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第6話:町に到着したら一騒動なんですけど!?

 街道に沿いつつも、街道から逸れた道無き道を進む。意識してみると自然とこの蛇の体をうまく扱えている事に疑問に思う。眠ってる間に本能とかも置き換わっちゃったのかしらね。


「随分と早いですね。馬のようにも揺れませんし、凄く快適です」

『それはどうも』

「移動に便利そうなのですが、守護聖獣を移動に使ってる人は少ないのですよね……」

『魔力も使うし、一人ならまだしも他にも人がいるなら速度を合わせるのも一苦労だからじゃない?』

「あぁ、なるほど。守護聖獣によっては騎乗に向かないのもいるでしょうしね」


 移動の最中、フィネッサとそんな他愛もない会話を交わす。守護聖獣は魔力の譲渡で大きさは変えられるといっても、全ての守護聖獣が人を乗せるような大きさになる訳ではない。

 それに個体差や、契約主の才能にも左右される面も大きい。なので行軍などには向かない。魔力も使うし、契約主に負担がないとは言わない。だから移動手段として普及する事はないんだと思う。

 しかし、道を進んでいると感じるのは畑の多さだ。私の記憶にある頃よりも畑は大きく広がっているし、実りが豊かに感じる。そういえばレオニスタ様がフレイアが鳳凰の加護を与えてるとかなんとか言ってたかしら……?


『鳳凰が農作物に豊穣をもたらしてるっていうのは本当なのかしらね……?』

「あぁ、鳳凰の話ですか。お母様の守護聖獣の力を農作物に使用すれば長持ちし、豊作が約束されています。豊穣祭もお母様が担ぎ上げられ、その土地に加護を与えていますね」

『ふぅん……でも、この国に鳳凰を守護聖獣として持つのはフレイアしかいないわよね?』

「……はい。ですからお母様は聖女として祭り上げられています。鳳凰を己の守護聖獣として顕現させたその日から今日に至るまで、ずっと」

『……水害の影響が最初に出るのは農作物でしょう。その農作物を己の加護で庇護するのは良い力の使い方なんでしょうけどね』


 けれど、それはフレイアの発言力を高める結果にしかなっていない。ヒュードラ公爵家を失い、水害によって農作物に多大なる被害を被った事は想像に難くない。そして今も水害に対して決定的な対策が取れていない。

 そこにフレイアだ。フレイアが豊穣を約束した土地は水害に苦しむ国にとって希望となり得たでしょうね。けれど、ヒュードラ公爵家と違うのはフレイアは一人であるという事、そして彼女には歴史の積み重ねという背景がない。


(どんなに聖女と持て囃されようとも、彼女には後ろ盾がない。だからこそ媚を振りまいて男共を誘うのでしょうね……)


 はっきり言って私はレオニスタ様を……いいえ、レオニスタの事を見限ってる。ヒュードラ公爵家を始めとした有力貴族の後ろ盾を失ったのはレオニスタもまた同じだ。レオニスタに残ってるのは見せかけの歴史とハリボテの権威だけだ。そこに実は伴っていない。

 その実を支えているのはフレイアだ。あの鳳凰という守護聖獣の利点をあの女は嫌と言うほどに利用している。本当にこんな狡猾な女だと知っていればイジメ程度で済まさなかったのに。当時、武力に訴えれば明らかに私に利があった。


(……本当に暗殺しておくべきだったのかもしれないわね、あの女)


 今はもう、この国にフレイアは欠かせないのだろう。しかし、そんなフレイアの権威を脅かすとすれば……。


「……どうかしましたか? イードゥラ」

『別に、何でもないわよ』


 ……私は、何がしたいんだろう。

 意味もわからずに守護聖獣になってしまった。なってしまった以上は生きなければならない。でなければ“イードゥラ”が私に託してくれたのだろうものを失ってしまうような気がする。

 じゃあ、生きるとして私は何をすれば良い? 与えられた役目はフィネッサの守護聖獣としてある事。けれど、それが私を陥れたフレイアや、私を裏切ったレオニスタに与してしまう事に繋がるんじゃないかと思えば腸が煮えくり返りそうになる。


(……それなら、いっそ、フィネッサを担ぎ上げて――)


 ――あの二人に復讐する。

 そこまで考えて、私は思考を打ち切った。馬鹿馬鹿しい、と思ったからだ。


(……どんなに私にとって許せないクズ共だろうと、今はあれがこの国にとってトップ。欠かせない旗印なんでしょうからね。人でなくなった私にはもう関係のない事よ。そこにフィネッサを巻き込むなんて尚更馬鹿げた話だわ)


