怒った時は怖いものなし
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兵士の言葉にいち早く反応したのは、荷台に乗っていたライカだった。
「それは、どういうことでしょうか」
帽子を手で抑えたまま荷台から飛び降り、臆することなく兵士に歩み寄る。
(あ……。これは)
普段からライカに説教をされまくっている俺には、すぐに分かった。
これは、ライカがわりと本気で怒っている時の口調だ。
「私たちは勅書の指示に従い、何日もかけて大森林から王都までやって来ました。それなのに本物かどうかを見極めるとは、どういうことなのですか?」
「いえ、それはそのとおりなのですが……」
「そもそも、一方的に勇者だと認めてきたのはそちらの方です。であれば、勅書を持参した時点で、覇王丸さんが本物か偽者かを見極める必要はまったく無いはずです」
ライカの剣幕に、兵士はしどろもどろになっている。
『相変わらず、怒った時のライカちゃんは、怖いもの無しですね』
(まあ、魔王軍の司令官に逆上して襲いかかるくらいだし)
それにくらべたら、比較的温厚で話の通じる兵士など恐れるに足りないだろう。
「でもまあ、それくらいにしておこうな」
「ひゃぁ!?」
俺はライカの背後に忍び寄ると、素早くお腹に手を回して、ひょいと小脇に抱えた。
「お、下ろしてください!」
「そんなに暴れると、スカートが捲れるぞ。見られてもいいのか」
「っ!」
俺はスカートの中にしまった尻尾のことを言ったのだが、ライカは別の意味で受け取ったらしい。
ばたばたと暴れさせていた脚を、急に動かすのを止めた。
(見られたところで、かぼちゃパンツのくせに……)
『おやおや。どうやら、覇王丸さんはドロワーズの良さを理解していないみたいですね』
頭の中で変態ソムリエが朗々とドロワーズの良さを語りはじめたので、俺はそれを無視してライカを馬車の近くに降ろした。
「ライカの言っていることが正しいと思うけど、この場はおとなしくしておこうな?」
「でも、あの人たちは覇王丸さんを……」
「おとなしくしていた方が、都合が良いかもしれないんだ」
俺は声を潜めて、ライカと御者席のハウンドにだけ聞こえるように話した。
「それはどういう……?」
「あいつらの言っている剣聖が、もしかしたら、勇者なのかもしれない」
そもそも、俺が王都に行くことを決めた最大の理由が、最低でもあと二人はいることが確定している「転移によって世界を渡った勇者」に会うことだ。
「勇者に会えれば、俺の用事は終わりだ。ライカが気に入らなければ、このままとんぼ返りで大森林に帰ってもいい」
「私は、別に……」
俺に説得されて急にバツが悪くなったのか、ライカはごにょごにょと口ごもった。
「前にも言ったとおり、最終的に覇王丸さんが決めたことには、私は反対しません」
「そうだったな。ありがとう」
「もうっ。子供扱いしないでください」
頭にはキャスケットを被っているため、俺が耳を撫でるように側頭部をぽんぽんと触ると、ライカは反抗する子供のようにぷいっと目を逸らした。
拗ねたように振る舞ってはいるが、多分、これは照れ隠しだ。謝る必要はない。
俺が安心して一息つくと、
「そこにいる、デカい奴が大森林の勇者なのか?」
後ろから居丈高な声が聞こえてきた。
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