ハックとヤマダ
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
「この馬車を使えるなら、荷物を多めに持っていけるな」
「そうですね。着替えと、食べ物と、水と……。雨風を凌げるので助かりますね」
ライカは馬の首を撫でながら、早くも持って行く荷物を指折り数えている。
昨夜は、自前の鞄に着替えが入り切らないと頭を抱えていたので、嬉しいのだろう。
「覇王丸さん、この子たちに名前を付けてあげませんか?」
「馬にか?」
「はい。だって、これから重い荷物を運んでもらう大事な仲間じゃないですか。名前を付けてあげたいです」
「仲間ねぇ……」
馬車馬だから、仲間というよりは奴隷のような気がするのだが……。
(これは言ったら怒られそうな気がするから、黙っておこう)
最近は、俺も学習するようになってきたのだ。
『でも、覇王丸さんがそのへんの気を遣うのって、ライカちゃんだけですよね?』
(ライカは、怒ると口をきいてくれなくなるからな)
ボルゾイならそもそも怒らないし、ハウンドやおっさんは怒らせたところで次の日になればケロッとしている。
だが、ライカだけは「謝るまで許さないぞ」という感じで、あからさまに不機嫌になるので、結局、俺が頭を下げる羽目になるのだ。
まあ、だいたい俺が悪いのだが。
「まあ、いいんじゃないか。名前、付けてやれよ」
「それじゃあ、この子の名前はハックにします」
ライカは二頭うち、顔の正面の毛が白い点になっている方をハックと名付けた。
「それじゃあ、こっちはハック二号にしよう」
「えぇ……」
俺が顔のマーキングがないもう一頭の首を撫でながら言うと、ライカは露骨に嫌そうな顔をした。
「それじゃあ、この子たちのことを、一号、二号って呼ぶことになっちゃいます。できれば、ちゃんと名前で呼んであげたいです」
「じゃあ、ヤマダにしよう」
『おいっ!』
当然、頭の中に響く抗議の声は無視をする。
「ヤマダ? 珍しい名前ですね?」
「俺の故郷では、ありふれた名前だぞ」
「そうなんですか。じゃあ、この子がヤマダで、この子がハックですね」
ライカはご満悦な様子で、ヤマダとハックに「よろしくね」などと笑顔で話しかけている。
馬の方もライカを警戒している様子はまったくない。
(動物に懐かれる才能でもあるのか?)
『元々、早馬だから、人に慣れているんじゃないですか? それよりも、馬の名前、どうしてくれるんですか!』
(そんなに怒るなよ。ライカに名前を呼んでもらえるんだからいいじゃん)
『……』
沈黙しやがった。
言われてみれば悪くないかも……とか、考えているに違いない。
「……なぁ、ライカ。ヤマダとハックって、どっちがカッコいいんだ?」
『っ!』
「そうですね。ハックは星があるから可愛いけど、ハンサムなのはヤマダの方ですね」
『よっしゃぁぁぁぁ! 勝ったぁぁぁぁ!』
轟沈させてヘコませるつもりが、歓喜の雄叫びを上げさせてしまった。
(そんなに喜ぶなよ……)
『ふっ。負け惜しみですか? 男の嫉妬は見っともないですよ?』
(別に俺が負けたわけでも、お前が勝ったわけでもねーだろ)
『~♪』
(むかつく……。鼻歌やめろ!)
その後、俺たちは荷台に積み込む物をリストアップして、出発の日までに山賊小屋まで運ぶ段取りを決めた。
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