大森林に平和が戻る
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「次に二つ目だが――――それは、この者から報告させようか」
「はっ」
ボルゾイが目配せをすると、俺を此処まで案内した森人が、一礼して前に進み出た。
「この場を借りて報告いたします。魔王軍に占領され、前哨基地として利用されていた私たち森人の故郷についてですが――――覇王丸殿の助言に従って監視を続けていたところ、本日の夕刻、駐留していた魔王軍の撤退を確認いたしました」
森人の報告を受けて、周囲から「おお」と小さな歓声が上がった。
「魔王軍の連中、帰ったのか。随分、早かったな」
「はい。すべて覇王丸殿が予想したとおりになりました」
そう言うと、森人は深く頭を下げて、感謝の意を表した。
「やめろよ。別に俺が追い払ったわけじゃないだろ」
間接的な原因を作ったのは俺かもしれないが、そんなことでいちいち感謝されていたらきりがない。
「こっちから、ちょっかいを出したわけじゃないんだよな?」
「はい。遠方からの監視に留めておりました」
だとしたら、やはり、オターネストから帰還命令が出たと考えるべきだろう。
随分と早い対応だが、そうでなければ、被害が出ていないのに前哨基地を放棄する理由が無い。
いずれにしても、魔王軍は大森林の攻略から手を引いたと考えてもよさそうだ。
「それじゃあ、この集落も安全ってことだな?」
「うむ。当座の危機は去ったと考えていいだろう」
俺の問いかけにボルゾイが頷くと、今度は周囲からどっと大きな歓声が上がった。
安堵のあまり、その場に座り込んでしまっている者もいる。無理もないことだ。
殺されるかもしれない。
連れ去られるかもしれない。
家族と引き離されるかもしれない。
そんな、幾重もの不安から一気に解放されたのだから。
「――――やはり、君たちは故郷に帰るのかね?」
喜び合う集落の住人を見つめながら、ボルゾイが森人に尋ねる。
森人はほんの一瞬だけ憂いを帯びた表情を浮かべたものの、すぐに首を横に振った。
「いずれは――――と考えておりますが。なにぶん、元の生活に戻るには、私たちは数を減らしすぎました。ご迷惑でなければ、もうしばらくこの地で暮らしたいと考えているのですが」
「迷惑だなどとは考えていない。君たちさえよければ、いつまでもいてくれて構わない」
「ご厚意、感謝いたします」
森人は心から感謝した様子で、ボルゾイに黙礼した。
「元の暮らしに戻ることはできませんが、近々、生き延びた同胞を連れて、故郷の様子を見に行くつもりです。多くは農奴として連れ去られましたが、魔王軍に抵抗して殺された同胞もおりますので、せめて弔ってやろうかと……」
「そうか、人手が必要なら、集落の者に声を掛けてくれ。皆、協力してくれるだろう」
「力仕事があるなら、俺も手伝うぞ」
「……っ。ありがとうございます」
森人は声を詰まらせて、もう一度、深く一礼した。
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