勅書パワーを見せつける
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隔日で更新できるように頑張ります。
「あれって、この国の兵士だよな? ……もしかして、ヤバい状況なのか?」
「喧嘩だと通報されたのか、それとも、ただ単に、俺が獣人だから通報されたのか……」
いずれにしても、良い状況ではなさそうだ。
「逮捕されて、そのまま牢獄ってことはないよな?」
「それはさすがに無いだろう。厳密には、此処はまだ都の中じゃないし、そもそも割り込んだ連中を追い払っただけだし……」
問題は、相手の喉仏をぐりっと押し込む行為が、暴行と判断されるかどうかだ。
『傍目には、首を絞めているようにも見えますからね』
それに、さっきの二人組が言っていたことが本当ならば、ハウンドが獣人だというだけで、こちらにとって不利な判断をされる恐れもある。
「ライカ、帽子を取るなよ?」
「は、はいっ」
俺たちは警戒の度合いを高めて、兵士たちを待ち構えた。
*
「失礼します」
兵士の一人が敬礼と同時に、俺に話しかけてきた。
やって来た兵士は三人。軽装備ではあるが、当然のように全員が武装している。
(短めの外套と、革の鎧と……後は剣か)
多分、共通の装備が、制服の役割を果たしているのだろう。
「この場所で、割り込みと喧嘩があったと通報を受けたのですが」
「割り込みはあったが、喧嘩はしていない。割り込もうとした連中は、俺が追い払ったから、列の最後尾に並んでいる」
道づれとばかりに二人組の男のことを告げ口すると、兵士の一人が列の後方に歩いて行った。
一方、残った兵士たちは、俺を横目で見ながら、何やら小声で耳打ちをしている。
「――――お名前を伺ってもよろしいですか?」
「覇王丸だ」
俺が名乗ると、兵士たちの表情がより真剣なものに変わる。
「陛下の勅書をお持ちですか?」
「あ、持っているぞ」
ようやく、状況を把握できた。
どうやら、この兵士たちは、事前に俺に関する情報を知らされているらしい。
俺は荷台にいるライカに頼んで、荷物から勅書を取り出してもらった。
「これだ」
ライカから受け取った勅書を手渡すと、兵士たちは真剣な表情でそれに目を通し、先程とは異なる洗練された動きで、改めて俺に敬礼をした。
「失礼いたしました。王城までご案内いたします。どうぞこちらに」
「馬車のまま移動してもいいのか?」
「勿論です」
先導する兵士の後に続くように、ハウンドが馬に指示を出す。
ハウンドの話では、馬車馬のハックとヤマダは、こちらの命令を正確に理解する能力がかなり高いらしい。
今も、お互いにぶつからないように、しかも、後ろの荷台のことも把握しているような動きで馬車を方向転換させている。
周囲の注目を集めながら、俺たちが列の後方に歩いて行った兵士を待っていると、見覚えのある顔が二人ほど、兵士に連れられて戻ってきた。
「よう。また会ったな」
「あ! てめぇは!」
「兵士さん、あいつだよ! あいつが無抵抗の俺たちに暴力をふるったんだ!」
俺の顔を見るなり、二人組の男は厳しい口調で俺を責め立てる。
当然、俺を先導する兵士の表情が険しくなった。
ちなみに三人目の兵士は、俺のことを報告するため、一足先に詰め所に戻っている。
「お前たち、このお方たちは国王陛下の勅書を持つ客人だ。知らぬこととはいえ、無礼な口を聞くのであれば、詰め所で説教をするだけでは済まなくなるぞ」
「いっ!?」
「勅書? こいつ……いや、このお方が?」
二人組の男は一瞬で態度を豹変させると、流れるような美しい動作で地面に土下座をした。
「お許しください!」
「申し訳ありませんっした!」
この間、僅か一秒。
(こんな綺麗な土下座、初めて見た)
『これは玄人ですね』
暴力からは逃走し、権力には迎合する。
つい先程まで魔王軍と戦うために志願兵になるのだと放言していたことに目を瞑れば、これも一つの処世術だと言うことができる。
「面白いから許してやる」
「ほ、本当ですか!?」
「兄貴と呼ばせてください!」
「それは断る」
俺は首を横に振った。
十歳以上も年上であろう男たちから、兄貴とは呼ばれたくない。
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