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前編

※フィクションです。


※本文中での宗教、思想解釈はあくまで個人の見解です。

 なので、この世界ではこの解釈になっております。


※後に変わる事もあります。



―2015年9月8日(火)夜10時過ぎ―


―新宿区歌舞伎町 新宿ロフト ステージフロア―



誰も居ないステージに、一人の女が腰掛け、チューニングの為かベースを弄っている。


座っている女はバンドのメンバーなのか、派手な出で立ちだった。


全身黒でコーディネートされており、上は黒のTシャツに革のジャケット、下はダメージ入りのボトムスと黒のヒール上げ革靴、シルバーのアクセを幾つか身に付けている。


髪は金の短髪で、ボーイッシュさを出しているものの、顔は整っており、化粧を濃いめにしていても、綺麗な顔立ちは見て取れた。


彼女は、その顔立ちから、"少女"と紛う部分が在りつつも、"女性"と言われるほどではない様に思えた。


しかし、確実に、"女性"を臭わせる雰囲気は持ち合わせている。


男「まだ残ってたのー? 熱心だねー! 今日のライブ最ッ高に良かったよー! 特にキミのギター!」


無言でベースを弄っていた女に対し、誰も居なくなったライブハウスに突然現れた男がそう言う。


コレはベースだ


そう心の中で思いながらも、男を観察する。


女「…そお? アタシのそんなに良かった? ありがと」


男「当然でしょー! マジで最高だったよ? キミの演奏スゲェ最高だったし!」


饒舌な喋り、短髪でカジュアルな服装とはいえブランド物=金持ち=世間知らずのボンボン…明らかにチャラい風貌で言葉に思慮が足りない…そしてこの時間にこんな場所に居る…