 結局、今の私には何も変えようなんて思えない。この国の為になろうとしているフィネッサを好ましく思いながらも、だからといってこの国を統べるフレイアとレオニスタの益になるような事をするのは腹立たしい。

 フィネッサに協力しているのも、結局の所はフィネッサの行動があのフレイアの鼻を明かしている事に繋がっているからだ。そんな子供じみた不満だけしか、私を動かすようなものはない。


(……水はただ流れるままに、ね。流れを変える力がないのであれば流されてみるのもいいかしらね)


 まだ見えていないものも多い。今日明日に答えを決めなければならない訳でもない。ならそのつもりで生きてみよう。

 私は小さく、そう決意したのだった。



 * * *



 王都“ミーティアン”から移動する事、数時間。合間に休憩を挟みつつ、私とフィネッサは最寄りの町へと辿り着いた。

 王都からも程近く、各地へと繋がる道の中継地点となる町“パスライン”。私も知る都市だ。ただ、私が知るよりもこの町は栄えているようにも見える。

 私はすっかり定位置となったフィネッサの腕に巻き付いて、頭を彼女の肩に乗せている。といっても今は実体を解いてるから、あくまでそういうイメージってだけだけど。

 フィネッサは顔を隠すようにフードを被っている。まだ王都も近いし、フレイアとそっくりだという噂も立てられかねないから、その用心の為だ。


『活気があるわね』

「はい、王都に比べてここは交易の中心点ですから。収穫した作物を各地に届けたり、隣国からの輸入品で賑わっています。今、アルマーティア王国で一番栄えているといっても間違いないでしょう」

『王都よりも?』

「……そこは聞かないでください」


 王都ミーティアンでは平民は貧しい生活を送っていたけれども、貴族は昔以上に贅を凝らした生活を送っていた。

 そしてここ、パスラインでは商人達が幅を利かせているのだと思う。品が集まれば商人には商機が増える。そして水害の被害を防ぎきれていない現状、他国から輸入せねば賄えないものもあるでしょう。

 だからパスラインがアルマーティア王国を支える生命線とも言えるのでしょう。フレイアを心臓だとするなら、パスラインは各地を繋ぐ血管ね。


『まずは宝石の換金からかしら?』

「はい、資金を調達して今日の宿を探します」


 野宿にならなくて良かったです、と。お腹をさすりながらフィネッサは苦笑して見せた。食事は朝に食べたきりで、昼ももう過ぎようとしていた。

 まだ彼女は食事にありつけていない。もしかしたら強行軍で何も食べずにこのパスラインまで来るつもりだったのかもしれない。まったく、あまりにも無謀よね。

 宝石を買い取ってくれる店へと向かったフィネッサは、特に何のトラブルもなく宝石をお金に換えていた。贅沢は出来ないが、当面の糧や必要なものを揃えるなら十分な金額だった。


「では、まずは宿を――」


 フィネッサが大事そうに硬貨袋を懐に仕舞ってから歩きだそうとすると、フィネッサの向こう側から歩いてきた通行人がわざとぶつかるように肩を当てて来た。

 あまりの露骨さに私は目を丸くしてしまった。見るからに柄の悪そうな男だ。男は大袈裟によろめいたかと思えば、フィネッサへと目をつけた。


「おいおい、いてぇなぁ、お嬢ちゃん。どこに目つけてんだ!?」

「……失礼しました」

「失礼しましたじゃ、この肩の痛みは消えねぇんだよなぁ! へへ、さっきお前さん、そこで換金してたよな? 俺に酌をしてくれりゃ、痛みも収まりそうなんだよなぁ!」


 ……うわぁ、絵に描いたようなゲスね。

 フィネッサは目を細めて、感情を消し去った瞳で男を見つめている。さて、どうするのかしらね?


