ボルゾイを泣かせよう
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集落に戻ってからは、大混乱だった。
ライカはあっという間に取り囲まれて、その場は泣き声と笑い声の大合唱になった。
老人たちは涙を流し、大人たちは相好を崩し、子供はライカに纏わり付いてはしゃいだ。
俺は全員から何度も頭を下げられ、握手を求められ、感謝された。
「ありがとう」
その言葉が、魔法のように心に染み込んだ。
俺はオターネストから持ち帰った二十本ほどの回復薬を要人の一人に渡すと、ライカの手を引いて、祝福の輪の外に連れ出した。
ボルゾイに会いに行くぞ――――と。
それだけで、集落の皆は笑顔でライカを送り出してくれた。
既に、第一報は届けられているだろう。
集落で一番、ライカとの再会を待ち望んでいる奴が、ベッドから抜け出すことができずに、部屋の扉が開くのを今か今かと心待ちにしているのだ。
想像すると、間抜けすぎるし、気の毒すぎる。
俺は見慣れた家の前で立ち止まり、ライカの肩に手を置いた。
「一人で行って来い」
あいつは里長だから。
俺たちがいると、きっと、泣くことができないから。
ボルゾイを泣かせてこい、と。
冗談交じりに、笑って、言った。
ライカは既に半泣きで、顔をくしゃくしゃにして「はい」と頷いた。
家の中に駆け込むライカを見送った時、ようやく、肩に圧し掛かっていた重圧や、緊張や、覚悟が、一気に抜け落ちたような気がして、俺はその場に座り込んだ。
『お疲れさまでした。大仕事でしたね』
(まったくだ)
『これだけ頑張ったんですから、世界情勢もきっと変わると思いますよ。早速、チェックしてみますから、覇王丸さんはゆっくり休んでください』
(休むも何も、今は家の中に入れないだろ)
今頃はきっと、ライカも、ボルゾイも、大泣きだ。
そんな現場に乱入して「ちょっと隣のベッドをお借りしますよ」なんて、いくら俺が空気を読まない人間でも、できるはずがない。
(……もういいや、此処で)
俺は大きく伸びをすると、まるで仕事をさぼっている門番のように、玄関先に座り込んだまま居眠りをはじめた。
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