明らかに内部の人間に知り合いが居て、その人間とやりとりをしている…


その時点で、関係者に金を握らせるかで、巧く餌をまいてココの鍵を手に入れたのだろう。


例えば、管理会社や経営者に―


女「…でもさァ…こんな時間にどうやって入って来たの? ライブ終わってから大分立ってるよ…? もしかして不法侵入?」


男「そ…そんな事ねーって! ホラ!鍵! オレぇ、知り合い多いんだよー!」


焦りながらも鍵をチラつかせつつ言う。


途轍もなく陳腐な揺さ振りを掛けたが、直ぐに引っ掛かった。


これで解る。


只のヤりたいだけのチャラ男だと。


内容が無く、知性皆無な言葉と会話…


どうせ金持ち大学生の道楽レベルで、"あのコ気に入った""直ぐヤれる"といった程度の浅い認識でココに来たのであろう。


男「それにさぁ? オレ、ここら辺にも、知り合い多いよ?」


強調して言う。


…それに、恐らく自分一人では何も出来なく、人と群れる事で何かを成そうとする薄っぺらいニンゲン―


だが…嫌いではない。


男「だから…良かったらさァ、この後、一緒に楽しまねぇ?」


女「…後なんて言わないでさ…今でも良くない?」


男「…え?」


その思ってもみなかった返答に困惑しつつも聞き返す。


女「別にさ…誰も居ないんだし…ね?」


そう言いながら、ベースを横に置き、片足をステージに上げ、言う。


男「い…良いの…?」


思いも寄らない返答の連続で、逆にペースを取られつつも、これからの事を想像し、男の脳内は歓喜していた。


女「その為に来たんじゃないの?」


男「そ…そうだよ…!」


そう言うと、男は女に覆い被さった。


女「ありがとう…」


興奮した男の耳元で、女がそう囁く。


男「…え?」


女「来てくれて」


その言葉が、男の聞いた最期の言葉だった。






―2015年9月9日(水)午後2時過ぎ―


―新宿区靖国通り沿い―



その日は雨だった。


季節の変わり目とはいえ、雨が降った事で、18℃という気温の急激な下降がおこり、行き交う人々は9月にまだ似付かわしくない厚手の服装をしていた。


そんな中、黒いロングのコートにフードを被り、その雑踏の中を傘もささずに歩く男がいた。


歌舞伎町の近くを通ると、パトカーが数台普通だったら通らない道を通り過ぎ、けたたましくサイレンを鳴らしていた。


報道番組の撮影や、昼のワイドショーで生放送のインタビューをしているかで、いつも以上に人混みでごった返す。


リポーターやそれを観に来た野次馬が述べた単語が耳に入る。


―干涸らびた被害者―


恐らく、最近歌舞伎町界隈で起きている事件の事だろう。


被害者が干涸らび、遺体が所々欠損している―


だが、そんな事も気にせず、その黒い格好の男は、目的地を目指し、足を進める。



―9月9日(水)午後3時―


―新宿区御苑側 骨董屋DPP―



御苑近くの裏路地、人通りが余り無いそこに、その店は在った。


店の前に着くと、コートに着いた水滴を払いながら、ドアの鍵を開ける。


余り開店しておらず、目立つ場所にはない其処は、一部の収集家や好事家(こうずか)辺りが利用するくらいで、一般客には、というより店の知名度自体が低い。


取り扱っている品も一般受けする様な物ではなく、怪しげで珍妙な物が多かった。


こんな店を利用するのは、変人か物珍しがりな観光客ぐらいだであろう。


そもそも()()()()()()()()()()、余り店が開いていない理由が、()()だった。


その店主は世界中を飛び回っており、世界中で怪異と向き合っている。


この業界では有名であり、"悪魔も裸足で逃げ出す"程のヒトらしい。


その為、日本に居ないのだ。


その店主は自分の恩人であり、()()()()()()()()()()()()()()()享受させてくれた。


それもあって、店の鍵を預かっている自分は、時折店を開いて小銭稼ぎをしている。


それでも今、その店に寄るのは、その店の奥にある資料庫から、今回の事件に関する情報を引き出す為だった。


ドアを開け、鍵を再び閉めると、薄暗い部屋をライトも点けずに足早に奥の部屋へと向かう。


その奥の部屋に、資料庫は在った。


部屋に入ると同時にオートで明かりが(とも)る。


膨大な量の資料が収められ、電子でも検索出来て、地下にも存在した。


黒い男「さっ…てと」


今回の事件に関する資料を足早に探し、携帯端末にその情報をDLする。


黒い男「…よし」


そして携帯を胸ポケットにしまうと、また足早に資料庫から出て行く。


そして、資料庫から出て行くと同時に、照明は消え、人が居なくなった店を、静寂が支配した。






―9月9日(水)午後3時半頃―


―都内某所―



薄暗い部屋の真ん中にある鉄製のデスクに椅子が二個配置されており、其処に座った青年が、ノートPCを閲覧している。


時折マウスを動かすカチカチという無機質な音が部屋に響く。


そんな中、入り口のドアが開き、階段を下ってくる音が聞こえる。


