王都への旅路
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
旅は思いのほか順調だった。
大森林を抜けた後は、川沿いにオターネストとは逆方向に進み、東部戦線を大きく迂回しながら東にある王都を目指す。
ハウンドが妙に旅慣れしており、また、なぜか土地勘もあったため、何かと任せきりになる場面が多くあった。
「ボルゾイと会うまでは、傭兵まがいの仕事をしながら、大陸のあちこちを転々としていたんだよ。俺たちのいるオット大陸は、魔王軍に支配されたトレンタ大陸に比べると、獣人の数が少ないからな。だから、どうにも立場が弱い。まともな職になんか就けないのさ」
二日目の夜、川で獲った魚を焼いて食べている時、ハウンドはそんな話を切り出した。
トレンタ大陸には、獣人が治める国も存在するのだという。
「そこの王様が獣王なのか?」
「そうそう。あっちは獣王のお膝元だから、俺みたいに獣の血が濃い獣人の数も多いんだ。ボルゾイと会わなかったら、俺もトレンタ大陸に渡っていたかもしれないな」
「もし、そうなっていたら、最初から俺とは敵だったな」
「そうかもしれないな。……いや、お前が敵とか、考えたくねぇわ」
ハウンドは黒猫(豹)らしく魚を骨ごと豪快に咀嚼して、ぺロリと食べてしまった。
「変な話をしちまったな。ただ、こっちの大陸では、多分、お前が思っている以上に獣人への風当たりは強いから、そのへんは覚悟しておけよ」
「覚悟って何だよ」
「俺はそのへんのことを知っているし、慣れているけど、お前らは違うだろ? 俺やライカが人間からそういう対応をされても、揉め事を起こすなよって言っているんだ」
ボルゾイの言葉に、俺の隣ではむはむと魚を食べていたライカの獣耳がピクリと動いた。
「どうかしたか?」
「え? な、何がですか? 別に何でもないですよ?」
気にしないでください、と。
ライカは、俺から目を逸らして食事を再開したが、肝心の獣耳は警戒するようにピンと立ち上がっている。
聞き耳を立てているのがバレバレだ。
(獣人って、耳と尻尾の動きに注意していれば、だいたい感情が読めるんじゃないか?)
『ここまで分かりやすいのは、ライカちゃんだけだと思いますけど』
素直で正直なのはライカの長所だが、単純となると話は別だ。
このままだと、この先いろいろな場面で損をしそうなので、尻尾と耳を動かさないように会話をする訓練をした方がよいのかもしれない。
ハウンドも、ライカの獣耳を興味深げに眺めていたが、すぐに話を戻した。
「――――まあ、俺が言いたいのは、そういうことだ。獣人がらみの安い挑発に乗ると大事になるかもしれないから、相手にするなってこと。分かったか?」
「分からない」
「……お前さぁ」
「ライカやお前のことを馬鹿にする連中がいたら、もう、そいつらは敵でいいよ」
俺がきっぱりと断言すると、ハウンドは狐につままれたような顔をした。
「俺も? ライカだけじゃなくて?」
「当たり前だろ。ライカが馬鹿にされたり、お前が殺されたりしたら、さすがの俺も怒る」
「……それ、もう少し早く怒ってくれれば、俺も死なずに済むんじゃねぇの?」
ハウンドは妙に納得した様子で大きくため息をつき、魚を串刺しにしていた木の枝を焚火の中に放り込んだ。
『でも、心配ですね。オターネストを占拠した魔王軍のせいで、獣人に対する風当たりは強くなっているかもしれませんし』
(そうだな。王都に行く前に、この国の人間の獣人に対する反応を、ちょっと見てみたいな)
俺も魚を平らげて、魚の骨ごと木の枝を焚火に放り投げた。
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