富の差を生む。


(そういうのも避けるのが領主の役割だと思うのだけど……機能してるのかしらね)


 貧富の差の拡大は何も王都ミーティアンだけの問題ではない。ミーティアンで見た光景は社会の縮小図なのだ。貧しき者がより貧しくなり、栄える者だけが富を増やす。それが今のアルマーティア王国の在り方だ。

 先王陛下の治政下ではまったく考えられない、なんと浅ましい事か。権威が人を守るのではなく、権威を守る為に人を虐げるとは逆転してしまっている。


(これもフレイアを正妃にした弊害だって気付かないのかしら、レオニスタは……)


 本当に残念な男に成り下がったものだと、鼻を鳴らしてしまう。


「お祖父様のいる王家直轄地も水害の被害が大きい土地なんですよね」

『それでも王家の直轄地なだけあって、まだ水害の被害は抑えられている、と』

「はい。治水の研究も盛んな場所の一つだと」

『……知らなかったの?』

「……私はお祖父様に会う事を禁じられていましたから。お会いしたのは、まだ物心がつく前です。お祖父様とお祖母様がいると聞いてはいても、近況までは。城や王都でも遠くにいるとしか聞いた事がなかったので……」


 治水に関わる事で国の現状を少しでも改善したいと思っているフィネッサと、今も治水の為に直轄地に篭もりながら地道な活動を続けている先王陛下。

 この二人は意図的に引き離されてるとしか思えない。フィネッサに徹底的に情報を与えないようにして、まるで飼い殺しにしようとしているかのような。そんな悪意を感じずにはいられなかった。


『いいじゃない、渡りに船よ。本懐を達せられるんだもの』

「……それは、そうですね」

『……どうしたのよ?』

「……いえ。やはりラーナリアス様が本当にお母様が言うような魔女だとは思えなくて。一体、当時に何があったのか、それが気になってしまって……』


 捨てた自分の名前が出てくると、思わず身を捩らせてしまう。

 ……あの女はどうしてそこまで正妃の立場を求めたのかしらね。私を暗殺してまで。国は少しずつ歪んでいってる。それでも王妃として君臨してるフレイアは何を見て、何を望んでいるのか。


(……多分、一生共感出来ないんでしょうね)


 それだけは不思議と確信があった。私はフレイアにはなれないし、フレイアは私になる事は出来ない。互いの考えが違い過ぎて、同じ目線で物事を見る事は叶わない。

 生きていた頃ならまだしも、今の私は守護聖獣だ。祖国を荒らされているのには頭が来るけれど、それを守れなかったのも私の責任だ。私にとやかく言う資格なんてない。


(……あるとしたら、それはきっと)


 今、こうして思い詰めて国の未来を案じているフィネッサなのかもしれない。

 見守って欲しいと言われた。力を貸しても良いと思ったら力になって欲しいと。そう乞われてしまっている。

 最初こそ、あの二人の娘だからという理由で彼女を拒絶した。今はどうだろう。少なくともフィネッサという個人は好ましく思っている。

 国の現状を知れば知る程、ラーナリアスだった頃の私が罪悪感に満たされていく。もう私に出来る事なんてない。


(でも、目は閉じていたくない)


 それはあまりにも無様だ。生き恥は晒しても、それだけは耐えられない。無知なままではいられない。

 今、どうしてこんな事になっているのかはわからない。それもこの旅の最中に知る事が出来ると良いんだけど……。


「……イードゥラ? どうしました?」

『別に。なんでもないわよ』


 すっかり黙り込んでしまった私を気にして、フィネッサが声をかけてくる。私はそっけなく返しながら、空へと視線を向けた。

 どんなに時が流れても、見上げる空の色は変わる事はなかった。



 * * *



 旅支度をしっかりと調えた後、フィネッサと先王陛下がいらっしゃる直轄地に向かうルートを私達は相談し合っていた。


「商人の流通に合わせて移動するのですか?」

『そうよ。いきなり単身乗り込むよりは現実的だと思うけれど』

「……そうですね。ただでさえ商人が野盗に襲われて物資が不足してる状況です。その支援とも考えれば商人の護衛として行動した方が良いのは事実です」

『それにフィネッサだって旅慣れしてる訳じゃないでしょう。何か不測の事態があった時、私じゃどうしようも出来ないのよ? 要の本体はフィネッサなんだから』


 私は守護聖獣としてはそれなりに強力なのかもしれない、とは思ってる。そもそも守護聖獣の強さは契約した宿主による面も大きい。それだけ血筋によって培われてきた恩恵というのは大きい。

 王族であるフィネッサは、片親が平民だとしてもあのフレイアの娘だ。素質は十分過ぎるほどあると思う。だけど、あくまで守護聖獣が強くても本体がやられてしまっては意味がない。……私みたいにね。


「だから王族や貴族は守護聖獣によって齎される恩恵から魔法を扱えるように訓練します」

『……魔法ねぇ』


 守護聖獣と契約した契約主は恩恵を授かる。それは守護聖獣という純粋な戦力であり、そして魔法という才能の開花だ。

 成人して守護聖獣を授かった者達は魔法が使えるようになる。それは守護聖獣の力を借り受けるようなものだ。私であれば水の属性なので、水魔法が使えるようになるという所ね。

 珍しい稀少な精霊獣ほど強力な力や珍しい属性を持っている事が多い。フレイアの鳳凰などが代表格ね。

 鳳凰は“聖属性”の守護聖獣だ。同時に火の性質も持つけれど、大元は聖なる属性なので命に関連する力、つまりは豊穣を齎す事が出来る。だからフレイアは聖女と言われている訳だ。

 守護聖獣の力はとても大きい。だけど本体が弱いままでは狙われてしまう。そして守護聖獣は契約主の魔力を消費するので、場合によっては守護聖獣が消費した魔力と見合わない事もある。


『自衛の為には鍛えて損はないでしょうね。それに私が姿を晒す事で厄介事を招くかもしれないし』


 ただでさえ今は白蛇が疫病神のように扱われている。出来る事なら、私はあまり姿を見せない方が良い。ならフィネッサに魔法を覚えて貰って頑張って貰った方が良い。今後の為にもなるでしょうしね。


「では、まずはお祖父様の直轄地に向かう商人がいるかどうか調査して、並行して魔法の訓練をしていく。これで良いですか? イードゥラ」

『私は厳しいわよ? 付いて来れるかしら?』

「それも私の務めですから」


 なるべく不敵に言ってみせた私の言葉に、フィネッサは穏やかに微笑みながら頷く。その瞳には魔法への期待と、そして決意の光が見て取れた。

 人間だった頃とちょっと勝手は違うけれど、私が教えるんだもの。私を超えるような実力を身につけて貰わないとね! 明日から特訓よ、フィネッサ!


  

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