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第1話:私、死んだんですけど!?

新連載始めました。10万文字越えを目標に執筆していきます。

内容は人外少女×王女様の予定です。人外少女になるのは後半になるので、主人公は暫く人じゃないです。

百合作品となりますので、苦手な人はバックして頂ければと思います。

前書きはこんな所で、本作を楽しんで頂ければと思います。

「――王太子である私、レオニスタ・グラン・アルマーティアがここに宣言する。我が婚約者だった女、ラーナリアス・ヒュードラとの婚約を破棄をすると!」


 ――懐かしい夢を見ている。

 閉ざした瞼の奥に、かつて愛した人の残影が見える。

 この頃の私は、婚約者であった彼を愛していたわね。


「レオニスタ様……何故、そのような事を!?」

「ラーナリアス! 貴様の性根は暴かれている! 貴様は次期国王たる私の婚約者にはあるまじき愚かな振る舞いを行った!」

「一体、何の事だか。私がいつ、何をしたと言うのでしょうか?」

「惚けるつもりか? フレイアへの仕打ちは既に多くの者が知っていよう!」


 かつて憎悪に心を焦がした女の名前を、愛おしかった彼が口にする。

 艶やかな黒髪は夜を思わせるようだ。そして飾られた装飾品はまるで星々のように輝いている。愛くるしい桃色の瞳は涙に潤み、レオニスタ様を不安げに見つめている。

 当時の私は、嫉妬に狂いそうな心を必死に抑え込みながら気丈に彼等を睨み付けたものよね。


「その者への仕打ち? 身の程知らずに分を弁えろと言った事ですか? それぐらいしか心当たりはございませんが」

「その程度だと? それは彼女に冷ややかな言葉を投げかける事がか? 頬を打ち、怪我を負わせた事がか? 果ては命を狙われそうになったのもたかがとお前は言うのか?」

「そうでしょう? その者は貴族ならぬ平民なのです。更に言えば婚約者のいる殿方を侍らせるなどと言語道断! はしたなくて見るのも悍ましい振る舞いを何故、忠告せずにいられましょうか!? 命を狙われた? それも自業自得の振る舞いだと言う事の証左でしょう!」

「……あくまで己の振る舞いの非は認めぬつもりか」

「命を狙っただのと言われるのは甚だ不本意ではございますが。その者の命がどうなろうとも私には何ら関心もございません」

「……酷い……! 私……ラーナリアス様に虐められてきました! ずっと辛かったのに! 一言謝ってくれれば、私、それで全部良かったのに!」

「――お黙りなさい、平民如きが。誰に口を利いているの?」


 その女、フレイアは平民でありながら将来は貴族の嫁に望まれる程の特殊な才能を持っていた。

 それでも平民は平民。婚約者がいる男性を侍らせるなどと、それは常識知らずの愚かしい振る舞いだ。

 命を狙われた? 人のものを取ろうとするのだから、自ら招いた事でしょうと私は鼻を鳴らしていた。


「――最早、我慢ならん。ラーナリアスよ、貴様の貴族籍を剥奪し、国外追放とする!」

「……何ですって? レオニスタ殿下。私、耳がおかしくなったので? 私を国外追放する? 私の貴族籍を剥奪した上で? そのような権限が貴方にあると思って?」

「貴様が犯した罪、聖女と認定されたフレイアを害そうとした行いが立証されれば認められる。貴様のような毒婦めの本性を見抜けなかった我が目の節穴を呪うよ」

「……えぇ、見事な節穴ですわね。話になりませんわ、私は中座させて頂きます。卒業式パーティーという祝いの席でとんだ恥を掻かされましたわ。この屈辱は我がヒュードラ公爵家から正式に王家へと訴えさせて頂きます。次に会うのは法廷となるでしょう」