黒い男「戻った」


部屋に入ってくるなり、そう言いながらコートに着いた水滴を払いつつハンガーに掛ける。


青い男「お帰りなさい 依頼来てますよ 多分、靖国沿いで来ましたよね? それなら解ってると思うけど、今話題の()()()()()()()()()です」


そう言いながら、椅子に腰掛けた黒い男にPCを向け、画面を見せる。


黒い男「ああ…コレな 目立ち過ぎだろ コイツ」


青い男「そーなんですよねぇ 隠す気が無いのか、大胆過ぎる

こんなんじゃあ、すぐに()()()()とか()()()退()()()に狙われるんじゃないですかねー…」


黒い男「そうな…」


画面を見詰めつつそう答える。


青い男「被害者は二十代大学生で、歌舞伎町ライブハウスにて遺体で発見

遺体は水分を抜かれ干涸らびた状態、尚且つ欠損が診られます まるで囓ったみたいな

その上、白い繊維で所々覆われていた様です」


黒い男「成る程な」


冷静に答えつつPCを弄る。


青い男「で、資料はありました?」


黒い男「当然! コレな」


そう言いつつ携帯を弄り、同期したクラウドからPCに情報を落とし、画面に映す。


青い男「てコトは受けるんですね 今回は歌舞伎町商店組合からの依頼ですよ」


黒い男「りょーかい んで、コレが資料な」


そう言って、出した資料を青い男の携帯に送る。


携帯を一瞥して黒い男に向き直しながら聞く。


青い男「…そーゆー事ッスか ならどう行きましょうか」


黒い男「まーコレを使えるなー」


と言って、二丁の銃、"陰"と"陽"をデスクの上にゴトッと置いた。


青い男「ヤッパ…持ってくンスね…」


若干引いた面持(おもも)ちで答える。


黒い男「たりめーだ その方が早いしな」


そう言いつつ銃を弄る。


それはベレッタ90―TWOを改造した物であり、かなり弄ったのか大型化し、元の形状が判らないくらい変わっている。


青い男「…あのー…マジで解ってます…? 日本の法律…」


サラッとツッコミたい事、言っちゃう。


黒い男「銃砲刀剣類所持等取締法の事だろ」


サラッと返答する。


青い男「あぁ…解ってたんだ…

つか解ってンスか!? 犯罪スよ! は・ん・ざ・い!」


後半(まく)し立てる様にツッコむ。


黒い男「今回は歌舞伎町の組合からの助けもあるから、大丈夫だ」


そう言って親指を立て(サムズアップで)、言う。


青い男「あーもうこの人は…」


自分の心配を余所にその平常振り…頭を(かか)えて呆れる。


黒い男「仕方ねぇーだろ オレ等の仕事はそーゆーフツーじゃねー仕事なんだから

それに、(コレ)の事は協会に申請しているし、仕事で使い分けているし、持ち歩かない様にしてる

問題は無い」


そう言いながら銃を弄り続ける。


青い男「まぁ…そーですけど…」


この人は普段色々突っ込んだり知識豊富なのに、なんでここは流すのか…


黒い男「あ、それとな、お前もソロソロ何か覚えろ」


ゴトリとデスクの上にナックルダスターと数枚の咒符(じゅふ)を置く。


拳の部分には真言(サンスクリット文字)が刻まれており、咒符にも真言が描かれている。


青い男「はぇ? イヤ、知識は頂いてますよ? それこそー…真言とか?」


急な事に面食らいながらも後半は()()()()()()()()、苦手な真言を口にした事を音速で後悔する。


黒い男「お前真言苦手だろ」


そしてそれを音速でツッコまれる。


早い


早いよ


こういう時だけは…


青い男「…まぁ…」


言いつつ咒符を数枚とナックルを青い男が受け取る。


黒い男「あと、そーゆー(力を諦めろって)意味じゃねー 責めて身体の使い方ぐらい覚えろってこった」


青い男「ああ…そういう…」


確かに身体を動かすのも身体能力も低くはない。


黒い男「センスは無いが」


更に追いツッコミ。


青い男「ヴ…」


確かにイメージが湧かないモノは苦手だ。


特に格闘技の様な。


自分がハイキックをする想像も出来ないし、どうしたら一番良い蹴りが出せるかも想像出来ない。


黒い男「ヴ…じゃねぇ 今回のお前には必要だ」


ナックルを指で押しながら言う。


青い男「はあ…」


イマイチ言われてる事にピンと来ず、要領を得ない返答になってしまう。


黒い男「て事で、今から数時間みっちりトレーニングをしまーす」


そう言いながら、奥の部屋へ向かう。


青い男「今から!?」


黒い男「そーだよ 左右のワンツーだけだけどな

無いよりマシだし、何よりそれで制圧力は大分上がる」


そう言いつつ奥の部屋へ入り、電気を()ける。


その奥の部屋は広く、トレーニングも可能なスペースだった。


青い男「ハイ…」


重い返答と重い足取りで奥の部屋へ向かう。


その後に依頼かと…


黒い男「遅いぞー 足取り重いぞー」


その軽い言葉が、部屋全体に響いた。




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