「……見た所、骨なども痛めた様子はないようですが」

「あぁん? ぶつかってきておいてそりゃねぇだろ!」

「では、ここでお互い手打ちとしませんか? 無用な争いを起こすのは本意ではありません。私は謝罪をし、貴方はそれで受けた。今ならそれで済みます」

「俺は酌をしろって言ってんだよ! わかんねぇガキだな! もっと痛い思いをしてぇのか!」


 この男、酔ってるのかしらね? 通行人達も野次馬のように集まってこっちを見ている。そんな中、フィネッサに男が手を伸ばして来る。フィネッサはそれを睨み付けるだけで止める事はしない。

 フィネッサの肩に置かれた手が彼女の肩に痕が残らんばかりの力で掴んだのを見て、私は咄嗟にフィネッサから魔力を吸い上げて実体化する。そして、その男の腕に思いっきり噛みついてやった。


『乙女に何してんのよ、このゲスがッ!』

「いっ、ぎゃぁあああああっ!? 腕、俺の腕がぁっ!?」


 思いっきり噛みついてやると、男は慌てたようにフィネッサの肩から手を離して身を退く。私の口内に血の味が広がり、私は穢らわしいとばかりに口の中に入った血を吐き捨てる。


「おいおい、アダー。何してんだよ」

「ブルス! このガキが俺にぶつかってきて、謝罪しろって言ったら守護聖獣に噛みつかせやがった!」

「ぎゃははは! ダセェな! けどおいたはダメだぜ、お嬢ちゃん? ほら見ろ、俺のダチが本当に怪我を負っちまったじゃねぇか!」


 まるで計ったかのように親しげにゲスな男に、またこのゲス男とは毛色の違うゲスっぽい男が現れた。最初に現れたアダーとかいうゲス男は荒くれ者っぽい感じだけれども、次に出てきたブルスとか言うゲスはひょろりとしていやらしい顔付きをした男だ。


「そういう躾のなってねぇガキは、俺達がちゃんと……しつけ……を……」


 随分とペラペラと回る口だと思いながらブルスという男を見ていると、ブルスという男の視線がフィネッサから私へと移ったように見える。すると、その口がだんだんと重くなってきて、わなわなと唇が震え出す。


「ひ、ひぃっ!? し、白蛇! このガキ、白蛇を連れてやがる!! 魔女だ! 魔女の再来だ!!」

「し、白蛇だって!? お、おい! ブルス! お、俺噛まれちまったよ!?」

「馬鹿野郎、触るな! 俺まで呪われたらどうする! ちくしょう、ガキだと思って巻き上げようと思ったら、こんな……!」


 大声で慌てたように喚き立てるゲス男二人、そして“白蛇”という言葉で野次馬に集まっていた者達も不穏なざわめきを見せ始めている。

 ……そんなに“白蛇”への偏見は広まってるのね。ちょっと軽率だったかしら?


「……ちゃんと手当てすれば大丈夫です、呪ってませんよ。私の守護聖獣が大変失礼をしました。……それで、まだ私に何か用が?」

「な、何もねぇよ! クソが! 魔女め、さっさとこの町から出て行くんだな!!」


 ぺっ、とブルスという男が吐きかけた唾がフィネッサの頬に当たった。少しでもズレていれば顔になんか当たらなかっただろう。不幸な事だった、だけどそれは私に十分過ぎる怒りを思い起こさせた。


『こ……のッ、……!』

「――ダメです、堪えて! イードゥラ!」


 無意識にフィネッサから魔力を吸い上げようとした所で、制止するようにフィネッサが叫んだ。


「唾なんて拭えば取れます。……彼等もこれ以上、何か言いたい訳ではないのでしょうから」

『…………』


 私を諫めている間に、ゲス男二人は背中を向けて早足に去っていく姿が見えた。

 手があったのなら、私は血が滲む程に握り締めていただろうと思う。喧嘩をふっかけてきたのもあっちなのに、何故こうもフィネッサがこんな仕打ちを受けなければいけないのか。


「……私、もうお腹がぺこぺこなんです。だから、ね?」

『……馬鹿、あんた馬鹿よ、底無しのお人好し、絶対どこかで騙されて売り飛ばされるわよ!? あぁもう、迂闊なんだから、もっと警戒しなさいよ、あれ絶対狙いつけられたんだからね? わかってる!?』


 それは全部私に返って来る言葉だ。もっと私が気を張っていれば。そうすればあんな男達、フィネッサに近づけなかったものを……!


「……ふふっ」

『あんっ? 何笑ってるのよ、私は怒ってるのよ!?』

「はい。……私の為に怒ってくれて、ありがとうございます。イードゥラ」

『………………』


 ……違うわよ! そんなんじゃない、別に、あいつらが気に食わないだけで! 絆されてない、絆されてなんかないんだからね!


「痛い、痛いです。イードゥラ、私が悪かったです、お願いですから頬を噛むのはやめてください!」

『うるさい、馬鹿娘ッ!』


 本当に、馬鹿なんだから! あぁもう、目が離せないったらありゃしない。ただ、それだけの事なのよ!


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