「己の罪を悔いる事もせぬか! 見ていろ、今に貴様の罪は正しく裁かれる事であろう!」


 そして、私の最後に残っていた忠誠の心も潰えて彼から目を逸らしました。

 込み上げて来るのは虚無感。脱力感に崩れ落ちる前に、私は背を向けて学院の卒業を祝うパーティー会場を後にしました。

 もし、この時に一度でも振り返っていれば。そんな後悔にも似た願いがぽつりと沸き上がる。


「……まったく、あれで次期国王だなんて。信じられないわ」


 学院の寮ではなく、王家の抗議の為に実家である公爵家の屋敷に向かう道中の馬車で私はそう呟く。

 早く帰って父上に抗議をしなければならない。こちらに非はない。そもそも命を狙った事まで私のせいにされているような気がする。

 はっきり言えば、そうなる前にあの女が止まってくれれば私としても苦労を背負い込まなくて済んだものを……。

 考え事に耽りながら、ふと外へと視線を窓へと向けた時だった。ちか、と夜闇の中で何かが光った気がした。

 私は、その光に身が凍るような悪寒を感じて“半身”に叫んだ。


「イードゥラ!」


 しゅるり、と私の腕に巻き付くように現れたのは白い蛇。虚空から現れたこの白い蛇は私の半身であり、この世界における特権階級である貴族を貴族たらしめるもの。

 “守護聖獣”。彼等は個々の魂に結びついた実体を持たぬ獣だ。成人と共に聖別を受ける事で自らの守護聖獣を顕現させ、一生の友とする。

 貴族を貴族たらしめるのは、その血が強力な守護聖獣を呼び寄せるからだ。私の家、ヒュードラ公爵家も代々白蛇を受け継ぐ一族だ。彼等は水を操る権能に長け、治水などの事業に従事する事で国に貢献してきた。

 その守護聖獣を呼び出さなければならないと直感した謎の光は、私の直感を裏切らずにどんどん距離を詰めて、馬車に一直線に突っ込んで来た。水の膜で全身を覆って私は直撃を避けるも、衝撃で大地を跳ね回るように転がる。


「うっ……く……! 何、が……?」


 衝撃で眩む頭を抑えながら起き上がれば、馬車から投げ出された御者が転がっているのが見えた。明らかな致命傷を受け、即死をしてしまっている。

 これは明らかに殺害を狙った何者かの襲撃だ。そして、夜闇の中で輝くそれが再び私の前へと舞い降りる。

 眩しいまでの光を放ち、圧倒的な存在感を放つ鳥。その優美さは正に芸術と言える。しかし、私にとっては忌まわしき象徴でしかなかった。


「鳳凰……! やはり、あの女の……!」


 長命を齎すとされた吉兆の使者。そして、あの女の守護聖獣だ。この稀少な守護聖獣こそがフレイアが聖女だと言われる由縁だ。

 フレイアの鳳凰は明らかにこちらに敵意を向けて、威嚇するように翼を広げている。


「イードゥラ!」


 自身の守護聖獣に魔力を注いで、その力を解放させていく。私の腕に絡んでいた白蛇、イードゥラはその身を巨大化させていき、威嚇し返すように牙と舌を空に舞う鳳凰へと向ける。

 鳳凰は私の命を狙っている。ならば撃退しなければならない。ここで死ぬ訳にはいかないからだ。

 鳳凰が翼を羽ばたかせて、私に向かって来る。それを抑えるようにイードゥラが舌を揺らして周囲に水の槍を形成していく。しかし、鳳凰は最低限の回避をしながら私達に更に距離を詰めてくる。


「ッ、不味い……!」


 こっちは奇襲を受け、あちらの本体であるフレイアがどこにいるのか把握出来ない。それに対して私は相手に姿を晒してしまっている。守護聖獣は依代となる本人が倒れればいずれ、その存在から離れてしまう。

 つまり状況は不利だ。しかし、逃げれば私は襲撃を受けたと逆にあちらを弾劾する事が出来る。それはあちらもわかっているのだろう。だから、決して私を逃がさないと言うように襲いかかって来る。


「イードゥラ! 引くわよ、逃げさえすれば私達の……!?」


 鳳凰が更にこちらに向かって首を伸ばしてくる。それをイードゥラが横合いから噛み付き、その身を絡め取っていくように巻き付く。

 その瞬間、鳳凰の全身が輝き、目を焼くような炎を纏った。それはイードゥラの鱗を熱し、その身を焼いていく。


「イードゥラ!」


 イードゥラも全身に水を纏い、炎を鎮めようとする。しかし炎の勢いは留まらず、イードゥラが苦痛に喘ぐように身を揺らした。

 その拘束が緩んだ一瞬の隙、まるで一本の線を描くように熱線が鳳凰から放たれた。それは――私の胸を貫き、心臓を焼き潰した。


「――ぁ」


 熱も、痛みもない。ただ、寒くなっていく。体から熱が奪われていくような感覚。

 崩れ落ちた身を鳳凰の拘束を解いたイードゥラが咥えるようにして抱え込み、イードゥラが地を勢い良く這いながら疾走する。

 解放された鳳凰は執拗にイードゥラの身を灼こうと炎を放つ。イードゥラは水を全身に纏いながら這い進んで行くけれど、その存在が希薄になりつつある。私の命が尽きて、魔力が与えられていないからだ。


