絶対に働かない人たち
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「こいつら、どうなるんだ? 魔王軍と戦うために剣聖の部隊に入るって息巻いていたぞ?」
「またか……」
俺が質問すると、兵士の一人がうんざりした様子でため息をついた。
「最近、志願兵になろうと、田舎から王都にやって来る者が急増しているのです。おおかた、人類軍が優勢であるという噂を聞きつけたのでしょうが……」
「なるほど」
どうやら、手っ取り早く勝ち馬に乗ることが目的らしい。
「魔王軍と戦ったっていう肩書きを手に入れて、田舎に凱旋しようって腹か」
「心外だ! 俺たちはそんな浅ましいことは考えていない!」
「そうだ! 剣聖様の部隊で活躍して、王都で一旗あげてやるんだ!」
二人組の男は口々に反論するが、兵士はそれに取り合わない。
「そもそも、剣聖様が率いているのは我が国が誇る精鋭部隊なのだ。農作業しかやったことのない力自慢の田舎者が易々と入れるものではない」
「力自慢の田舎者……」
なんだか、自分が馬鹿にされているような気がする。
「剣聖の部隊はともかく、志願兵になることもできないのか?」
「さすがに素人をそのまま戦場に送り込むわけにはいかないので、志願兵には最低限の訓練を積んでもらうのですが、今は王都にある訓練施設がどこも一杯なのです」
それ故に、当面は傭兵経験などのある即戦力しか募集していないのだという。
「――――だそうだ。お前ら、諦めたら?」
「そんな! 俺たちは故郷では負け知らずの強さなんです!」
「毎日、朝から晩まで二人で木剣を振っていたんです!」
「働けよ」
こいつら、もしかすると、本当に「人類軍の一員として魔王軍と戦った」という既成事実を手にするためだけに、志願兵になろうとしているのかもしれない。
「こいつら、このまま追い返されるのか?」
「実戦形式の試験を受けてもらい、即戦力以外はお引き取りいただいております」
本当は門前払いにしたいところなのだが、ごく稀に将来有望な人材が見つかることもあるため、一応、志願者全員にチャンスだけは与えられるらしい。
「――――だそうだ。よかったな。記念に試験だけは受けられるってさ」
「そんな! 俺たち、今のままでは故郷に居場所が無いんです!」
「もう、穀潰しと呼ばれるのは嫌なんです!」
「だから、働けって」
というか、周囲から穀潰し扱いされているのに、それでも毎日木剣を振り続けるこいつらの精神力が凄すぎる。
(弱いと思っていたけど、実は強いのか?)
『どうでしょうね? メンタルの強さと、フィジカルの強さは別ものですから』
そうこうしているうちに、審査待ちの行列の開始地点でもある詰め所の前に到着した。
兵士の一人が、二人組の男を詰め所の中に連れて行こうとする。
「さあ、お前らはこっちでたっぷりと説教だ」
「そんな! 俺たちも兄貴たちと一緒に連れて行ってください!」
「俺たち、兄貴の従者になると決めたんです! 従者になれば、俺たちだって客人扱いのはずです!」
「何なんだよ、お前ら」
心が強すぎる――――というか、神経が図太すぎる。
もはや、見ていて面白いという理由だけで同行を許可したいレベルだが、この二人の分まで水や食料を調達、管理するのは面倒くさそうだ。
「衣食住に自腹を切るなら、一緒に連れて行ってもいいぞ」
「そんな! 路銀も心もとないのに!?」
「俺たち、収入が無いんですよ!?」
「だから、さっきから働けって言ってるだろ!」
なぜ、こいつらの頭の中には、地道にコツコツ働くという選択肢が無いのだろうか。
俺が怒鳴りつけた時、先に戻っていた兵士が詰め所から出てきて、先導役の兵士に何やら小声で耳打ちをした。
途端に、先導役の兵士の表情が曇る。
「どうかしたのか?」
「いえ……。どうやら、この場で少しお待ちいただくことになりそうです」
「俺たちもか?」
「はい」
兵士は申し訳なさそうに頷いた。
「覇王丸様が本物の勇者であるかどうかを見極めるため、剣聖様がこの詰め所に向かっているとのことです」
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