感謝の気持ち
きりのよいところまで毎日投稿できるように頑張ります。
飯を食べた後は、この家の主人に持ってきてもらった水桶で体の汚れを拭き、余ったという回復薬で左腕の怪我を治療し、用意された清潔な服に着替えて、更に待たされた。
(なんだか、露骨すぎるくらいVIP待遇になっている気がする)
この家も、俺の家ではないのに、ご自由にお寛ぎください状態だ。
どうしたものかと思って、山田に話しかけてみるが、返事は無かった。
どうやら、昨日に引き続き、定時で帰宅したようだ。
(あの野郎……。サボってやがるな)
それから更に待つと、森人が迎えにやって来た。
「お待たせしました。こちらにどうぞ」
森人の後に続いて、ライカの家――――ではなく、隣接した集会所の方に入る。
そこには、ボルゾイとライカをはじめ、集落の要人と顔見知りの獣人が、所狭しと俺を待ち構えていた。
「来たか。覇王丸」
部屋の中央に腰かけていたボルゾイが、ライカの手を借りて椅子から立ち上がった。
「もう、起き上がっても大丈夫なのか」
「ああ。君が持ち帰ってくれた回復薬のおかげで、かなり良くなったよ。君の方こそ大丈夫かね? 左腕で剣を受け止めたと聞いたが……」
「止めた。俺は骨が丈夫だから平気だった」
「無茶なことをするものじゃない……と、言いたいところだが。娘を助けてもらった後では、そのような説教を言うわけにはいかないな」
ボルゾイは苦笑いを浮かべて、隣に立つライカの頭を撫でた。
よく見れば、ライカも清潔な服に着替えている。まあ、当然と言えば当然だが。
「とにかく、君には礼を言わねばならん」
そう言うと、ボルゾイはつかつかと俺の前まで歩み寄り――――その場に跪いた。
「おいっ」
ボルゾイに続いて、ライカも、要人の森人も、気が付けば室内にいる全員が、まるで臣下か召使いのように、俺に向かって跪き、頭を垂れていた。
「ありがとう。魔王軍から娘の命を守っていただき、ひいてはこの集落を存亡の機から救っていただき、深く、深く感謝申し上げる。我ら一同、決して揺らぐことのない全幅の信頼を以って、この恩に報いることを此処に誓おう」
「分かった。分かったから、もういいぞ」
「そうかね?」
あまりの居心地の悪さに俺が白旗を上げると、ボルゾイはあっさりと跪くのをやめて、立ち上がった。
「私としては、君に忠誠を誓ってもよいくらいだったのだがね。立場もあるので、さすがに止められたが。でも、それくらい感謝をしているのは本当だよ」
「今までどおりに接してくれればいい。いきなり畏まられても困る」
「そうか。では、そうさせてもらおうか」
ボルゾイは座っていた椅子まで戻り、再びライカの手を借りて腰掛けた。
やはり、回復薬を使ったとはいえ、肩口をざっくりと斬られた傷が完治するには時間を要するのだろう。
「さてと。積もる話や武勇伝は、後でゆっくり聞かせてもらうとして――――覇王丸、今から君に、三つほど話しておきたいことがある」
「手短に頼む」
「……うむ。そうだな。では、できるだけ手短に話そうか」
君はそういう奴だった、と。
ボルゾイはため息をついてから、話し始めた。
「まず、最初に確認させてもらうが。君はオターネストに向かう際、この世界を平和にすることが目的だと――――そのために魔王を倒すと、我々の前で公言したことを覚えているかな?」
「ああ。覚えている」
「それは、今も変わらない、本気の言葉だったと受け取ってもよいのだろうか?」
「別にいいぞ」
俺が頷くと、ボルゾイも納得したように頷いた。口元が笑っているように見える。
「そうか。分かった。それでは、今、この瞬間より、我々は君の同志になろう」
「同志?」
「言葉通りの意味だ。我々は君が成し遂げようとしていることを全面的に支持し、協力する。君さえよければ、この集落を活動の拠点として自由に使ってくれて構わないし、何か必要な物があれば、無理の利く範囲で用立てしよう。勿論、人手が必要な時は声をかけてくれ。対価や見返りは一切不要だ」
ボルゾイは何でもないことのように言うが、これはかなり凄いことだ。
百人規模の獣人のコミュニティが、まるごと俺の後ろ盾になってくれたことになるのだから。
「マジでか」
「マジだとも。これは私の独断ではなく、集落の総意だと思ってくれて構わない」
ボルゾイの言葉を肯定するように、近くに立っている森人や獣人が、無言で胸に手を当てて俺に目礼する。
なんだか、胸にこみ上げるものがあった。
「そうか……。うん、それは助かるな。ありがたいことだ」
だが、同時に後ろめたい気持ちも湧いてくる。
俺はまだ自分の素性について、すべてを包み隠さずに話していないからだ。
(でも、話したところで、信じてもらえないだろうしなぁ……)
信じてもらえないというよりは、理解してもらえないというべきだろう。
特に山田のことを話そうものなら、精神を病んでいると思われてしまう可能性すらある。
(肝心の山田も、今はいないし……)
俺は悩んだ挙げ句、ひとまず保留にすることにした。
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