(……あぁ、なんて、無様)


 まさかこんな手まで使って来るとは予想していなかった。このまま私が死ねば遺体すらも残らないだろう。そうして私は行方不明、罪を立証する事無く私の存在は闇に消え去るのだろう。

 口惜しい。……だけど、もういいかな。自分に振り向かない婚約者に恋い焦がれる事も、立派な貴族になって、婚約者として正しく振る舞おうとする徒労をもう重ねなくても良い。

 ……ただ、思うのは。人並みに幸せというものを感じてみたかった。生まれてこの方、私は自分が幸せだと感じた事がない。もし、ただの公爵令嬢であれば、王子の婚約者なんて立場が無ければ、私は――。


「……幸せに、なりたかったわね……イードゥラ」


 苦楽を共にした半身に私は縋るような声を漏らした。そして、イードゥラは鳳凰の炎から逃れる為にその身を川へと飛び込ませた。

 私の身を咥えたまま、イードゥラは水の流れに乗って流れていく。そして私は意識を失った。


 ――そんな懐かしい夢を私は見ていた。


 あれから、私の意識は漂う水の中にあるだけ。

 自分の体の感覚がない。自分の意識だけが存在している。けれど、何も感じる事はない。ただ私という存在の記憶を反芻し続けるだけ。

 夢を見ている。ずっと、繰り返す夢を。幸せになりたくて、でも幸せになる事がなかった私の夢を繰り返している。

 いつ終わるんだろう。いつまで続くんだろう。私は死んだのだろうか。死んだのであれば終わりたい。もし、もしまだ生きているのなら、私は今度こそ――。


 ――――。


 声が、聞こえた気がした。

 首を持ち上げるように私は顔を上げた。


 ――……ッ……!


 その声は、切実に呼びかけていた。何枚もの壁を挟んで届くような声は、それでも私に届けと叫んでいるかのようだった。

 あまりにも切実だと感じた為、私も耳を澄ましてみる。


 ――……て……さい……!


 どうして、この声はこんなに必死に訴えているんだろう。

 興味がむくむくと沸いてくる。どれだけ久しぶりなのかわからない外界からの刺激に止まっていた心が動き出す。


 ――……どうか……来て、ください!


 こんなに強く求められたなら、応えたくなってしまった。

 そして私は、この微睡みの水の中から這い出した。



「――――」



 私は、目を開いた。そこには一人の少女が立っている。

 夜を濡らしたような黒髪に愛らしいという造形で象られた顔つき。意志の強そうな青色の瞳は違うけれど、そこに立っていたのはあの忌まわしき女、フレイアにそっくりだった。


「あぁ……良かった……私の、守護聖獣……白蛇様だ……!」


 ――は?

 白蛇? 私を見て、この娘はそう言ったの? どういう事?

 フレイアそっくりの少女に感じた憎悪混じりの苛立ちもすぐに掻き消えてしまった。

 ふと、視線をずらす。そこにはよく私に懐いていたイードゥラを思わせる白い艶やかな鱗と蛇体があった。

 それは、私の体だった。全身の神経を張り巡らせてみれば、尻尾がぴくと持ち上がる。口を開いてみれば人であった頃よりも開く。ちょっとしたものなら丸呑み出来そうだった。

 よくわからない。むしろ理解したくない。理解したくないけれど、目の前の彼女の言葉と合わせれば一つの答えを導き出してしまう。

 つまり、私は――白蛇の守護聖獣として生まれ変わってしまっている……?


『な、なんなのよぉ!? これぇッ!?』


 信じられない思いから声を出そうとしてみれば、それは声にはならなかった。代わりに口からは叫び声が零れた。あら、はしたない。思わずそんな風に思ってしまう。

 すると、目の前の少女が目をまん丸にして驚いている。まるで喋るなんて思ってもいなかったかのように。


 ――これは、非業の死を遂げてしまった公爵令嬢が生まれ変わった物語。

 出会ったのは運命の乙女。彼女達の出会いが、今、運命の歯車を動かし始める。


  

別連載で「転生王女と天才令嬢の魔法革命」も連載しております。

こちらも百合作品となりますが、興味があればご覧頂ければ幸いです。

書籍化も決まっていますので、応援して頂ければ嬉しいです。

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