王都エードラムに到着
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
その後はトラブルもなく、大森林を出発してから六日目、俺たちはアルバレンティア王国の王都エードラムに到着した。
さすがに都を名乗るだけあって、とても大きい。
遠くの小高い丘の上にオターネストのような城壁に囲まれた区画があり、俺たちは城壁の外側に広がる裾野の町の、更に端っこにある都の入口でそれを眺めている。
「城壁の内側は、貴族とか、商人とか、比較的裕福な連中が暮らす区画で、城壁の外側はその他の市民が暮らす城下町って感じだな。都市の人口がどんどん増加した結果、城壁の外側にも町が広がって、こうなっちまったらしい」
オット大陸でも一番大きな都市なのだと、ハウンドが説明をする。
「はぁ……。広いですね。何人くらい人がいるんでしょうか?」
「一万人くらいはいるんじゃないか?」
「そんなにたくさん? 私、もし、この町に住むことになっても、全員の顔と名前を記憶する自信がありません……」
「別に覚えなくていいと思うぞ」
俺とライカが幌から顔を突き出して、田舎者丸出しの会話をしていると、馬車はのろのろとスピードを落として、道の端で停まった。
「どうしたんだ?」
見たところ、都の入口に設置された建物から伸びる行列の最後尾に並んだようだ。
「あの建物は詰め所だ。大量の荷物を持ち込む行商とか、俺たちみたいに素性の怪しい奴は、此処で審査を受けるんだよ」
「入国審査か」
あるいは警察官の職務質問みたいなものかもしれない。
「道を迂回して、こっそり入ることはできないのか?」
「お尋ね者や、見られたくない荷物を運んでいる連中はそうするだろうな。でも、後ろめたい理由が無いのなら、やらない方がいい」
入口で審査を受ければ、地球でいうところのビザのような滞在許可証が発行され、書類にも記録が残るらしい。
もし、滞在中に何らかのトラブルを起こしたり、あるいは巻き込まれたりした場合に、これらの書類が有るのと無いのとでは、扱いに天と地の差が出るのだそうだ。
「こっそり入国した不審者と、ちゃんとした許可証を持っている旅行者なら、どっちを信用するかって話だよ。……特に俺たちは、面倒事に巻き込まれやすいだろうからな」
見てみろ、と。
ハウンドがうんざりした様子で合図を送ってきたため、街道に目をやると、行き交う通行人の殆どがハウンドを怪訝な目で眺めていた。
「こんなの、俺はもう慣れたけどな。ライカはあのデカい帽子を被っておいた方がいい」
「でも、それだとハウンドだけ……」
「俺は慣れたって言ってるだろ。それに、お前くらいの歳の獣人の女は、特に気をつけた方がいいんだ。下手をしたら攫われるからな」
「っ!」
サルーキに攫われた時のことを思い出したのか、ライカの顔色が一瞬で青ざめたので、俺は頭にキャスケット帽を被せて、無理やり獣の耳を隠した。
そのまま尻尾も掴んで、スカートの切れ込みの中に突っ込もうとする。
「ひゃあ! な、な、何をするんですか!」
「いたっ!」
また、ビンタをされた。
頭の耳は触っても怒らなくなったライカだが、尻尾の方はまだガードが固い。
「い、今、スカートの中に手を……!」
「尻尾を中に入れようとしただけだろ。尻に挟んでおけ」
「覇王丸さんのエッチ! もう知りません!」
ライカはぷいっと顔を背けると、荷台の隅っこで毛布を頭から被り、不貞腐れてしまった。
怒ってはいるものの、外に飛び出さないだけの自制心はあるらしい。
「またかよ……」
ハウンドが呆れた様子でため息をつく。
「ちゃんと謝っておけよ?」
「分かった。……ちなみに、尻尾を触るのって、耳を触るのとは意味合いが違うのか?」
「家族のスキンシップと恋人の愛撫くらい違う」
「ちょっと土下座してくるわ」
知らぬこととはいえ、もう少しで性犯罪者の仲間入りをするところだったらしい。
(せいぜい軽いセクハラ程度だと思っていた。異文化コミュニケーションって難しいな)
『異文化じゃなくても、女性のスカートに手を突っ込むのはアウトですからね?』
俺は荷台の床に頭を擦りつけ、ライカが根負けして毛布から顔を出すまで、土下座の体勢を維持し続けた。
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